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デビル・ミュータント  作者: 竹林十五朗
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    鍛える予感⑧

「向こうの教科書にも載っていることだからな」

「ふ~ん、魔界じゃ一般常識ってことか。でも長いよ」

「買ってくれる?」

 綺麗な顔立ちとはいえ、男に指輪をせがまれたところで士の心は微塵たりとも揺らがぬ。

「いやぁ……それに、指輪を学校に着けていくのも、なぁ?」

「う~ん、じゃあ腕輪にする? ちょっと値は張るけど、比較的頑丈に作れるからツカサ向きなんじゃない?」

 バッキーが別案を持ち出した。考えてもみると、此奴(こやつ)が指輪を嵌めたまま拳を使えば、指輪が壊れかねん。腕輪の方が適しておるか。

「それに、コッチだと腕時計に擬装できるし」

 彼からの追加情報だ。それは確かに便利である。

「まぁ……そっちなら、まだ。で、いくらすんの?」

 ほんのちょびっとだけ心が動いた士。ただ、肝心なのは勿論お値段である。如何(いか)に利用価値の高い代物であろうとも、無い袖は振れんよ。

「そうだね、イチバン容量の大きいコンテナ1A型が、二つ一組で高級車一台分ってトコかな」

 価格の提示に、バッキーは曖昧な表現を用いた。分かり難いわい。一口に“高級車”と言ってもピンからキリまで有る。下は五百万円から上は千五百万円までな。それを彼に伝えると、正確な値が判明した。

「そんなに幅があるの? ゴメン。まぁ、そうだね、最低でもその“ピン”くらいはすると思うよ」

「ごっ、五百万……っ!? で、でもまぁ、性能を考えたらそんぐらいしてもオカシクないか」

 額を聞いた士の顔は引き()っておる。高校生がそれ程の金銭を用意しようと思えば、並大抵の事では不可能。(いく)ら士の時給が良いとはいえ、衝動買いが可能な金額ではない。そもそもアルバイトの実働時間が短いのもその要因である。

「う、う~ん……」

 なので、士が躊躇(ちゅうちょ)するのは至極当たり前と言える。唸り、買い渋る士に(ごう)を煮やしたのか、此処(ここ)にきてバッキーが更なる販売促進に乗り出した。凄まじい意気込みである。

「それでね、色々とオプションがあるんだ」

「聞くだけ聞こう」

 静聴するだけであれば(ただ)である為、士は話を続ける様に促した。割引もあるとの事であったのでな。ついつい釣られてしまったのだ。

「まず、追加料金を支払うことで腕輪を三つにできる」

 要するに合鍵をもう一個製作できるという事だ。

「う~ん、予備は二つ以上持っていたいモンなぁ~」

 一個は携帯し、残りは自宅と実家に一個ずつ保管しておきたいのだ。

「ちなみに料金は二~三百万円ぐらいするよ」

 無論、高い。学生が即決で買えぬ領域だ。しかし、これまで挙げられた値段の所為(せい)で金銭感覚が麻痺してきた士には、充分安価に聞こえた。

「他には?」

「おっ、購買意欲がわいてきた?」

「イイから早く」

「ハイハイ。次に、腕輪は二つ一組だけど、対応する亜空間は本来一つ。それを増やせる」

 つまり、今回の場合であれば、格納スペースが二十もしくは四十ftコンテナ二基分になる。正確には、もう片方にも同様の処置を施し、その分の亜空間を拡張しておるとの事だ。また、これはそれぞれ独立しておる。更に、何方(どちら)の腕輪を用いようとも、収納物の出し入れは双方共に可能である。合鍵としての機能も損なっておらんからな。無論、相応の金銭は支払わねばならぬが。

「さっきの三つで一組のプランと合わせると、コンテナ三基を常時持ち歩いているのと同じ。バッグどころか金庫も倉庫も不要だよ」

「さっき言ってたメーカーで保管する腕輪の分にも亜空間って付けられんの?」

「亜空間を四つにできるかってこと? 出来るよ。お金かかるけど」

(ヤベェッ!! メッチャ欲しいっ!!)

「で、で?! 合計でいくらすんだ!?」

 興奮冷めやらぬ様子で士は詰め寄った。対するバッキーの返答や如何(いか)に。

「たぶん、一千万はするかな?」

(クソたけぇ~っ!)

 しかし、是が非でも手に入れたい。今は利便性の高さを聞かされ、先々週には実用的である事を()の当たりにしておるが故に。

(でも、俺にそんな金はない)

 先日、美輝の家で壊した物の弁償もせねばならぬ。早急に金を稼がなくては。

「どうする?」

 葛藤する士にバッキーが尋ねた。士は正直に現状と心の内と要求を告げる。

「今はムリだ。でも欲しい。四つで一組、亜空間の数も四つのプランで」

「オッケー。予約はしとくよ」

 幸いにして、金銭を得る手立てはある。それも、短期間で大多数の他者よりも多く懐に入る。

「念の為に訊いとくけど、ピンはねとかしてないよな?」

「ムッ、失敬な。そんなことしなくてもお金には困ってませんよーだ」

 売れ行きが伸び悩んでおるのではないのか。

「それを聞いて安心した」

 士は寝室に置きっ放しのケータイを引っ掴み、アドレス帳からとある番号を探し出して其処(そこ)に掛けた。そして彼女に、手短に要件を伝える。

「沢渡さん! オレに仕事をください!!」

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