吉報? 凶報?
「いやあ、しかし、この歳になって外でずっと立ち仕事をするのは、本当に体にキツイですわ。腰にきます」
年かさの警察官が、ジョッキの泡を唇につけながらぼやいた。浅間組の事務所前での、二十四時間体制の張り込みとピケを指しているのは明白だった。
「ははは、それはお気の毒に。お体をお大事にしてください。ちなみに、その立ち仕事、いつまで続きそうですか?」
鈴木がすかさず、軽いジャブのような質問を投げかける。
「さあねえ。予定では、あと二週間か三週間といったところですか。これ以上長引いて、あの炎天下の中で立たされ続けるようなら、先にこちらの心が折れてしまいますよ」
鈴木と警察官がジョッキを再び軽くぶつけ合う。
彼らの会話を要約するまでもない。警察側も、これといった決定的な物証を掴めておらず、捜査の進捗が極めて芳しくないという告白だった。
(……なるほど。警察が自力で持ちこたえられるタイムリミットは、最短で二週間、長くて三週間か)
智は冷たいビールを口に含みながら、男たちの会話から抽出した数字を、脳内で自分の今後のスケジュールシートと照合し、緻密に組み立てていく。
「そちらの『お得意様』の様子はどうなんです?」
今度は警察官の方から、探るような視線が飛んできた。
「こっちは……まぁ、上の連中はいつも通りお気楽なもんですけど、今回の直接の担当者が、絵に描いたような脳筋でしてね。三日以上前のことは右から左へ綺麗に忘れてしまうような生き物ですから、本当に難儀していますわ」
「ああ、例の『あそこ』の担当者ですか。確かにあの一家は、昔から揃いも揃って脳筋ですからねぇ」
「本当に。そのまま綺麗さっぱり事件のことも忘れて大人しくしてくれたら、こっちとしても非常に楽なんですが……。ああいう手合いに限って、半年後とか一年後とか、忘れた頃に突然何かを思い出して、野生のゴリラみたいに暴れ出したりするからタチが悪いんですよ」
これもまた、浅間組側が犯人の手がかりを「何一つとして掴めていない」という事実を、婉曲に伝えるための返事だった。
そして同時に、その言葉には「警察が今のうちにきちんと犯人を捕まえて、事件をしかるべき場所に片付けておいてくれないと、後になって浅間組のバカどもが独自のルートで犯人を見つけて暴発するかもしれない」という、共済会側からの強烈な念押しと警告の意味も含まれていた。
その後も、四人は一時間ほどビールやハイボールを交互に飲み交わし、運ばれてきたタコの唐揚げや焼き鳥といった適当なおつまみをつついた。そして、最後に一円単位まできっちりとワリカンで会計を済ませ、それぞれ何事もなかったかのように夜の雑踏へと散り、帰途についた。
帰りの電車の車内で、吊り革に掴まりながら智がポツリと呟いた。
「結局、向こうも何も分かってないみたいだし、ちょっと無駄足やったね……」
揺れる車内で、鈴木が楽しげに声を立てて笑った。
「いやいや、そんなことないって。警察の捜査のタイムリミットが最長でも三週間っていう、タイムリーで具体的な情報が手に入ったんやから。これだけでも十分、浅間組を揺さぶるためのハッタリのネタになるよ。情報収集としてはゼロやない、大収穫や」




