追想
「でも、自分で割ったことは一度もなかったものですから――おかげさまで、なんとかこなすことができました」
入れ知恵したのは、風音だけではなかったらしい。深々と頭を下げた千波に、宿合は居心地悪そうに答える。
「いや、お上手でしたよ。俺達なんか、きれいに割れるようになるまで、随分かかりましたから」
壁に寄り掛かって、肩で息をしている風音に、含みのある笑いをよこした。
「誰かさんも、入れ知恵してたみたいですが」
何も言わずにいるから、尚のこと人が悪い。どぎまぎしながら、風音は話をそらせようとした。
「宿合さんも、割ったことがあるんですか?」
宿合は鋭い光を投げかける、南国の太陽を仰いだ。
「実家からの差し入れでな。結局うまく割れなかったんだが、寮の仲間が面白がってさ。みんなで金を出し合って、市場に買いに行ったんだ。最後までコツをつかめなかったのが、一だった。」
「想像がつきません」
目を丸くした風音に、宿合は可笑しそうに続けた。
「万事につけて隙のない男だったからな、あいつに自慢できるのがうれしかったんだろう。大してうまくもないのに、事あるごとに飲んでた気がするよ。でも、傑作だったのは、初めて飲んだ時の感想だったな」
気が気ではなかったので、言われた時には気付かなかったが、風音の頭の中では、大体の構図が出来上がっていた。
「……一気飲みしたんですね」
「そうだ。ついでに、一言目も予想がつくか?」
兄の顔を思い出してみるが、見当がつけられないまま、風音は自分の感想を述べてみた。
「……甘いものだと、思った……とか」
「それだ、それ」
宿合は腹を抱えて、今度は遠慮なく声に出して笑った。決まり悪そうに黙りこくった風音に、千波が声をかける。
「不思議なこともあるものですね。不知火さんがいらしたのも偶然なら、宿合さんとお兄様が巡り合ったのも偶然ですし――」
「一気飲みしたのは、遺伝だな」
宿合は笑ってから、
「妙に懐かしいな、昨日のことのような気もするし」
と付け加えた。背中を追うばかりではない、他のところで、一につながっている――潮風が広場を吹き抜け、鮮明な空気が、全身に染みわたる。縮んだ胃袋をいたわりながら、風音も空を仰いだ。




