表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/201

29話「竜神?」

シルヴィアは、寺院の階段を歩いていた。

やや離れた間隔で置かれた蝋燭で照らされた内部は、床や天井すらも石で出来ており、やや肌寒いといった気温だ。

司祭と自分の足音だけが続き、沈黙が続く。


長く続く階段は、未だ先が見えず、今が山頂で言うどの辺りに居るのかも分からなかった。

しかし、通路が緩やかに曲がっている為、山に巻きつくような、巨大な螺旋階段ではないかと想像していた。


「ねぇ、ここに棲むティロソレア様って、どんな人?」


シルヴィアは興味本位で尋ねる。


「……とても聡明で、勤勉なお方です」


司祭はやや口ごもった様子で答える。

シルヴィアは目を輝かせ、彼の顔を覗く。


「彼のお方は、数々の竜神様がお隠れになる中、我々を見捨てずに残って下さった二人の竜神様の内の一柱です。それ故に、寛大にて慈愛溢れる御心をもたれております」


「優しい人ってこと?」


司祭は少しの間を置いて思案したのち、不器用に微笑む。

隔世の隠者といった出立ちの彼は、腹芸が苦手なのだと勝手に解釈した。


「ええ、虚言なく誠実に向き合えば、彼のお方も応えて下さるでしょう」


話している内に、階段の終端まで辿り着いていた。厳重な封が掛けられた鉄扉を司祭が押し開ける。


「え……っ?」


突風と降雪に見舞われていた筈の山の頂上に来たというのに、扉の向こうから温かな日差しが差し込み、潤沢な酸素によって育った植物が自生していた。

突然現れた、長閑な森の景色を切り取ったそれを目にして、脳が混乱した。


「驚かれましたか?」


「うん……これ、幻……じゃないよね?」


意を決して扉の先に踏み込む。

柔らかな牧草に覆われた地面が、確かにそこにあった。

ジレーザの寒冷な気候はそこになく、ヴィリングのような優しく、暖かな空間がそこにあった。

小鳥の囀りが聞こえ、すぐ目の前で蝶が舞っていた。


「よく来たな、幼き翼よ」


透き通る声が、森の中に響き渡る。

それを聞いた司祭は、その場で両膝をつき、祈った。


「ティロソレア様がこの先でお待ちです」


そう言われ、少し躊躇った後、声のした方向へと歩く。


「……っ」


上位の存在に会うこともあって、緊張していた。しかし、期待もあった。

片手で胸を押さえながら、一歩ずつ森の中を進む。


そして、巨大な竜がそこにいた。

彼女は一対の巨大な翼を持ち、岩のようなウロコに覆われ、山のような巨躯を持っていた。


「そなたがここに来る事は知っていた。そして、何を求めるのかもな」


巨大な竜は、穏やかな眼差しをシルヴィアに向け、優しくも、しかし威厳のある声で語り掛ける。


「えっと、あなたがティロソレア様?」


「如何にも。私が第六の竜神、ティロソレアだ」


その時、脳裏には列車で会ったオネスタの言葉がよぎっていた。

確かティロソレアを、彼女と呼んでいた。


「女の人って聞いてたから、ごめんなさい」


頭を下げる。

しかし、ティロソレアは沈黙していた。


「ティロソレア様?」


思わず彼の顔を伺う。


「すまない、幼き翼よ。少し思慮していた」


ティロソレアは、軽く咳払いをする。


「そなたの望みである、己の出立ちについては、我々の口からは言えぬ」


「どうして?」


語気を強めて尋ねる。

物語の賢者が使い古したような台詞を言われ、頭に来た。


「まだ伝えるべきではない」


しかし、二度目は無かった。


「何それっ!!あなたにとっては些細なことだろうけど、あたしにとっては一大事なのに!!あたしはさ……気が付いたら草原に居たの!」


シルヴィアは気持ちを抑える為、一度深呼吸をして、ティロソレアを睨む。


「誰から産まれたかも分からないし、何があってここに産まれたのかも分からない!聖典に出る人物みたいに、神様が出て来て出自を教えてくれないから、こっちから直接来たのに、あなたは何も教えてくれない。まるで、臭いものに蓋するみたいにさ!!」


目尻に涙を浮かべ、堪えきれない怒りと悔しさを吐露する。


「……目処は付いている。しかし、そなたを傷付けると同時に、大きな厄災の種となるだろう」


「それでもいい。教えて」


「駄目だ。もしそれを知れば、そなたは″こちら側″に来る事になる。そなたの旅は終わり、あの男とも別れる事となるだろう」


歯軋りをし、拳を固めて大きく跳躍し、ティロソレアに殴り掛かる。


「この分からず屋!!」


しかし拳が触れる直前、目の前が光に包まれ、その場から消失した。



クリフは寺院の前で、大トカゲと遊んでいた。

先程噛みつかれ、投げ捨てたのも束の間、逃げる気があるのかを疑う程の遅さで歩くトカゲを見ていると、どこか愛らしさを感じ、勝手に和解した。


携帯していた干し肉を手に取り、大トカゲのギリギリ届かない位置で焦らす。


「ぶみっ!ぶみっ!!」


食べたそうに口を動かしながら、頑張って後ろ足だけで立とうとしていた。


「ほーら、頑張れ頑張れ」


「ぶみーっ!!」


大トカゲは助走をつけて跳躍し、持っていた干し肉にかぶりつく。


「おっ、よしよし。偉いぞ」


肉を咀嚼中の大トカゲの喉元を撫でる、爬虫類は触られる事を嫌がると聞いたが、このトカゲはそんな素振りを見せる事はなく、喉を鳴らして喜んでいた。


__コイツ、ドラゴンの子供だったりしてな。


「クリフ、俺もちょっとくらい……良いだろ?」


アキムが顔を覗き込みながら、こちらを見つける。


「ぶみっ!」


大トカゲは不細工な鳴き声で、次の干し肉をせびる。


「分かったよ、次はお前な……」


シルフに吊り下げられた荷袋に手を伸ばし、 干し肉を取り出そうとしたその時、目の前で閃光が弾けた。


「あ……?」


光が晴れると、そこにはシルヴィアが居た。


「おかえり、上手くいったか?」


彼女から返事はなかった。


「クソっ!あの……クソったれ!!結局……あたしは何なのっ……!!」


その場で怒るシルヴィアを見て、思わず顔を顰める。


「行儀が悪いな……」


そう呟くと、アキムは目を見開いてこちらを見つめた。


「あんたの口癖だと思うけど」


「……確かにな」


口調を矯正すべきかと考えながら、彼女の元に歩み寄ると、その途中でシルヴィアは大粒の涙を流し始めていた。


「シルヴィア!……何があったんだ?」


シルヴィアの前で腰を下ろし、優しげな眼差しを向ける。


「結局、何も教えてくれなかったの。どうしても知りたいならクリフと別れろって」


シルヴィアはとめどなく溢れる涙を拭いながら話す。


「そうか……選んでくれてありがとな」


そう言って彼女を優しく抱き締める。


「……うん」


胸を借りてすすり泣く彼女をよそにクリフは少し思案する。


__姉さんが全部教えてくれれば、カタが付くんだけどな。


最近、姉が現れる頻度が減っていた。

おそらく、尋ねられたくないことが増えたのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ