ベルトを開発したい男④
「え?! もう帰んの?」
此処では、健児が籠手を嵌めてビームを撃っただけである。しかも、士はそれをただ観覧しておっただけ。というか、これをやるだけならば特区内にも適した場所があると思うが。
(いやでも、ここでライダーとか戦隊が怪人とドンパチやってた思うと、なんか感慨深い)
士は此処に来た意義を見出した様だ。そう言われると、我も何故かその様な気分になってきた。だが、それだけでは栃木くんだりまで赴いた甲斐がない。せめて名物の餃子を食いに行こう。その旨を伝えると、彼等は大いに賛成。三人は即座に乗車し、宇都宮まで足を運ぶ事になった。
「で? あれが、あんたが見せたかったモンなのか?」
「ああ、まーな」
発車して間もなく、士は健児に訊く。その返答も兼ねて、彼はこの籠手に付いて語った。その経緯と自身の事も合わせて。
「俺のお袋は魔術師の家系に生まれた。親父は、出自は分かんねぇが、優秀な魔術師だった」
美輝から聞かされた話と同じである。
「俺も美輝も、その血を受け継いだ。魔力もな」
クリントによれば、この兄妹の保有魔力は莫大。何と、兄の方は、事もあろうに魔王様と同等であるという。
「親族の皆が言うにはメチャクチャ多いらしいが、俺にとっちゃ宝の持ち腐れ以外の何物でもねぇ。なんせ、俺自身の能力が伴ってねぇんだからな」
聞けば、此奴も我と同じ様な悩みを抱えておったそうだ。魔力を操るのが極端なまでに苦手、という深刻な悩みを。
(む? ではあの時の竜牙兵は如何やって?)
(さぁ? あらかじめ仕込んでたんじゃね?)
士も我と同様の思考に至ったものの、本人に質問する暇はない。彼の話は続けられた。
「この仕事を続けていくには、まず力・強さが必要だ。最低限、自分の身を守れる程度にはな」
しかし彼自身、魔術師と雖も肉体面ではただの人間。美輝の様に、ゴーレムを用いての探索や斥候に徹するのであれば、それ程の戦闘能力は要求されぬし、咄嗟の事態に壁としても使える。だが、その方面に期待はできぬ。そもそも性に合わん。だからといって、魔術による強化も不可能。故に、その不足を補う為に開発しようとしておるのだ。攻撃力・防御力・機動力の三拍子が揃った、次代の鎧を。
(だからって“アレ”は過剰だろ。何を相手にするつもりなんだ?)
士はそう思ったが、己も他人の事を言えぬので口には出さんかった。
「お前も着けてみるか?」
「良いのかっ?!」
彼の突然の申し出に、士は驚き、それ以上に喜んだ。男の子であるからな。
「ああ。お前は魔力もないし、着けても大丈夫だろ」
取り付けだけならば車中でも可能。ケースから籠手を取り出し、健児は士に装着させていく。この言は、我が魔力を流し込まぬ限り、あの様な事は起こらぬという意味である。
「おぉ~! けっこう軽いんだな」
生まれて初めて身に着けた籠手は、思いの外、軽量であった。
「ってかコレ、何でできてんの? 鉄じゃねぇだろうし、チタンの合金?」
士は籠手を手の甲で打ち合わせ、その音に聴き惚れながら問う。妹も素材として使用しておったからな。ただ、彼の返しは違った。
「惜しいな。確かに鉄じゃない。それに、鋼でもチタン合金でもない。これは……」
「それは《ミスリル製》だ」
健児が言い出そうとしたのを遮り、運転席のリーギルが説明した。
「ちょっと! 俺のセリフ盗らないでくださいよ!」
「ワシが造ったのだから別に構わんではないか」
ドワーフと同じ資料に基づいて記載する。
《ミスリル》とは、ドワーフが鉱脈を独占し、また彼等だけが製錬する事が可能な金属である。《真銀》とも呼称される。
これは銅の如く容易く打ち延ばす事ができ、硝子の如く綺麗に磨ける。ドワーフの手に掛かれば、羊皮紙の様に軽量で麻の様に靭やか、かつ鍛錬された鋼よりも堅い金属に早変わりする。それでいて白銀の如き美しさを放ち、一方で通常の銀の様に黒ずんだり、曇ったりする事もない。これ以上ない位に、鎧兜やその他の材料としては最適である。
更に魔を祓う特性を持ち、悪魔や妖怪、妖魔等はこれに触れるどころか近付きもせぬ。我も見た事はあるが、触った事はない。それ故に、魔界の牢獄はこれでコーティングされておる程だ。
コーティングに止めておるのは、全てをこれで拵えるとなると費用が、な。原材料も稀少な上、加工も難しい。それ故、流通しておる数そのものが少なく、貴族とておいそれと手が出せぬ程に高価。これがミスリルの数少ない欠点と言えよう。
「ミスリル、か……映画で見たことあるな」
先の“資料”とは、その作品の原作の事だ。
(つーかこれって胴着の解説と混じってんじゃねぇか? しかもなんか盛ってるし)
(いーや、大体これで合っておる)
士は我が説いた内容に不満があるという。我は単に事実を述べただけである。難癖を付けられる筋合いはない。
(まぁ、なんにせよ、アダマンチウムには数段劣るってことは分かった)
勝っておるのは、“軽さ”と“魔を寄せ付けぬ”という点であるな。充分な利点と言えよう。




