ベルトを開発したい男⑤
「その籠手の真髄はそれだけじゃねぇぞ。外して内側を見てみろ」
我等がその様な事を考えておるとも知らず、健児は急かす。本当に自慢したいのは此方らしい。
「内側? ……あぁ、なんか……ビッシリ書かれてんな」
言われるままに剥ぎ、士は籠手を開く。覗き込むと、見知らぬ文字と紋様が一面を埋め尽くす様に描かれておるのが見て取れた。
「それは魔術的に意味のある文字と陣だ」
「ルーン文字と魔法陣ってことか?」
「まぁ、簡単に言やそういうこった」
実際には、他の文明の文字や陣ではない模様も描画されておった。しかし、それを我等に説かれたところで理解はできん。彼の自慢は続く。
「ここに魔力を流し込むと、手の平に光が収束して俺の意思で自由にビームをブッ放せるってわけだ。どうだ、スゲェだろ?」
「銃を隠し持ってるより物騒な話だな。でも確かにスゲーな」
此方に連れて来る時に健児が言った事は、間違いではなかった。これは士が喜ぶ物だ。
「でも、こんなに色んなトコのヤツが混じってたら、意味がゴッチャになって発動しなくなるんじゃねぇーの?」
魔術に疎い士の、素朴な疑問であった。それに対し、健児は出来の悪い弟分にこう返した。
「バカかお前は。日本語だって外国の言葉いっぱい混じってんだろうが。それで意思の疎通は可能だし、絵とかで図説することもあんだろ? それと一緒だ」
例え表現方法が様々に混合しようとも、要は意味が通れば良いのである。一つの側面だけではなく、多角的に物事を見るのは、どの分野に於いても重要。魔術とて、それは変わらん。
「こうすることで必要な面積が狭くなったり、効力が増したりもするからな。たまに新発見もあるし、魔術師にとっちゃ割とスタンダードな研究内容だな」
健児が歴とした魔術師である事を、士は再確認した。
「そういや、これって未完成なんだよな? 兜とか具足とかもあんのか?」
「予定ではな。ただ材料が集まんなくてな。なんせ高いんだ、これが」
「同質量の黄金と比べても、十倍以上の価値があるからな」
この話題には、前からの参加者が居った。己が専門とする領域であるからだ。
「そこにワシらの技術が加わりゃ、その価値は何倍にも跳ね上がるわい。カッカッカッ」
得意気に笑うリーギル。其処に健児が補足を入れる。
「彼らが造った物の中にゃ、集落とそこに在った一切合財を買っても、お釣りがくるほどのモンもあったそうだ」
「えっ!? そんなにすんの?!」
ミスリルの価値の高さを、改めて思い知らされた士。それにリーギルが付け足した。
「ああ、そりゃ宝石とか真珠とかも付いておったから、それも含めての値段だな。もちろん、職人の腕も込みで」
「うわぁ~、健児さん、そんなの買えんのか? 輸入もしなきゃなんねーだろうし」
付属の宝石や真珠、水晶等を差し引いたとしても、民間人が購入するのは難しかろうな。手に入れるには金銭だけではなく、コネクションも必要になってくるのだ。
「いや、物は既にリーギルさんが持ってんだ」
「ああ、ワシの工房に保管してあるぞ。加工前の物が」
後者は確保済みであったか。
「あとは、俺がそれを買えるだけの金を用意すりゃイイだけなんだ」
籠手を一対買い取るだけで一年。それもあの高給な職場で。リーギルが鍛えるミスリルの甲冑は、一体どれ程の価値があるのか。想像も付かん。
「ま、それももうそろそろ手に入るけどな。けっこう溜まってるから」
「ふ=ん、それっていくらぐらい掛かんの?」
遂、物の値段を訊いてしまうのは、此奴の性分である。
「全身を防護できる鎧兜を造ろうと思えば、相当な量が要る。半端な額じゃムリだな」
「うむ、薄くこしらえても鋼鉄より堅固ゆえ、それよりは少なくても済むが、頭のテッペンから足の爪先まで造るとなれば結構な量となる」
「で、値段が金の十倍以上。あと十年ぐらいかかりそうだな」
「ハハハ。あー、まぁ、ウン千万とか億になるんだろうから、多分な」
あまりの高額さから、健児は笑うしかない。
「割引はしてやっておるぞ」
「そりゃ感謝はしてますし、この国じゃ良心的なのかもしれませんが」
彼は不満を隠そうともせず、リーギルに言い放った。
「ふ~む、自分で取りに行くのがイチバン手っ取り早くて、安上がりなのだがなぁ」
「ムチャ言わないでくださいよ。あんなトコ、今の俺が行ったら絶対に死にますよ」
「誰もアソコへ行けとは言っておらん」
これはミスリルが産出される鉱脈の事だ。欧州の何処かに在る。確か、北の方であったと記憶しておる。近くにはドワーフ達の国も、存在した。
「なんだ? 悪鬼でも出たのか?」
栄華を誇ったドワーフの国が今はない。そうリーギルに聴かされ、士の口から思わず漏れ出た。
「そりゃ映画の見過ぎだ」
「とは一概に言えんのだ、これが」




