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32話「カーバンクル狩り」

クリフは、剣を乱雑に振り回して藪や小木を払いながら、微かに雪の積もったタイガ森の中を進んでいた。


「本当にこんな森の中に居るのか?」


と、後ろを歩くアキムが尋ねる。


「居てくれないと困る。尤も、こんな森の中だ、魔物に喰われていないと良いが」


そう話していると、小枝が折れ、(やぶ)が揺らぐ音が混じった。それにアキムも気が付いており、彼は右腕に触手を纏わせ、剣に作り替える。


「何の音?」


「這いずってるデカい奴だ」


剣を構え、音の鳴った方向を凝視する。


「デカい奴!?」


困惑するアキムをよそに、ボルトガンを引き抜き、獣のような殺気を周囲に放つ。


魔物が人間を食う理由は、ただ弱そうだからだ。ならば、並外れた殺気と殺傷力をちらつかせた場合、魔物ですら尻尾を巻いて逃げる事がある。


巨大な蛇が茂みを割って現れる。

丸太のような胴体を持ち、細石のような鱗を持ったそれは、細長い舌を出してこちらを凝視していた。

そして、僅かな値踏みを経て、こちらに目掛けて勢いよく突進した。


「よく見てろ」


アキムにそう言って、正面から待ち構える。

ヘビの顎が開く。その幅は、こちらの身長を越えていた。


だからこそ、敢えて一歩踏み出し、蛇に飲み込まれる形で舌に足を乗せた。

そして、舌に踵を押し当てて踏み込み、内側から大蛇の左頬を骨ごと寸断した。

その程度で大蛇は減速する事はなく、そのまま連れ去られてしまった。


しかし、片側の顎が切り離された事で、口が満足に閉じられなくなっていた。


「臭ぇんだよ!」


左手と両足で顎に押し潰されないように堪え、空いた右手で上顎を、脳がある位置に剣を突き刺した。


蛇は身体を捩らせ、頭を振り上げる。

口から振り落とされそうになるも、両手で剣を握り、口内にぶら下がる。


「クソ!」


ミラナから買ったナイフを左手で引き抜き、口内に突き刺す。

それを支えにぶら下がり、剣を勢いよく引き抜いて、もう一度脳へと突き刺した。


蛇の断末魔が喉から至近距離で口内に鳴り響き、その巨体を大地に打ちつけて絶命した。


死んだ蛇の口内で下敷きになるも、腕力に物を言わせて顎を押しのけ、切り裂いた左頬から這いずって脱出した。


「クリフ!!」


外で待っていたアキムが、顔を青くしてこちらに駆け寄る。


「どうだ見たか?俺には魔法が無いんでな、親父仕込みの魔物狩り術だ……クソ」


全身にべったりと付いた唾液(だえき)を雑に振り払う。


「……川を探そう」


「私の家にあるものを貸しましょう。クリフ様のお気に召すと良いのですが」


振り向くと、旧式の猟銃を担いだ赤髪の男が、近くの木に片手を掛けていた。


「……お前」


警戒心を更に一段階上げ、剣を再び強く握り締める。

その顔には見覚えがあった。列車の外に放り出された時、謎の拳銃で眠らせてきた男に瓜二つだった。


「ご容赦を。ジレーザは既にあなた方ヴィリングに白旗を挙げています。私とて、自宅の側に来なければあなたの邪魔をするつもりはありませんでした」


暫し思案し、合点が行く。


「……待てよ、あんたがこの森の狩人か?」


「クリフ様の予想しているものと合致しているなら、ですが」


アキムに目配せすると、彼は腰に提げた鞄から一本の酒瓶を取り出す。


「おや?」


狩人は目を細め、口角を吊り上げる。


「カーバンクルを狩りに来た。アンドレイとミラナがお前を頼れと」


狩人は背を向け、手招きして獣道を指差す。


「はは、あいつめ……着いてきな」


彼は口調を変え、軽く笑った。

クリフは剣を収め、アキムに再び目配せして、狩人の後を追った。



「ぶえー……何も見る所が無いよ」


シルヴィアは憂鬱(ゆううつ)げに街を歩く。

外套を深く被っている事で、竜人である事は隠せていたものの、誰かに観光名所を聞けない状態になっていた。


「アンドレイおじさんに聞こうかな」


彼女は踵を返し、彼の店へと足を進める。


「ああ、ここにおられましたか。シルヴィア様」


聞き慣れない少年の声に呼び止められる。

この国に来てからの顔見知りは、四人と僅か。その上、この声色は記憶に掠りもしなかった。


「誰?」


フードを深く被り、その場で振り向く。

しかしそこには、本当に知らない青年が立っていた。


「先日駅でお会いした、メイシュガルの息子です。メイとお呼びください」


少し思案し、クリフと話していた官僚の姿を思い出す。


「どうして私なんかに?」


「少し前に父と歩いている所を見掛けまして。何かの縁です、差し支えが無ければ観光案内でもさせて頂こうかと」


「えーっと。良いの?」


疑念を微かに抱いたが、表に出す程のものではなかった。


「じゃあお願い」


フードを少し持ち上げ、一歩踏み出してはにかむ。メイは、それを見て年相応に顔を緊張させ、平静を装っていた。


「では、百貨店など如何でしょうが?勿論お代は結構です。先日頂いた誓約書にも、あなた方の私費全てをこの国が持つと確約致しましたので」


彼の手を取り、握り締めて手を振る。


「うんっ、そういうとこに行きたかったの!クリフってね、自分の行きたい所ばっか行って、あたしの行きたい場所は全部後にするの、服も買うなって言うし……」


「我慢は毒ですよ。さあ、行きましょうシルヴィア様」


メイに手を引かれ、百貨店に向けて歩き出した。



「人造半神だぁ?」


クリフはタオルを首に掛け、ズボンだけを履いた半裸の状態で革製のソファに座り、目の前のレナートを見つめる。


「そうだ。お前が駅で会ったあの外交官のメイシュガルはそういう生き物らしい。製造方法の開示も許可されているが……聞いておくか?」


レナートは箱型の端末を閲覧し、顔を顰める。それ程、嫌悪感のある内容という事だ。


「遠慮しとく。で、なんでそいつがソフィヤの助命を願ったんだ」


「俺が聞きたい。あの子とソフィヤに因果関係は無い。年齢はまだ2歳だ……仮に彼女に母性を感じていたとしても、差し出した交換条件が重過ぎる。それに、ソフィヤはあの子を何度か雑にあしらっている」


クリフは思案し、右手を出す。


「やっぱり資料を見せてくれないか?気になった事が出来た」


「ああ」


セルゲイは端末を差し出し、それを受け取る。


「指で弾くのか……?ほほぉ、コイツは凄い」


クリフは端末に表示された資料に指を当ててスワイプし、閲覧して行く。幾つもの難解な言葉を読み飛ばし、内容を頭の中で噛み砕く。


「つまり、胎児に魔力を山ほど投与して作った……で、良いか?試作品にドラゴンを使ったとかもあるが」


端末をテーブルの上に置き、レナートに視線を送る。


「ああ、概ね合っている。実際は薬品や魔法を併用して胎児が溶けないよう加工するそうだが……ベースは誘拐したヒューマンの胎児だ。かき集めた手段については、聞いて欲しくないな……」


レナートは腕を組み、物憂げに天井を見上げた。その仕草を見て、何となく察せた。

作戦実行の指揮は、彼らが行なわされたのだろう。酷な話だ。


「気にするな。少なくとも、ハース侵攻直後のアウレアはもっと酷かった。赤子の串焼きの食べ残しとかな」


突然湧き出た猟奇的なワードに、レナートは目を丸くし、苦い顔を浮かべた。


「ハースの食人種共め」


「ああ、あのノッポ共はクソだ。で、あんたがソフィヤを預かってるって認識で良いんだよな?」


レナートに目配せし、彼の反応を伺う。


「ああ、俺の部下が世話を掛けたな。本来、あんたとシルヴィアを襲う予定は無かった」


「……やっぱ俺?分裂して天井裏に隠れてて良かったよ」


アキムは自分を指差し、苦笑いを浮かべる。


「そうだ……国全体がお前の故郷みたいになるのを恐れていたんだ。ジレーザに代わって謝るよ、すまなかった」


「気にするな、こっちの死人はゼロだから許してやるし、個人的にソフィヤとはケリを付けたかった所だ」


その言葉に、レナートは片方の眉を上げる。


「彼女が殺しに来ても良いって?」


「ああ、あいつがああなった原因の片棒は俺だ。ガキ共に手出ししないなら、相手になるつもりだ」


レナートは苦笑する。


「……難儀だな。別に犯した訳じゃないだろ」


「それでもだ。結果的に、死ぬよりも酷い結果をアイツに与えたんだ。殺したいって言うなら、受けて立ってやる」


「早死にしそうだな、お前は」


レナートの言葉を、鼻で笑った。


「俺もそう思うさ」


それを聞いたレナートは、受け取った酒瓶の封を切り、近くの棚からショットグラスを取り出す。


「アキム、お前幾つだ」


「17だよ」


それを聞いて、レナートは思案する。


「あー……じゃ、駄目だな。来年にだ」


「お堅いな、公務員さん」


そう言って彼を揶揄う。しかし、それが失言だと気付いた。


「……悪いな、見られてるんだ」


彼は少し気を落としているようだった。

恐らく、深く聞いてはいけない話題だ。


「いや、こっちこそ悪かった。酒は大人になってからだ」


互いに作り笑いを浮かべ、レナートから酒が注がれたグラスを差し出される。


「どうも」


受け取り、互いにグラスを掲げる。


「狩りの成功を願って」


「ああ、狩りの成功を願って」


一気に度数の高い酒を飲み干し、グラスを机に置く。レナートも同様に、テーブルにグラスを乗せた。

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