第4話 ファイアフラワー
学校祭は忙しくも無事に終了し、
残りのイベントは後夜祭の打ち上げ花火だけになっていた。
校庭には人が溢れている。
ステージの照明、あちこちで上がる笑い声。
昼間とは別の顔をした学校を、
私は生徒会室から眺めている。
生徒会の仕事は、ほとんど終わっている。
この2日間は本当に疲れた。
いや、もっとか。
私は、窓から花火をみるくらいがちょうどいい。
「咲ちゃん」
扉の方から、聞き慣れた声。
振り返ると、先輩が立っていた。
生徒会役員が、行事の際に着用する腕章はもう外れている。
「少しだけ、回ろっか」
学園祭中も、わずかな自由時間はあった、
が圧倒的人気な先輩がフリーになるわけもなく……
……ただ、恋人はいないらしかった。
私も私で、普段あまり関わらないグループに連れ回された。
もっぱら、秋月先輩とはどんな関係なの~、みたいな話ばっかりで困ったが…
だから、この誘いは嬉しかった。
「はい」
短く返事をすると、 先輩は満足そうに笑った。
私は早足で隣に並ぶ。
15分後に打ち上げ予定です、
とアナウンスがあり校舎の中にいた生徒も、
ほとんどが校庭に出ていった。
先輩が目を輝かせて聞いてくる、
「お化け屋敷いった?1-Dの?」
「行きたかったんですけど、時間がなかったですね。」
そういうと、先輩は最初から決めてたかのように、私の手を取った。
細い指、手のひらの温かさ。
いつもの、みお先輩なのに少しだけ緊張した。
「行こ?お化けはいないかもしれないけど。」
——
「はぁ~、誰もいないとはいえ、まぁまぁ怖かったね、、、」
サウンドトラップで大絶叫してたくせにまぁまぁだったのか。
その絶叫のほうが私は怖かったぞ。
「結構びびってましたよね。」
「ん~、咲ちゃんよりはね?」
そういうレベルじゃなかっただろ、と思い出し笑いしてしまった。
「こら~、馬鹿にしただろ~」と、先輩は私の頭を撫でる。
いいところで、先輩のスマホの着信音が鳴る。
先輩は、「ちょっと待ってね、」と静かに言って電話にでる。
スマホからは同級生からだろう、
「花火始まるぞ」「なにやってんのー?」「いつくるん?」とか、
みお先輩を待つ声が聞こえる。
先輩は、
ありもしない生徒会の仕事を口実に、
半ば強引に会話を切り上げていた。
「行かなくて大丈夫ですか?」
「ん、大丈夫。」
さすが、学校中の人気者。
もし、私がこんなふうに誘いを断ったら、二度とは誘ってもらえないと思った。
これを背徳感というのだろう。
頭のなかがジーンと痺れた。
それからは、校舎の中をゆっくり歩いた。
昼間は人で溢れていた廊下も、
今は静かで、
この2日間、余所行きだった学校が、
私たちだけの場所みたいに感じられた。
生徒会室に戻ったとき、予定よりも遅れて最初の花火が上がった。
校庭の方からは歓声が聞こえるけれど、 ここには私たち以外誰もいない。
みお先輩が口を開く、
「咲ちゃんが生徒会に入ったときのこと覚えてる?」
私は目をそらしていった、 「……覚えてないです。」
「嘘だ~。覚えてないなら最初から話してあげようか~?」
「……覚えてるのでやめてください。」
ああだこうだ、と過去の話を少しした後に先輩が言った。
「咲ちゃんは、変わらないなぁ。」
その時の私に、その言葉の意図はくみ取れなかった。
「それはポジティブにとらえてもいいことですか?」
先輩は肯定も否定もしなかった。
少しの沈黙の後、先輩が言った、
「咲ちゃん、疲れたでしょ」
「……ちょっとだけ」
本当は、かなり疲れていた。
身体も、頭も、全部。
でも、その言葉を口に出すより先に、 みお先輩が私の頭に手を置いた。
いつもの、あの仕草。
「顔がおねむだもん」
言い終わると同時に最後の花火が弾ける。
色づく光が、一瞬だけ生徒会室を照らす。
みお先輩の横顔が、いつもより艶やかにみえた。
私を成長させてくれた人。
そんな人が隣にいてくれることが、
今はたまらなく嬉しかった。
――学園祭の終了と共に現生徒会は解散となる。
一応、体育祭までは元生徒会も手伝うことが恒例だ。
みお先輩のいない生徒会を続けるかは迷ったが、
ここでやめてしまうと、
元の自分に戻ってしまうような、
そんな気がした。




