第17話:兄妹と救出と魔人去る
「へぇ、思ったより早く着いたわねぇ」
士と加賀美に向かって、白木は感心する様な口調で言葉を紡いだ。二人はそれぞれ、マウンテンバイクとロードバイクから降りておる。
「ハァ、ハァ……ッ!! ご、五時間、かっ……!」
それに対し、加賀美が腕時計にチラリと目を遣り、絞り出す様に返事をする。
「い、意外と掛かったな」
一方の士はというと、まだ余裕がある。汗こそ掻いておるが、呼吸は乱れておらぬ。
「クソッ……なんで僕まで……」
今、漸く追い付いた天道は、少しヨタ付きながら降車。巻き込まれた愚痴を零す。
「三人共お疲れさま」
「こちらをどうぞ」
そう言って美輝と深雪が手渡したのはスポーツボトル。それを受け取った男子三人は即座に喉の渇きを潤し、同時にミネラル分や糖分を補給する。中身は常温のスポーツドリンクであった。
(百四十kmを五時間か。二人ともスゲェな)
合間合間に小休止を挟んではおるが、中々の記録である。常日頃から鍛えておるのであろう。それぞれ登山とツーリングでな。
「な? イロイロ買っといて良かったろ?」
加賀美が士に話を振る。これは、自転車を買い求めた時オプションとして薦められた水筒やサドルバッグの事を示唆しておる。この問い掛けに、士は適当に言葉を返した。
「へぇーへぇーそうですね」
我々は今、静岡県は伊豆に訪れておる。先日の約束通り、学校の創立記念日によって出来た三連休を利用して深雪の別荘にお邪魔する為だ。ただし、男女で交通手段が異なる。士・加賀美・天道の男子三人は、前二人が購入した新車の試乗と練習も兼ねて自転車で。他方、美輝・深雪・白木の女子三人は、深雪の兄である駿が運転する自動車で此処へ来た。
「まぁ、良い運動にはなったな」
「あ、ああ……い、良い練習になった」
士と加賀美はプラス思考。その反面、天道は不満がある様子。
「だ、だからって、なんで、僕まで付き、合わされなきゃ、い、イケないんだ?」
彼は加賀美のお古であるマウンテンバイクを借りた。自転車を持っておらんそうだ。彼はそれを押しながら文句を垂れる。疲労故に台詞も途切れ途切れだ。
「お前なぁ、女子三人に囲まれるなんて状況にさせるワケねぇだろ」
「そうだ、不公平だ」
物凄く不純な動機からであった。正当な理由を挙げるとすれば、単純に定員オーバーだ。駿の自動車は四人乗り。後部座席に詰めて乗車したとしても五人なのでな。両手に花の状態にする事に我慢ならんかった、という訳である。
「いや、まぁ、君らの気持ちも分からなくはないが……」
「じゃあ良いじゃねぇか」
その様な会話を交わしつつ、三人は別荘の隣の駐車場に自転車を停めに行く。其処に、深雪が優しく声を掛けてきた。
「もうすぐお昼ですから、先に汗を流していらっしゃいな」
三人は日が昇ると同時に出立し、今は昼頃。ほぼ持続して肉体を酷使した結果、もうヘトヘトだ。道中で水分やエネルギー源その他は補充したが、それにも限界がある。同じ理由で、発汗によって服も体もベトベトだ。温かい湯に全身を通して休ませたい、と考えるのは当たり前である。女子達が作った料理を腹一杯に食べたいと思うのも、また当然だ。
「荷物はもう部屋に運んであるから」
追加で美輝がそう言うと、三人は続々と彼女に礼を述べた。主要な荷物だけは彼女等と同様、車に乗せて貰っておったのだ。
「ここは温泉が湧いてるから、ゆっくり疲れを癒してきてね」
士達が謝意を示した後、再び美輝が声を発した。それを聞いた三人の心を、歓喜の念が一気に占領する。伊豆と言えば温泉。温泉と言えば伊豆。関東圏に住む人間ならば、大抵の者がそう主張するであろう。
「温泉かぁ~。カラダ動かした後だからさぞかし心地良いんだろうなぁ~」
士の言う通り、疲労困憊の肉体で真っ昼間から入る温泉が快適である事は想像に難くない。
「ああ。至福の時を過ごせそうだな」
「混浴だともっと良いんだけどな」
「「ハハッ、たしかに」」
士と加賀美と天道は、上機嫌で風呂場へ直行した。此処には露天風呂もあるらしく、三人は其方へ足を向ける。曰く『雰囲気が出る』『得も知れぬ解放感がある』との事だ。
一風呂浴びて身も心もサッパリした後は、女子三人が拵えた料理を頂く。美味だが、これがメインではないと言う。白木の弁を借りるならば、『夕飯を楽しみにしていてください』との事だ。
「そういえばさぁ、伊豆って温泉以外に何があんの?」
白木はおかわりを要求した天道の茶碗に御飯を装いながら深雪に尋ねた。
「そうですわねぇ、観光客の目当ては大半が温泉ですが、それ以外にもいくつかございます。食べ物ならワサビやシイタケ、牡丹鍋が名産品と呼ばれていますね。それに小説の舞台にもたくさんなっております。あとは、浄蓮の滝が有名ですね」
白木はそう返答し、『どれも温泉とセットであることが多いですが』と続けた。
「あー、それなんか歌で聞いたことあんな」
彼女の解説に、加賀美には何か思い当たる節がある様だ。
「確か、その歌碑が建ってるんだっけ?」
士も耳にした事がある模様。聞きかじった程度だが。
「はい、滝の傍にありますよ。そうですわ! せっかくですので食事が終わったら皆で見に行きませんか?」
彼の滝は、この付近有数の観光名所だ。行かぬという選択肢はない。是が非でもこの目に焼き付けておきたい。士は心底そう思った。
「良いね、それ。ここから近いの?」
それが通じたか否かは定かではないが、光は白木の提案に賛成。同時に此処からの距離を訊いた。
「徒歩ですと一時間弱かかりますわ」
「クルマ出そうか?」
咀嚼中であった物を飲み込み、間髪入れずにそう申し出てくれた駿。だが、士達はそれを丁重に断り、歩いて行く事に決めた。
○●○●○
風白兄妹の別荘を出発して約一時間半、件の滝に到着。食後の散歩がてらユルリと赴いた為、予想以上に時間を要した。しかし、その甲斐はあった。木々の隙間から覗く光景が、僅かな倦怠を何処かに吹き飛ばしたのだ。長い下り坂に注意を払いつつ、一行は滝壺まで歩いて往く。
「「「「「おお~っ!」」」」」
そして誰からともなく滝を見上げると、深雪以外の口から一様に溜息が漏れる。彼女はもう何度も観た故、感動はあまりないそうだ。ただ、友人達と一緒に来られた事は別らしく、その顔には微笑みが浮かんでおる。
「幽玄にして華麗とは聞いていたが、その言葉に偽りなしだな」
六人を代表して天道が感想を口にした。他の者達も概ね似た様な心境であった。
「マイナスイオンたっぷりねぇ~」
「ええ、心が落ち着くわ」
「ここまで自転車で来た価値あったな」
「ああ。お釣りがくるくらいにな」
皆は暫くボーッと水が落ちる様を眺めて、またはその轟きに耳を澄ましておった。
(ヤベ。もう飽きてきた)
士とほぼ同じタイミングで、他の五人も次第に興味を削がれていった。
「もうそろそろ帰りましょうか。夕食の準備もございますし」
まるで機会を見計らったかの如く、深雪がそう提言。全員それに同意し、歌碑をサッと見てから帰路に就いた。
「うっ……?!」
ところが、登り坂のド真ん中で、小さい呻き声が皆の鼓膜を揺らした。発信源は加賀美だ。彼は頻りに首筋を擦っておる。
「どうした?」
「……いや、なんでもない」
本人の言う通り、出血もなく体調に変化が起こった様子もなかった。故に、彼が再び足を動かした時、誰も止めはせんかった。
(うなじに痛み?)
加賀美の様態を観察する士の脳内で、得体の知れぬ何かが蠢く。しかし、それは瞬く間に忘却の彼方へと消え去った。
(まぁイイか)
正確には“押し遣った”と言うべきか。まあ、此奴の本能が取るに足らぬ事であると判断したのだ。我も気にせんでおこう。
再度、別荘へと歩き出した一行。その途中で近辺に在る土産屋に立ち寄った。この辺りの名物である、自宅へ持ち帰る用の山葵を士が買いたがった為だ。
(あいつらにも買っていってやるか。ワサビなんかまだ食ったことねぇだろ)
それだけではなく、今日この地に来ておらぬ三人組への土産も兼ねておる。多分に嫌がらせも含まれておる事は言わずもがな。
「でしたら、兄様にも何か買っていきましょうか」
深雪はそう呟くと、此処の特産品を使った地酒やビールを手に取った。他の者達もそれぞれ商品を手にし、それ等を精算して店を出た。そして行きと同じ道を、先程よりも少しユッタリとした歩調と速度で帰る。
「おかえりー」
帰宅すると、リビングで駿が出迎えてくれた。彼は床に胡坐を掻いておる。その前には新聞紙が広げられ、その上には幾つもの部品が無造作に置かれておった。我々が扉を開けると、彼はその内の一つを弄っておる最中であった。
「何してるんですか?」
質問したのは加賀美。駿はそれに素っ気なく返答。
「猟銃のメンテナンスだ」
「兄様は猟が趣味なんです。あ! ちゃんと免許は持っていますよ」
すかさず深雪が補足を入れる。という事は、彼の年齢は最低でも二十歳を超えておるな。
「どこに行っていたんだ?」
「浄蓮の滝です。こちらはお土産ですわ」
深雪はそう言って、先刻購入した酒類を買い物袋から出して見せた。すると、駿が今までとは打って変わって破顔一笑した。
「おおっ!! ここのヤツはまだ飲んだことないんだよなぁ~!」
彼は咄嗟に起立し、妹に駆け寄った。食い付き方が尋常ではない。無類の酒好き、といったところか。これで彼に対する印象がガラリと変わった。
「兄様、これから夕飯の用意をしますので、それはもう片付けてくださいな」
「ああ、ちょうどいま終わったところだ」
彼は妹から受け取った酒瓶を抱えつつ、表情を元に戻して淡々と言い返した。それと同時に座り込み、慣れた手付きで銃を本来の形に組み立て直していく。因みに、ライフル銃と散弾銃が一挺ずつあった。横目でチラッと見ただけである為、メーカーや名称までは分からぬ。
「それが終わりましたら兄様も手伝ってくださいね」
その頭頂部に深雪が声を打つけた。
「はいはい、分かっているとも」
此方を向きもせず、手だけ振って“了解”の合図を出した。程無くして組み直しは終了。銃を所定の場所に据え、キッチンに入って行く。
「では、早速はじめましょうか」
兄と並び立ち、深雪はそう宣言。それを皮切りに、兄妹は夕餉の仕度に取り掛かる。今晩のメインメニューは、牡丹鍋と刺身の盛り合わせだ。
勿論、士達も手伝いを申し出たが、五人は“客”という扱いで此処に宿泊する。故に、その様な作業はさせられぬとの事。その為、食器類を机上に配置する程度に止まった。
「腕が鳴りますわ」
深雪が鍋に使用する猪を前に腕捲りをする。何でもこれは、駿が先日あの散弾銃を用いて実際に狩って来た物だそうだ。今は狩猟の時期ではないが、駆除の依頼があったらしい。既に血を抜き、皮も剥き、内臓も取り出してある。下処理は済み、熟成も良い具合に進んでおる。後は捌くだけだ。
「じゃあ、俺はこっちだな」
駿がそう意気込んで冷蔵庫から取り出したるは十数尾の魚。種類も複数ある。此方は、我々が滝を観に行っておる間に買って来たそうな。今朝、近隣の港で揚がったばかりの代物なので新鮮だ、とも言っておった。
(音を聞いてるだけで美味そうだ。匂いもしてきた。あ~っ、早く食いてぇ~っ!)
大体その様な分業で、どの食材も涎が出る位に見事な料理へと姿を変容していった。兄妹揃って手際が良い為、ものの数十分で調理は完了。他の五人でそれ等を食卓に運んで置く。準備は整った。残るは食すのみ。
『頂きます』の挨拶と共に、殆どの者が箸を掴む。ある者はそれを刺身に伸ばし、別の者は菜箸を鍋に突っ込む。酒をコップに注ぐ者や、山葵を己の皿に盛る者も居る。晩餐の開演だ。
(思った通り、いやそれ以上の美味さだ!!)
真っ先に士が口に含んだ物は、猪の肉である。生れて初めて味わった野生の肉は、未経験の感動を若造に齎した。魚より肉に箸が触れた事は、非常に男子高校生らしい。他の二人も同様であると、視界の端に捉えて理解した。
「スコット君たちも来られれば良かったのにね」
今が旬である眼張の刺身を嚥下し、美輝が呟いた。彼奴等、月曜日に登校したきりで、それ以降は影すらも見ておらぬ。加えて、家にも帰っておらぬ様だ。物音が一切せんのだ。一体、何をしておるのであろうか。少し心配になる士であった。無論、我も懸念しておる。
(まぁ、お土産も買ったし、旅行はまた別の機会に、ってことで)
一旦、彼等の事は頭の隅に追い遣り、士は食事を再開。皆もそれ以降、スコット達に関しては触れてこず、一時間も経たぬ内に卓上の料理を全て平らげた。
「では兄様、後はお願いしますね」
「ああ」
後片付けを駿に任せ、彼を除く全員で外へ出ようした。季節外れの花火に興じる心算であったのだ。ところが、運悪く雨に振られてしまった。誰も彼も、今が梅雨の季節であるという事をスッカリ忘れておったのである。外は諦めて、丁度良い頃合でもあったので温泉へ浸かりに行った。
(温泉は何回入っても良いモンだ)
正しく、二回目であってもそれはそれは良いお湯を頂けましたとも。その後は皆で、室内でも出来る遊びをする事になった。こうして初日の夜は更けていき、恙なく終わりを迎えた。
○●○●○○●○●○
翌朝、士は目覚めてすぐに窓へ視線を向けた。すると、カーテンの隙間から朝日が射し込んでおる事を確認。雨は上がったのである。昨夜は完全に就寝するまでの間、かなり激しい音がしておった。それ故、中々の豪雨であった事が窺い知れる。
「ふあぁ~、あ」
士は欠伸混じりに起床し、ベッドから這い出た。ヨタヨタと与えられたゲストルームの扉を開け、洗面台へ一直線。嗽を終えると、リビングへ入室した。
「おお、けっこう早起きだな」
其処には、既に朝飯を頂いておる天道の姿があった。
「あれ? 天道だけ?」
「ああ、嵐と風白さんは練習しに行ったよ。お兄さんの方も、これを作ってどこかに出掛けた」
彼はそう言って、眼前の皿達を指差した。これもまた食欲をそそる。
「他の二人は?」
「さぁ、まだ寝ているんじゃないか?」
「ふ~ん」
二人共、昨日は夜遅くまで起きておった。遊び疲れたのかね。一方、先程の二人は早寝早起きを実践しておる。見事な位に対照的だ。
「そんな所に突っ立っていないで、君もこっちに来て食べたらどうだ? 美味しいぞ」
「あ、おう」
着席を勧める天道に従い、士は椅子を引いた。それに腰掛け、駿が作っておいてくれた朝餉に有り付く。確かに、舌鼓を打つ味である。
「おはようー」
士が牛乳を飲み干したところに、寝惚けた声と共に入って来たのは美輝。まだ少々ウトウトしておる。それとタッチの差で、白木が部屋から下りて来た。彼女も美輝と同様、頭が覚醒し切っておらぬと見受けられる。
(朝から良いモン見れた!)
彼女達の貴重な寝起き姿を肉眼に焼き付けられて、士は興奮気味である。恐らく天道も、同じ光景を眼鏡越しに見て、同じ様な心境に至っておるであろう。
「ふむ、物騒というか、奇妙な連中だな」
天道はそう口走った。先程の推測は、当てずっぽうにも程があったな。士がこの部屋に入る前から点いておったテレビ。彼はそれに視線を奪われておった。
(これは……)
其処から流れる音声と映像を拾うと、奇しくも先日観た内容とほぼ一緒であった。唯一異なる点は、連中が東京都に接近しつつあるという事だ。
「ナニこれ、キモッ。東京には入って来んな」
それを観て口汚く罵ったのは白木。口調は少々キツイが、その意見には賛成である。
「でも変なカッコで歩いてるだけみたしだし、ただのコスプレなんじゃない?」
それに対して、美輝は奇怪な輩の弁護をする。ただ、近付いて欲しくないという点に関しては同意しておった。
引き続きテレビを観ておると、また別の報道が流れる。死体安置所や霊安室から遺骸が消えるという怪事件だ。先の事項と関連があるのかは不明だが、東京を中心に彼方此方で頻発しておるという。実に珍妙である。
『幽霊の仕業では?』と怯える光を見て、士は不謹慎にも内心で微笑む。
ニュースが終了すると、皆は仮面集団の事を話題に挙げんかった。頭から追い出したのであろう。折角の旅行が台無しになりかねんからな。
「ごちそうさま」「あ、食器は置いといてくれて良いとさ」
朝食で腹を満たした士はトイレで用を足した後、外の空気を吸いに行った。気分転換だ。
(あ、昨日、筋トレすんの忘れてた)
玄関の扉に手を掛けたところで、士は気が付いた。
(此処まで自転車を漕いで来たのであるから別に良いのでは?)
(それもそうか)
それをサラリと流して外へ出ると、雲一つない快晴であった。昨晩の土砂降りが嘘の様だ。
「う~っ、んっ、晴れて良かったねぇ~」
声に導かれて後ろを振り向くと、美輝がグイーッと伸びをしながら立っておった。彼女は少し肌寒いのか、もしくは冷え症なのか寝間着の上にガウンを羽織っておる。そんな彼女と相対しておると、とある光景が目に入った。別荘の脇に在る生垣に、色彩豊かな紫陽花が何十輪と咲き誇っておるではないか。葉っぱの上を這う蝸牛も風情があって良い。
(それは良いけど、その上にあるクモの巣が邪魔だな)
士が不快感を示したのは、屋根と壁を繋ぐ様に張られた八角形の蜘蛛の巣であった。糸に纏わり付いた水滴が、日光を反射してチカチカと煌めいておる。
(昔はそうでもなかったけど、最近クモが嫌いになってきたよ)
先日の土蜘蛛の所為か。我も嫌いではないが、飼育する気にはなれんな。同じ屋根の下で過ごしとうもない。
「あ、帰って来たみたいだよ、あの二人」
美輝が道の向こうを見つつそう言うと、確かに二つの影が此方に接近して来る。加賀美と深雪だ。後者は徒歩で、それに歩を合わせる様に前者が自転車を押す。朝の練習が終わったのだな。
(なんか、調子悪そうだな)
自転車を停め、家の中に入って行く加賀美。何処となく覇気がない。それを目で追って士はそう感じた。彼に付いて行く深雪も、顔色が良くない。ただ彼女の場合、加賀美の身を案じておるが故であろう。
「大丈夫かな? 加賀美クン」
美輝も憂慮しておる。彼女は二人に続いて中へ入り、所在を無くした士も同じく靴を脱いだ。




