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デビル・ミュータント  作者: 竹林十五朗
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    戦いは終わる②

 次いで、反対側にある牡羊も話し始めた。

【はい、ただ単にローガン殿の力を取り込んだ訳ではなさそうですね】

 ヤンチャな雄牛に対し、此方(こちら)は丁寧な喋り方である。声は何方(どちら)(かす)れておるが。

(あー、あれか。多重人格ってヤツか)

 ふむ、まあ似た様なモノであるからその認識で良いか。事情は比べものにならぬ程に複雑だが、平たく言えば我と士の様な関係である。

 アレ等の本来の用法は、魔術を行使する際に必要な詠唱を代行させる事。彼奴(あやつ)も我と同様、魔力の扱い方に難があった為、それを補う役目を果たしておる。また独立した自我も持ち合わせておる故、ブルースの思考を手助けする事もある。

 ただまあ、其方(そちら)の面で役立つ状況にはあまり遭遇せんかったな。単純に目や耳、鼻等の情報を収集する手段が増え、それを素早く並列処理したい時に、補助パーツとして用いる事が多いかね。

 それよりも、彼奴(きゃつ)()の口振りからして、士が元々ミュータント兼改造人間であった事は知らんかったと見える。調査不足か?

 いや、士の体質の詳細を把握しておるのは此奴(こやつ)の父と祖父、それとギルモア博士のみ。他の者達には細部まで教えておらん故、誰も其処(そこ)までは知らぬ筈である。先の三人に接触しておらんのであれば、調べようがないか。

(こっちの強みがバレてないんなら好都合だ……)

(といっても不死性は割れておるし、それへの対策も採られておる)

(あー、俺に有利な要素はないってことか)

 と、我等がブルースから気を逸らしておると、奴の頭の一つが疑問を口にした。

【ん? オイ、オメェさん、さっきから誰と話してんだ?】

 これは雄牛の発言である。士の声が知らず知らずの内に漏れておった様だ。

【独り言だ。気にすんな】

【ワタクシたちが言うのもなんですが、アナタ大丈夫ですか?】

 士が返答すると、牡羊に気を遣われた。

【…………】

 人間の頭は終始黙りこくっておる。過去、幾度となく見た思案顔だ。

【ハァ、考えていても詮無いか。一気に決めるぞ。早く“カケろ”】

 ブルースは何かしら決意した様子を見せ、雄牛に要求した。

【ヘェヘェ、もう詠唱済みだっての。ホラよ!】

【こちらも準備は整っております。それ!】

 牛頭と羊頭が交互にそう言うと、巨大な熊の体に変化が起きた。それは目に見えるモノではないが、分かる。何度も間近かつ肉眼で見せ付けられたからな。あれは魔術、様々な肉体機能を高める効果を持つ強化魔術である。

【クッ……! まだ強くなんのかよ……っ!!】

 奴が強化を施したのは、主に骨格や筋肉である。それと皮膚にも施術したな。どれも若い時分から頻繁に用いておるモノだ。

【ヒャヒャヒャヒャ! どっこい今は神経にも掛けられるようになったんだぜぇ?】

 訊いてもおらん事を雄牛が口走った。むぅ、その様な事まで可能になったか。攻撃力・防御力に加え、敏捷性・機動力まで上昇するとは……勝算が更に低くなった。強くて・速くて・堅くて、その上賢いのであるからな。

【わざわざ敵に教える馬鹿がどこに()りますかっ!?】

 牛頭が情報を漏らした事に対して、羊頭は人間頭越しに説教し、怒る。

【ココに居んだろ?】

【そういうことではございませんっ!】

【んだよ、久しぶりに出てきたんだからちょっとぐれぇ遊んだってイイだろ?】

【良い訳ないでしょう! 今回は仕事なのですよっ! だいたい戦闘で己の手の内を明かすなんて言語道断だとアレほど……】

 牡羊による懐かしの説教タイムが始まった。何度見てもコントにしか見えんな。

【あぁん? コイツはローガンと融合してんだろ? ってことはアイツの知識も持ってる。こっちの手の内なんざハナっから筒抜けなんだよ。それを今さら、強化魔術の一つや二つ教えてやったところでどうにもなんねぇだろ】

 おお、相変わらずの猪突猛進野郎かと思いきや、意外と考えておるではないか。ふむ、千年も経てば悪魔も変わるか。浅はかである事に違いはないが。

【そりゃあ、強化は単純ですから汎用性も高く対抗策は練りにくいですが、だからといってそのような間抜けなことをする輩がドコに……】

【だからココに居るっつってんだろ。聴いてなかったのかオメェ】

 (あお)る牛頭に、苛々(いらいら)を(つの)らせる羊頭。後者はもう噴火寸前である。

【グッ……! あ、アナタというヒトは……!!】

【ヒトじゃありませ~ん、悪魔で~す】

 幼稚な揚げ足を取る雄牛に、牡羊の怒りのボルテージは最高潮に達した。

 此方(こちら)は、知性溢れる雰囲気を醸し出しておるのは表面上だけ、中身は昔と同じく短気である。いや一応、頭脳労働担当であるが。

【も、もう、勘弁なりません……っっ!!】

 そして火山は遂に噴出。口調も礼儀正しいモノから一変し、喧嘩相手と同じ様なモノになった。

【テメェ(おもて)出ろやぁっ!!】

【もう出てんだよコラァッ!!】

 (やかま)しい雄牛と牡羊の(ののし)り合いは(しばら)く続いた。我等は完全に置いてけぼりを喰らっておる。

【昔っからそうだ! ヘリクツばっか言って、てんで役に立たねぇじゃねーかっ!!】

【そう言うアナタこそ! 何も考えない癖に口だけは立派ではないですかっ!!】

【言ったなテメェッ!!】

【ええ言いましたとも!!】

 その間に位置する頭は(しか)(づら)である。まあ、耳元であの様に叫ばれれば、そう長くは耐えられんよ。予想通り、言い争いは奴の鶴の一声でピタリと治まった。

【下らん漫才は後にしろっ!!】

 両者の頬を張り、凄まじい怒声を上げるブルース。士も思わず“気を付け”の姿勢を取った。直立不動である。

【糞……だからこの姿にはなりたくなかったのだ……】

 一転、真ん中の後頭部を熊手で掻き、ブルースは(こぼ)した。

【でもよぉ、オレらが出ねぇとコイツをブチ殺せねぇんだろ?】

【というか、あのまま外苑で戦っていれば良いものを何故こちらに場を移したのか。それで苦戦したとしても自業自得ではないですか。理解に苦しみますね】

 雄牛と牡羊は途端に冷静さを取り戻し、各々の意見を述べた。

【あーもう、その辺のことは重々承知しておるから、グダグダ言っておらんと働け。日頃は無駄飯ばかり貪っておるのだから、それ以上にな】

 これ等の会話は、一見すると隙だらけであるが、手を出せぬ。攻撃しても避けられるか、肉体が堅過ぎてそもそも効かぬ故に無意味なのだ。

(クッ……! どうすりゃこの逆境を打開できんだ……?!)

 今の士では勝ち目が限りなく薄く、ただ座して人生の終焉を待つだけである。こうなれば仕方がない。実行した事はないが、一か八か“これ”に賭けてみるとしよう。

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