友じゃねぇ⑦
「スコットの眼から出た紅いビームはなんだ?」
「アレは、オレにも分からない」
淡々と述べ、ゼリーを口に含むスコット。表情も変わっておらぬ。
「前例もないんだって」
バッキーが横から入ってきた。それにクリントも続く。
「生まれつき持ってたんじゃなくて、二歳ぐらいのときから徐々に現われはじめたんだと」
「ああ、最初はチカチカ光るだけだったんだが、それは日に日に増していき、今では“アレ”だ」
士は『あー、アレか』と昨夜の事を想起する。
「昔は制御できなくて大変だったんだよ~? ヘタすればそのへん焼け野原だし」
「去年は城を一城ブッ壊したし」
基盤をゴッソリ貫いたのか。思っておった以上に危険な能力である。
(俺とおんなじような感じかな?)
(恐らく。悪魔にもこういう突然変異は有り得るという事だ)
もう質問したい事はない。と考えたが、先程訊き忘れた問いを投げ掛けた。
「ちょっと蒸し返すけどさ、さっき言った記憶の消去はちゃんと全員にやったのか?」
「なに言ってんだ、アタリめぇだろ」
「そうだよ。生徒だけじゃなくて先生たちにもかけたし」
「なぜそんなことを訊く?」
彼等が嘘を言っておるとは思わぬ。しかし、現実は違っておる。
「いや、光があのときのこと覚えてたからオカシイな、って思っただけだ」
「「「えっ!?」」」
それを聞いた三人は驚愕し、表情を微妙に変化させた。
「んん? どうした?」
「……いや、こんなこと今まで無かったから……」
バッキーが重々しく口を開いた。
「そう、なのか?」
「ああ、“人間”には例外なく効果があるハズなんだが……」
つまり、人間以外の種族には意味を為さぬという事だ。また、ミュータントや超能力者も人間の変異種なので、一定の効き目はある。
「……もしかして、彼女は魔術師なんじゃないか?」
いきなり核心を突いたのはスコットである。今度は士が驚く番であった。
「な、なんでそう思うんだ?」
あ、拙い!? その訊き方は……?!
「あれ? ツカサ、彼女が魔術師だってこと否定しないの?」
「つーか、魔術師の存在を疑ったりしねぇの?」
(し、しまったぁっ!?)
己のウッカリに気が付いた士。しかし、慌てる事はない。バッキーの発言は兎も角、クリントの物言いに関してはまだ申し訳が立つ。胸に手を当てて言った。
「そ、そりゃお前、こいつから聞いたんだよ。そ、それに悪魔とか亜人とか獣人とか居るんだから、魔術師が居てもなんらオカシクない」
「あーそっか」
クリントの弁については腑に落ちた。汎ヒト族についても、同様の言い訳が通用するであろう。実際に教えたのは我であるし。
「だいたい、光が魔術師だってんなら幽霊ごときで気絶なんかしねぇよ」
「う~ん、言われてみればそーかも」
「ふむ、そのような軟弱な魔術師がいるとも思えない」
誤魔化せたか。それにしても、やはり幽霊が苦手な魔術師は少数派の様だな。
というか、この事実を隠匿する必要があるのか? 彼等に知られたところで、あの兄妹に危害が加えられる訳でもない。打ち明けても問題ない気がしてきた。……いやいや、秘密にしておきたい筈の真実を、自分達の預かり知らぬ所で士が話したとバレたら、二人の此奴に対する信用が失墜する。黙っておこう。
スコットとバッキーは、それで納得してくれた。
「じゃあ、あの二人はいったいナニモンなんだ?」
ところが、残りの一人はまだ得心がいっておらん様子。やや体を震わせて声を絞り出した。
「ナニモン、って、俺の幼馴染だけど?」
「いやそうじゃなくて……」
歯切れの悪いクリント。あの兄妹に会ってから妙に落ち着きがない。そういえば此処に来てからも、時々思い出したかの様にソワソワしておった。そんな彼を不審に感じたスコットは、気遣う様な口調で尋ねた。
「なんだ? 何か気になることでもあるのか?」
「……ああ、今さっき思い出した」
対してクリントは、暫し間を置いてから話し始めた。
「アイツら、バケモンだぜ。とくにアニキの方。なんだありゃ、今まで見たことねぇよ……」
好意を寄せる異性と、そんな彼女の兄であり、尚且つ己も兄と慕う男。その二人を化物呼ばわりされ、士も意図せず沸点が低くなる。
ただ、短い付き合いの中で得た印象と直観で、導いた。目の前の男が何の根拠もなく、その様な事を口にするとは思えぬ、と。故に、それをグッと堪えて話を続ける様に促した。
「どういうことだ?」
「はぁ、オレは感知に自信がある。五感もそうだし、気配の察知もお手の物だと自負してる」
それは既に論説した。また、身を以て思い知らされもした。
「んで、オレは悪魔だ。魔力も感じ取れる」
前提として、悪魔が必ずしも魔力感知を可能としておる訳ではない。
「魔術師なんだから魔力ぐらい放ってても変じゃねーだろ?」
士がさも何でもなさそうに言うと、クリントは神妙な面持ちで首を横に振った。
「オレが言ってんのはその量だ」
「量?」
「あぁ、尋常じゃない魔力量だ。人間どころかエルフとか上級悪魔でもありえねぇぞ」




