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デビル・ミュータント  作者: 竹林十五朗
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    鍛える予感⑦

「で?」

「ん?」

「なんで今んなってこっちでメシ食いはじめたんだ?」

 紅茶を二口・三口飲んだところで、士は忘却の彼方(かなた)にあった最初の疑問を打(ぶ)つけた。

「これ買って」

 その答えとして、唐突にバッキーが広告チラシらしき紙を見せてきた。其処(そこ)に記載されておったのは、幾(いく)つかの宝石があしらわれた指輪であった。同級生にお強請(ねだ)りか?

「ああ? ナニコレ? 指輪? なんだ、男に指輪を贈る趣味はねぇぞ」

「ボクだって無いよ、そんな悪趣味。気持ち悪いこと言わないでよ。実はコレ、ボクの母親の実家で作ってるんだけど、最近売れ行きが伸び悩んでるからツカサに買って欲しいんだ」

「割の良いバイトしてんだろ?」

 クリントの言葉を否定せずに居(お)ると、バッキーがザッと説明を始めた。



 嘗(かつ)て、物体を亜空間へと仕舞う御業(みわざ)は、とある家の血を引く者のみが持つ固有の能力であった。

 ある時その中の一人が、これが自分達以外の誰もが使える様になれば、皆の暮らしはもっと楽に・快適に・安全になるのではないか、と考えた。思い立ったが吉日。彼は即行で作業に取り掛かった。だが、その思案の実現は困難を極めた。賛同する者が少数であった事もその一因である。それでも彼はメゲんかった。効果を発揮するのに最適な材料を探ったり・形状に工夫を凝らしたり、より少ない面積で効力が発揮される文字や紋様を生み出したり、幾千もの失敗の連続を経験した。彼は諦めず、数百もの年月が経った。そして遂に、長年の研究の末にそれは実を結び、彼は“指輪輪”にその力を注ぎ込む事に成功した。

 即座に製作方法を一族の皆にも伝え、量産しようとした。最初は馬鹿にし、蔑んでおった一族の者達も、彼の奮闘を何百年も見続けた結果、進んで協力する様になった。しかし、それが下々の者にまで行き渡る事はなかった。その理由は単純にして明快、高価過ぎたのだ。使われる材料の費用や掛けられる手間暇、難しく面倒な術式、それから導き出される人件費等を考えると、王侯貴族しか購入できる者は居(お)らんかった。

 彼は悩んだ。本来想定していた情況と違う。全ての者に使って欲しい。それからも、彼の不断の努力は続いた。制限のなかった亜空間の大きさを用途に合わせて調整し、材料やその他のコスト削減を図った。もう少し。協力者は徐々に増え、夜な夜な議論が重ねられた。まだ足りぬ。安価な代替物が発見された。一歩前進。形状は亜空間の大きさによって変えた方が良いと分かった。今一歩。新たな術式が開発され、一族以外の者でも作れる様になった。そして漸(ようや)く、庶民でも頑張れば手が届く手荷物不要の“指輪”が完成。物にもよるが、価格は元の十分の一以下に抑えられた。皆の暮らしは一変し、誰もが歓喜した。彼が最も観たかった光景だ。

 遥か昔、一人の悪魔が描いた願い。それが成就した瞬間、彼はこの世から去った。しかし、それはある意味で幸運な事であったのかも知れん。何故ならば、その後に起こった数多の悲劇を観ずに済んだのであるから。


 《収納の指輪》とは、亜空間を創り出し、その中に品物を仕舞い込めるバッグやケース無用の不思議で便利な指輪の事である。

 中は陽の光が射さず、その上ほぼ真空状態である為、物品の劣化が起こり難い。温度もそれなりに低く、湿気もあまりない。なので、携帯性抜群かつ大容量の鞄としてだけではなく、保存性に優れる大型倉庫としても重宝されておる。当然ながら重量も感じぬ。

 一番初めに指に嵌めた者の血液と魂の一部を採取し、遺伝子と魂魄の情報を登録。以降、それ以外のモノが使用しても、亜空間への扉は開(ひら)けぬ。また、意思のあるモノは容れられん。過去に痛ましい事件があった為、二度とその様な惨劇が繰り返されたりせぬ様に改良されたのである。

 それなりに頑丈な材質を使用しておるものの、不壊ではない。壊れても業者に送れば修理して貰えるが、消滅した場合は二度と中の物は取り出せん様になる。その為、万が一を想定して指輪を二つで一つの物として販売した。要するに合鍵である。

 ただ、それでも不充分とする者が現れた。幾許(いくばく)かの時を経て、それ等はもう一つ余分に造られる事となった。それは製作者達の厳重な管理下に置かれる。仮に紛失や盗難等の理由で中のモノを取り出せなくなったとしても、その旨を申告すれば出してあげられる様にする為だ。一応、破損した場合は修理も請け負ってくれる。アフターサービスもバッチリである。

 容積はコンテナ程度であり、それと同じく容積によって幾(いく)つか種類がある。これに関しては、以下の様な経緯があった。

 元々は大・中・小といった風に大まか、かつ作製者によってもマチマチであった。しかし、使用者達から『個人差が出るとややこしい』という声も予(かね)てからチラホラあったのも確か。時も随分経って量産化もある程度可能になった為、これを好機として今から約三十年前に統一する事に。その際、ヒトにも分かり易い様にと人間界の物を標準規格とした。それなりの大きさを持ち、尚且(なおか)つ世界中で同一性が図れるISOコンテナ規格を採用したのである。この区分で表せば、主な亜空間の規模は二十ft(フィート)及び四十ftコンテナに相当する。

 参考までにと、それ等の内形寸法(長さ×幅×高さ)と内容量の一例が記載されておる。

 二十ft:五,九二六mm(約六m)×二,三四九mm(約二.三m)×二,三八二mm(約二.四m)・三十三.二m3

 四十ft:一二,〇五二mm(約十二m)×二,三四六mm(約二.三m)×二,二八二mm(約二.三m)・六十七.三m3

 これ等のコンテナごと、丸々スッポリ入るそうな。便利。



 士に時々相槌を打たせつつ、此処(ここ)までを中断する事なく言い切った。

「説明がなげーよ」

 それを証明する様に、紅茶は三杯目に突入した。

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