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デビル・ミュータント  作者: 竹林十五朗
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    友じゃねぇ②

(誰だ……? 外人?)

 士の眼前に、横並びに立っておるのは三人の男。見た目は少年。向かって左から小・中・大の順に並んでおる。まるでケータイのアンテナの様だ。此奴(こやつ)が異邦人と考えた訳は、顔立ちと彼等の頭髪にある。同じく右から銀髪・金髪・茶髪と、色取り()りであったのだ。根元まで色が付いておる為、染髪ではないと思われる。

 まず口火を切ったのは、真ん中の金髪。

「また会ったなイシモリ・ツカサ」

「……? 誰? ウチの生徒、か?」

 心当たりはない。ただ三人共、士と同一の制服を着ておる。襟章(えりしょう)も一緒。つまり同学年。ただし、反対側のアルファベットは異なる。クラスは別か。

「おっと、忘れたとは言わせねぇぞ」

 そう言って一歩足を踏み出したのは、長身の茶髪野郎。男でありながら、何故かヘアピンを着けておるな。

「いやマジでどちらさん?」

「ホラ、それじゃ分かんないよ」

 この声の主は、銀髪の小柄な少年である。茶髪のそれへの反応は、不愉快そうに顔を歪める、であった。

「あ? んだよ?」

「髪」

 短く発したのは、中肉中背の金髪。

「おー、そうだったそうだった。……っと、これでイイか?」

 それを聞き、茶髪はスッとヘアピンを外した。すると、奴の髪に変化が。

「――!! み……!?」

 段々と見覚えのある色に染まっていく。

「緑髪……っ?!」

 人間では有り得ぬ色。それが士の視界に入った瞬間、昨夜の記憶が呼び覚まされる。

「フンッ!!」

 それに従い、士は奴の整った顔面を打ち抜いた。

「ブゴォッ……ッ?!」

 顔に見合わぬ不細工な声と共に緑髪、改め射手は、道路の反対側まで盛大に吹き飛んだ。鼻の軟骨が砕けた感触が拳に残る。全力でこそなかったものの、今の突きで頭蓋が粉砕せんとは、中々に頑強である。

「お前にはまだ何も返してなかったからな」

 手に付いた血をピッと振り払い、士は格好を付けた。

「「…………」」

 他の二人は、その様子を黙って見ておった。消去法で、奴等は剣士と暗殺者であろう。よくよく思い出してみれば、体格や声も酷似しておる。

 この両者に対しては、殴ったり蹴ったり刺したりと、一応の雪辱は果たした。首を刺されたり超猛毒を盛られたり、腕を切断されたり全身を焼き尽くされたりした割には、全く合っておらんが。まあ、幾許(いくばく)か溜飲は下がったので良しとしよう。しかしながら、射手には一撃も加えておらんかった。故に、その時の借りを今返したのだ。

 ハッ! そういえばブルースにも大した仕返しをしておらんではないか! 首を胴体から引き離されたというのにっ……!! 糞っ! もう四、五発殴っておけば良かった……っ!!

「気が済んだか?」

 仲間の仇を取る訳でもなく、淡々とした口調で剣士は話を続行する。

「正直、全然モノ足りないけど、今はガマンしよう」

「そうか。なら良い」

「フォイ!! られもホレのひぃんふぁいはひぃねーのふぁっ?!」

 射手が折れた鼻を押さえ、フラフラになりながらも自力で戻って来た。出会い頭にいきなり顔面を強打された為、怒り心頭である。

「アハハ! なに言ってのか分かんないよ?」

 暗殺者は小馬鹿にした感じで(わら)っておる。翻訳してみると、恐らく『誰もオレの心配はしてねーのか?!』と主張しておるな。

「テメェ……!!」

 当然、奴は怒りを抱く。

「見せてみろ」

 それを遮り、剣士が射手の負傷具合を診断。手を退けて覗き込んだ。結果は、所々に裂傷やら擦傷やらはあったものの、鼻骨が折れ、顎の骨に亀裂が入った程度であった。これ位ならば軽傷、軽傷。何故ならば、即座に治せる手段があるからだ。

「コレ飲んでろ」

 剣士が投げ渡したのは小瓶。昨夜、見た憶えがある物だ。

「ほ、ほう、ふぁうぃふぁ」

 射手はそれを片手でキャッチ。手早く蓋を開けた。『悪いな』であろうか。

「代金はあとで小遣いから引いとくから」

「ガェッ!? マフィふぁ?!」

 懐は痛むが、本当に痛いのは御免(ごめん)(こうむ)る。奴はグイッと何かを飲み干した。

「っあぁ~っ! 相っ変わらずマズイな!」

 見る見る内に出血が治まっていく。曲った鼻は修正され、肉眼では見えぬ顎の亀裂も修復された。

「これでひとまず全員が《ポーション》使ったから公平だね」

「ああ」

「ん?! お、オマエらまさか……自分らだけが損すんのがイヤだから、オレがブン殴られんの黙って見てたんじゃ……?」

「さぁ?」

「考えすぎだ」

 猜疑(さいぎ)の目を向ける緑髪の射手に対し、(わざ)とらしく(とぼ)ける銀髪の暗殺者と金髪の剣士。

「オマエ、オレにヘアピン外させたのもコイツに殴らせるためじゃ……?」

「だから考えすぎだって」

 ケタケタと笑う暗殺者。射手は疑心暗鬼に陥り掛けるも、すぐに思考を切り替えた。

「チッ、まーイイ。オイ、オマエ」

 上着の内側から抜いたポケットティッシュで、顔に付いた血を(ぬぐ)う射手。それが完了すると顔を上げ、ギンッと此方(こちら)を睨んだ。目付きが悪い。何か言いたい事がある様だ。

「これでチャラだ。イイな?!」

 奴は指を差して静かに告げた。

「あ、ああ、良いよ」

 士も承諾した。これでお互い恨みっこなし。一瞬、和やかな空気が辺りを包んだ。だがそれは、瞬時に掻き消された。授業開始の十分前に鳴る予鈴を、四人の超聴力が捉えたからである。

「「「「――!! ヤバイッ!!」」」」

 異口同音、四人はダッシュした。脇目も振らずに走り出した。貴様等、急ぐのは良い。遅刻したくないのも理解できる。しかし白昼堂々、屋根伝いに行くのは()せ。目立つ。

「オイ、ツカサ! 遅せぇぞ!!」

 跳び、下の名前を呼び捨てにする射手。共に走ったり跳んだりしてみて、初めて分かった。単純な足の速さや機動力では、士はこの三人には僅かに及ばぬという事が。恐らく、神経発達による筋肉の動員数や神経系の反応速度等が、彼等よりも劣っておるからであろう。我もあまり速い方ではなかった。まあ、昔に比べれば二人共優秀になったが。

「テメーいきなり人の名前呼び捨てにしてんじゃねぇぞ!!」

「い、イシモリよりみ、短いし、い、言いやすいん、だよっ!」

 早くもバテ気味な暗殺者も、同じく呼び捨てにする心算(つもり)だ。それはそうと、此奴(こやつ)は持久力がないらしい。まだ五分も走っておらんぞ。まあ、『戦闘が本分ではない』とも言われておったものな。

「昨日のことはお互い水に流したのだから良いだろう?」

 まだまだ余裕のある剣士は、落ち着いた声で士を(さと)す。

「お前らは名乗ってすらねぇだろーが!!」

「それはまた後ほど」

「いま言えばすむ話だろ!?」

「物事には順序があるんだよ」

「そう言うんなら自己紹介は最初にすんのが筋なんじゃねーのかっ?!」

 怒鳴る士。だが結局、奴等の氏名を訊き出す事は叶わんかった。まあ、授業終わりには分かるであろう。当然ながら、四人の人外の全速力によって遅刻せずに済んだ。スレスレであったが。

 また、口喧嘩(くちげんか)は教室に入る直前まで絶える事なく続いた。えーと、こういうのは何と表すのであったかな? 『雨降って地固まる』か、それとも『昨日の敵は今日の友』の方が的確かね。

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