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妄想と幻想


(さて、状況を整理してみよう)

 我に返ったレイラは口や足の拘束を解きながら胸中で呟いた。

(何故だかわからないが私は捕らわれ、気がついたらこの部屋にいた)

 そして意識を取り戻してたいして時間の経たぬうちにやってきた少年に助けられた。

(いや、拘束の一部を解いて貰ったという意味では確かに助けて貰ったが、私はここから抜け出せたわけではないし……)

 そもそもレイラは自分の捕まった理由さえ知らないのだ。

(この少年は聞けば答えてくれるだろうか?)

 レイラが下着しか身につけていなかったことに今更ながら気づいた少年は、顔を赤くしたまま俯いてしまっている。

(だが、そんなことはどうでもいい。一番重要なのはこの少年にどう対応するかということだろう)

 身分に由来する二人の立場と性別、二つの壁が立ちはだかる先に居るレイラの想い寄せる王女(ひと)と少年はまさに『うり二つ』なのだ。少なくとも壁の一つ取り払われたところにいる少年は、王女を高嶺の花だとするとそれより手折りやすい花に見えても仕方がないことだろう。

「こっちの少年なら性別問題もクリア、本物にはとても手が出ないから」

 などと王女の代理として少年を求めるのはある意味不誠実きわまりないだろうが。

(どうする、私? やるか? お嫁に行けなくなったので責任とって貰うか? むしろこちらから押し倒すか?)

 などとレイラの脳内に妥協派が存在するのも事実であった。

「何を言っている、私がお慕い申し上げているのは姫であってあの少年ではない! そもそもどうしてそこまで話が飛躍する?」

「思い立ったが吉日、『恋はいつでも全力突撃、当たって砕けろ、波状攻撃!』だろうに」

「だからこそ、姫に告白したのだろう。ここまできてあの少年に乗り換えようなど笑止千万」

「よし、わかった。ここは公平に姫と私をこの少年に貰って貰おう」

「破廉恥だぞ、貴様! それでも私か!」

 レイラの脳内会議をそのまま引っ張り出してくるとしたらこのようなものとなる。何というか大混乱だが、実はレイラも少年に下着姿を見られたことを引きずって若干てんぱって居たのだ。

「そうは言うがな、良いか私よ。あの少年と私であれば私が女サイドのデートが可能なのだぞ?」

 脳内レイラの一人が口にしたのはまさに悪魔のささやき。それは耳にした者に甘い夢を見せて惑わす――。



「すまない、待たせたか?」

「いいや、今来たところだよ」

 生まれてこの方着たことの無かった年頃の娘が纏うような衣服に身を包み、待ち合わせ場所に決めていた彫像のもとまでようやく辿り着いたレイラに少年は優しく微笑む。

「きょ、今日の私はお忍びで乙女だからな、思う存分エスコートして貰いたい」

「もちろん。それじゃあ、今日は僕がレイラさん……レイラの騎士だね」

 口調が乙女じゃないとか、言葉の使い方がおかしいなどと幼なじみの侍女のようなツッコミはせず、ただ笑んで。

「うん、ふつつか者だが、よろしく頼……ッ!」

 頷こうとしたレイラは手の甲に唇を落とされて言葉を失う。顔は一気に紅潮し、何かを探すように泳ぐ目に映るのは街角の風景。

「どうかしましたか、僕の姫様」

(落ち着け、落ち着け私!)

 少しだけ悪戯っぽい目で顔を覗き込まれたレイラは、ものすごい勢いで頭を振りながら自分を抱きしめるようにして何かに耐える。鳥肌が立ったとか不快だとかそう言うわけではない。レイラの中を駆けめぐる感情はむしろ間逆にあるものだった。

「あー、いいか? 僕の姫様と言うことは、私の言うことは私がして欲しいと思えば……」

「もちろん何だってするよ?」

「っ、ぐぁっ」

 冷静を装って何気なく向けた問いにレイラは思わず仰け反り。

(何でも、だと? では手を繋いで歩くとか食べ物を食べさせ会うとか人前でイチャイチャは当然、あんなことやそんなことまでもぉっ!)

 明らかにレイラは重症だった。そもそもレイラは耳年増であるのだ、しかも騎士団の同僚にかなり毒されている。

「それのどこが乙女なんですかぁぁぁぁっ!」

 とアンナが聞いたらおそらく絶叫するであろうとんでもないことを脳内に浮かべながら、目はキラキラと言うよりギラギラさせて肉食獣が獲物に向けるような視線を少年にやって。

「その言葉に嘘偽りはないな?」

「勿論」

 まぶしいほどの笑顔と共に少年が返した答にレイラの心は決まって――。



「はっ!」

 我に返るとレイラは下着姿のまま少年の前に座り込んでいた。

(なんて恐ろしい誘惑だ。一瞬妥協しかけた)

 顔には出さず肉食系の夢に戦慄しながら頭を振ったのは、脳内の何かを頭の外に放り出したかったからだろう。

 もちろん、中途半端なタイミングで復活した少年が、かわいそうによっぽど怖い想像をしたんだなとレイラの反応を別方向に誤解していたことなど知るよしもない。

(うん、どうしたんだろう?)

 そして、レイラの妄想と比べればかわいいものといえる程度の『もしも』を一瞬だけ想像したことも。互いが互いに相手が本当の思い人であることに気づかず二人は悩み。

(そう言えば、この少年はさっきから一言も話していないな)

 人の想いなど歯牙にもかけず運命の車は回る。レイラが全貌では無いにしても自身のさらわれた理由を知るのは、この数分後のこと。

「筆談? 喋れない?」

 羊皮紙になにやら書き始めた少年はレイラの問いに頷きを返した。



お待たせしました、今回は短めです。

レイラと少年の恋の行方もいよいよ大詰め?


そういうわけで続きます。

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