鍛える予感⑤
「ああ。懲りずに挑戦はするのは良いが、そのたびに失敗して『二度と料理なんてしねぇ!!』と言って投げ出すのが恒例だ」
スコットも、咀嚼中の物を飲み込んでからそれに続いた。
「ぐっ……! う、うるせぇ! 良いんだよ! オレは嫁さんに作ってもらうから!」
彼等の意見を受けたクリントは、酷く狼狽する。言っておる事が先程と矛盾しておるぞ。
「ていうかお前ら、貴族なのに自分で家事とかするんだな。ちょっと尊敬するわ」
士はそう言うと、厚切りベーコンを噛み千切った。
「それは違うぞ、ツカサ。やっているのはオレだけであって、コイツらは全くの役立たずだ」
「でもボクらの部屋を掃除してくれたり、三人分のゴハン作ってくれたりするよね?」
スクランブルエッグを頬張りながらバッキーが訊いた。
「口に物を入れて喋るなといつも言っているだろうが」
其処にスコットから厳しい叱責が飛ぶ。まるで母親の様だ。
「お前は家事代行も請け負ってんのか?」
「いいや、アレはついで。部屋はひと続きになっているし、食事の仕度は一人分するのも三人分するのも、労力はそれほど変わらないからな」
ただし、材料費や電気代等はキッチリ徴収しておるそうだ。しっかりしておるわい。
(ん? 今なんか聞き捨てならないセリフがあったような……)
スコットの発言に、何かしらの引っ掛かりを覚えた士。だが、自分でもよく分からんかった為そのまま聞き流し、引き続き食事と雑談に興じた。
「手料理を振る舞ってくれる幼馴染の存在ってケッコー貴重だけど、それが男ってのがどーもねぇ。いや感謝はしてるけどよ」
「フゥ、それを言うのなら、オレだって女の子に食べてもらいたいさ。感謝しているのなら態度か物で示せ」
お互い、今の境遇に不満があるスコットとクリントは、殆ど同時に溜息を吐いた。
「ずっと訊きそびれたんだけどさぁ、お前らどうやってココに入ったんだ?」
士はやっとこさ本題を思い出し、牛乳を一気飲みしてから尋ねた。
「あぁ、そのことか。悪い、忘れていた。アソコを見ろ」
謝ったスコットが指差した先は、本棚と箪笥の間にある壁であった。
「あぁん? 何もねぇぞ?」
「近づいて確かめて来いよ」
此方を見もせずに、クリントが言い放った。士はそれに従い、椅子から立ち上がって壁に接近。ところが、目を凝らして白い壁を見るも、スコットが言った事の意味は分からず終いであった
「ん~? これがなんだってん、だぁ……っ!?」
士は前につんのめった。壁を撫でようとした手が、何の抵抗もなく埋まったからだ。既の所で倒れずに済んだが、蹈鞴を踏んだ為、体が壁の向こう側に突き抜けた。つまり、彼等の部屋に進入してしまったのである。
「こ、これは……!? 壁をすり抜けた、のか……?!」
驚きを隠せぬまま、振り返った。壁は変わらず其処に在る。少なくとも士の眼には映った。一先ず己の身に起こった事実を真摯に受け入れる努力をし、落ち着きを取り戻す。そして第一声に何を言おうかと模索しつつ、再び壁を潜り抜けて自室に引き返した。
「なぁオイ、これは……」
「ああ。オマエの部屋とオレの部屋の壁を通り抜けられるようにした」
「どうやって?」
「見えている壁はただの映像、カムフラージュに過ぎない」
士の質疑からは微妙にズレた応答である。
「いやそういうこと言ってんじゃなくて……ってことはアレか? お前ら壁ブチ抜いたのか?!」
確証を得る為の問い掛けに、スコットはたった二文字だけを呟いた。
「ああ」
「いや『ああ』じゃねーよ!! どーすんだよコレ!! 管理人さんにバレたら!!」
「大丈夫だよ。そのためのカムフラージュなんだから」
「こんなモン触られたらイッパツで分かんだろーが!!」
「なに、そのときは記憶を消せば良いだけだ」
そういう事態を想定して支給された訳ではないと思うが。
「引き払うときに元に戻しときゃイイんだろ? そうカリカリすんなよ」
バッキーもスコットもクリントも、反省の色は欠片も見られぬ。それどころか悪びれる様子すらもない。本心から“悪行”であると思っておらんのだ。
(こ、こいつら……!! ん? 待てよ?)
この遣り取りの間、士は先刻の会話を思い出しておった。
「そういやスコット、さっきなんて言ったっけ? 部屋がひと続きになってる?」
「ああ。ココも含めた四部屋の壁を取り払って、自由に行き来できるようにし……」
スコットがそう言い終える寸前で、士は走り出した。壁を一枚、二枚、三枚と突っ切る。どの部屋も雰囲気に差異がある。彼の証言が真実である事を、身を以て検証した。
「お前ら何やってくれちゃってんのぉっ!?」
ダッシュで折り返し、管理人に成り代わって不届きな住人に怒号を飛ばす。




