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憎悪と愛の証明  作者: あいぷ


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第5話・名前

ヘイリオンが小屋の扉を開けた時、今はもう消えかけている火種だけが暖炉の中で微かに瞬いていた。

室内にはまだ余熱が残っていたが、冷たく冷えゆく空気が徐々に体を蝕んでいくようだった。


毛布を被り、うずくまったままその場にいる見知らぬ少女は、相変わらずそこにいた。昨日と違う点があるなら、目を閉じて近くの壁にもたれかかっていることくらいだった。

まるで何事もなかったかのように眠っている様子だったが、扉が開く音にそのまぶたがゆっくりと動いた。扉の隙間から差し込む陽の光が眩しいのか、少女は目を少ししかめた。



「……まだ生きてるな。」



敷居に立ったレオニスが、低く呟いた。彼の白髪に近い薄い銀色の髪と澄んだ青い瞳が、日差しを受けてきらめいた。隣に立っていたヘイリオンは、その無愛想な言葉に安心が混ざっていることに気づき、緊張が解けたように肩の力を抜いた。



「大丈夫?一晩中一人だったから。」



ヘイリオンは小屋の中のカーテンを開けた。雪が止み、大地を照らす日差しが小屋の中に明るく差し込んだ。そして三人の子供の顔を照らすと、昨日はぼんやりとしか見えなかった見知らぬ少女の表情が少しだけ鮮明になった。

警戒心は依然として残っていたが、二人の少年が再び訪ねてきたという事実に、驚きと妙な安堵感が入り混じって表れていた。


ヘイリオンの言葉に少女は答えなかった。

しかし、前日よりもはるかに鮮明な表情で二人を交互に見つめた。

レオニスは相変わらず鋭い視線で彼女を見下ろしていた。しかし、歩み寄って火種を確認すると、皮肉るように尋ねた。



「……昨日は思い出せないと言っていたが、今日は口もきけないのか。」

「……言葉が出なかっただけ。あなたたちが本当に戻ってきたのが、不思議で。」



その声は思ったよりもはっきりとして、力があった。

ヘイリオンは安堵の溜息をつき、明るく笑った。



「よかった!昨日は本当に心配したんだ。本当にどうにかなっちゃうんじゃないかって……」

「ううん、おかげで助かった。……その、ありがとう。」



感謝を述べる少女の表情には、微妙な感情が過ぎ去った。二人の少年が再び戻ってきた事実が、彼女にとっては思いがけないことだったようだ。レオニスはその一言に瞬間呆然と固まり、やがて無駄に空咳をして沈黙を埋めた。



「こいつを一人で行かせて何かあったら困るだろ。それが気になって来ただけだ。」

「レオ、君って本当に……」



その言葉にヘイリオンは呆れたように溜息をついた。不満げな表情でヘイリオンに向き合ったレオニスは、身を翻して暖炉の方へと歩いていった。すぐに薪をいくつか足して火を起こしながら付け加えた。



「それにしても、お前、すごく汚いな。」

「き、汚いって……」

「レオ!」



どうやら雪や泥まみれの地面を転げ回ってきたため、実際に少女の服や髪はめちゃくちゃだった。その言葉に少しショックを受けたような少女の声に、ヘイリオンは慌ててレオニスの名前を呼んだ。



「……ここには体を拭けるようなものもあるぞ。必要ならお湯を沸かしてやることもできる。」



すぐに続いた言葉に、ヘイリオンが目を丸くして彼を見た。



「レオ、君、そんなこともできるの?」

「なんだ、お前にはできないみたいだな?ヘイリオン坊ちゃん。」

「うん、この機会に学んでおかないとね。」



レオニスは気恥ずかしさからか、無駄にぶっきらぼうに答えた。しかしヘイリオンは慣れたように肩を一度すくめてみせるだけだった。

短い攻防を見守っていた少女は、顔を上げて二人の少年を見上げた。初めての状況にどう反応していいかわからないという眼差しだった。


その視線に気づいたヘイリオンが、少女に慎重に近づいた。

失礼するよ、と言いながら片手を伸ばして少女の額に手のひらを当ててみると、軽く微笑んでみせた。



「……あ、熱は下がったね。昨日は少し熱くて心配してたんだ。よかった!」



突然の接触にビクッとしたが、特に抵抗はしなかった。レオニスはその様子を見て、お湯を沸かす準備を始めた。



「そうだ、お腹空いてるよね?少し食べ物を持ってきたんだ。」



ヘイリオンが鞄から小さな包みを取り出した。



「パンとチーズだよ。少ししかないけど……あ、服も持ってきたんだ。僕が着てたものだから新品じゃないけど、それでも悪くはないはずだよ……!」



オルベルはしばらくためらいながらパンとヘイリオンを交互に見ていたが、やがておずおずと手を伸ばし、パンと服の入った包みを受け取った。


パンを食べる様子を見守っていたヘイリオンが小屋を整頓している間、レオニスはお湯を沸かし、清潔な布と一緒に少女の横に置いた。そして窓際に立ち、外の様子をうかがった。森は相変わらず静寂に包まれ、雪が再び細かく降り始めていた。



「……あの。」



食事を終えた少女は、そこで初めて自分の横に置かれたお湯と清潔な布を覗き込んだ。

しばらくためらってから言葉を続けた。



「ごめんだけど、少し外に出ててくれる?それか、後ろを向いているか……」



その言葉に二人の少年は瞬きをし、やがて顔を見合わせた。直後、レオニスは少し眉をひそめたが、ヘイリオンは笑って頷いた。



「いや、あそこで適当に……、ちょっ、ヘイル、離せ」

「うん、いいよ!終わったら呼んでね。僕たちは雪だるまでも作ってるから〜」



ヘイリオンは何か言おうとしたレオニスの言葉を遮り、彼を引っ張って小屋を出た。すると冷たい空気がすぐに顔を掠めた。ヘイリオンは上着を直して、小さな溜息をついた。



「レオ、お湯まで沸かしてあげた割には無神経だね。」

「なんだよ、急に。」



その言葉にヘイリオンは首を横に振ってみせたが、他人から見ればどちらもせいぜい十代前半の幼い少年だった。小屋の中で体を拭いているであろう少女もまた、同じくらいの年頃だった。



「……とにかく、今日はちょっと驚いたよ。来てくれると信じてはいたけど。」

「……」

「ありがとう、レオ。」



レオニスの返事はなかったが、彼の視線は何かを考えているのか、雪の上に残った足跡に沿ってしばらく遠くへと向けられた。雪は再び少しずつ舞い散り始め、森の中の静寂はかえって妙な緊張感をもたらしていた。


しばらくして、小屋の中からおずおずとした声が聞こえてきた。



「……ごめん。もう入ってきてもいいよ。」



その言葉にヘイリオンが先に扉を開けて入り、レオニスが後に続いた。少女は清潔な服に着替えた後、髪を拭き終えようとしていた。依然として体のあちこちに小さな傷があったが、昨日よりは顔色がはるかに良さそうに見えた。



「……これで少なくとも汚くはないな。」



レオニスが無頓着にぽつりと言った。その言葉に少女は少しの間唇を固く結んだが、ヘイリオンがすぐに前に出て雰囲気を変えた。



「あ、そうだ。座ってみて。髪は僕が梳かしてあげる。」

「……?」



訝しげに少女が首を傾げると、ヘイリオンは明るく笑いながら少女の両肩を掴んで後ろを向かせ、そっと座らせた。



「僕、妹がたくさんいるんだ。こういうのはよくやってあげるから慣れてるんだよ。」



手と櫛が慎重に髪を分けると、荒く絡まっていた黒い髪が徐々にほぐれていった。その見慣れない感覚に、少女は少し緊張したように肩をこわばらせていたが、すぐに目を伏せたまま大人しくされるがままになった。


その様子を横で見ていたレオニスは、小さく溜息をついた。



「それにしても……なんて呼べばいいかわからないな。」



ヘイリオンは髪を均等に梳かしながら、優しい声で言葉を続けた。



「あのさ、記憶が戻るまで、僕たちが仮の名前を付けてもいいかな?」



少女の金色の瞳が微かに揺れた。少し戸惑うように瞬きをしたが、すぐに一度頷いてみせた。ヘイリオンは振り向き、腕を組んで壁にもたれかかっているレオニスを見上げた。



「……まあ、不便だからな。」



適当に答えて視線をそらすレオニスを見た後、ヘイリオンは微笑みを浮かべて少し考え込んだ。それから顔を上げ、再びレオニスを見た。レオニスの首にかけられた銀色のチェーン、その継ぎ目で輝く小さな金色の宝石が彼の目に入った。



「レオ。君のネックレスのその宝石、名前はなんだっけ?」



レオニスはちらりと少女を見た。ヘイリオンと一緒に自分を見上げる、日差しを受けて鮮やかに輝く金色の瞳。彼はしばらく無言で立っていたが、顔を背けた。しかしどういうわけか、素直に答えを口にした。



「オルベル。」

「それじゃあ……オルベル。宝石の名前だけど……どうかな?」



少女は構わないというように、ゆっくりと頷いた。ヘイリオンは少女の髪を綺麗に編み込んだ後、ゆっくりと立ち上がった。ヘイリオンは明るく笑いながら手を差し出した。



「それじゃあ、これからよろしくね。オルベル。」

「……うん。」



外ではまた雪が激しく舞い散っていたが、小屋の中はしばし温かい静寂に包まれた。

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