日差し
「代わります」
懐紙で手を拭いながら、大股で帰ってきた風音と入れ替わりに、宿合が商館に駆け込む。玄関をくぐるのを見届けた風音は、真白い壁にもたれかかった。富良樹の上よりは太陽から遠いはずだが、蒸し暑いせいだろう、いつもよりも太陽が大きく見える。他にすることもなく、じっと向かいの壁を眺めるが、おしゃべりに興じる人影は、陰に沈んでよく分からない。
「お気になさらず、陰に入ってください。そのお召しものでは、つらいでしょう」
金縁のボタンを一番上まで留めていたため、全身から汗が吹き出し、髪からは大粒の汗が滴っていた。横目でちらりと千波をうかがい、鼻を鳴らす。向こうに行きたくないのは分かるが、風音には傘をさしてくれる従者はいないのだ。
「護衛対象から離れるわけにもいくまい――お前こそ、なんで行かないんだ?」
「せっかく持ってこさせた日傘が無駄になってしまいますから。……ごめんなさい、つき合わせてしまって」
うすら笑いを浮かべて、わざと聞いた風音にも、千波は無理に笑って答えた。失敗だった。そうか、と呟き、眩しさに目を伏せて、小さなため息をつく。苦々しい表情に、気を遣ったのだろうか、千波はぼそぼそと続けた。
「初めからそのつもりできていますから――もっと傘を持ってこさせるべきでした」
ことばを探して、やけた石畳の上に視線を漂わせる二人を、じりじりと燃える太陽が照らしていた。




