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冷えた弁当

「全国市民生活互助共済会」は、懲役に行った暴力団組員の家族(彼ら彼女らは、暴力団員ではなく「一般市民」です)の生活を互助するために設立された、健全な「共済会」です。

だから、その職員は銀行に口座も作れます。ローンも組めます。


だーって……ヤクザとちゃうもん!

オフィスを出て、湿った風が吹く神戸の街並みを鈴木と智が並んで歩く。

スーツ姿の男女が外回りへ向かう、どこにでもあるビジネスパーソンの光景だ。


「……やっぱ、所長の指示も『7年1人』やった。最悪でも『7年2人』までやて」


周囲の雑音に紛れさせるように、鈴木がぼそりと呟いた。


「アホ一人、か。最悪の場合はあっち(襲撃側)とこっち(浅間組)で1人ずつ……っちゅう計算やね」


智が小さく愚痴る。

平日の昼下がり、一般の人通りもある歩道での会話だ。すれ違う人々には、ただのサラリーマンが仕事の愚痴を叩き合っている、中身の伴わない謎の暗号のように聞こえるだろう。

だが、この「全国市民生活互助共済会」のバディにとっては、これだけで十分に恐ろしい意味が通じ合っていた。


「あとは、手続きの『早さ』やな……」

「(裁判が)上手いこと転がったら、5年か6年もあるっちゃあるなー。……ねえ、先生の方の感触は?」


智の問いかけに、鈴木はポケットに手を突っ込んだまま小さく息を吐いた。


「まだわからんって。ま、今の厳しいご時世やからな。……今回の件、さすがに『弁当』はなしやろ、って(弁護士の)先生もぼやいとったわ」


「!」


『弁当』というその不穏な単語に、智は思わず肩をすくめた。

ヤクザや博徒の業界において、「弁当」とは執行猶予のことを指す。刑務所の外で食べるお弁当、という意味合いの、どこかブラックユーモアの効いた隠語だ。


「もし……もしやで。その襲撃してきたアホが、すでに『弁当』持ちやったら……7年が10年、あるいはそれ以上になるってこと?」

「はは、そんな顔すんなって」


深刻な表情になった智を見て、鈴木が小さく吹き出した。


「弁当持っとるようなヤツは、上の連中もフツーはヒットマンには使わんやん? 満期が跳ね上がってコスパが悪すぎるしな」

「それもそうか……」


智はほんの幾ばくかの、しかし切実な希望を込めて言葉を紡いだ。


「そのアホが、ウチの約款ルールも知らんようなホンマモンのアホやったら……もしかしてロハ(タダ)で回せるかも」

「ハハ、そうなったら最高やな。ウチのボーナスも無傷で済む」


鈴木が軽やかに笑う。

すれ違う見ず知らずの他人がこの会話を小耳に挟んだら、きっと「今日の昼飯の弁当の相談」を楽しげにしている微笑ましいオフィス街のカップルにでも見えただろう。

あるいは、今時の口の悪い女性が、自分の恋人のことを「アホ」と呼びながら、彼の今日のランチ代について同僚に愚痴をこぼしているか。


――二人とも、周囲の他人に「あえてそう聞こえるように」絶妙なトーンで話しているのだから、そのカモフラージュは完璧だった。

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