伝説
永きに渡って栄華を極めたイスタルシア王国には、実に興味深い逸話がいくつか残されている。中でも有名なものは、中期の頃に遺された黒姫の伝説であろう。
イスタルシア暦八百九十ニ年、アシュクロフト・ティボリ・イスタルシアの統治の頃、王宮の庭園に突如黒色の見事な魔力を漂わせた天女が降臨した。
その天女の魔力には、常人にはない得も言われぬ魅力があり、一度虜になった者は二度とこの世に戻ってこれなかったという。
黒色の天女を天に返すまいと沢山の騎士が彼女を求めたが、天女が唯一心を開いたのは、イスタルシアの王子、ただ一人であった。
黒色の天女と心を通わせることのできた王子は、その加護を授かった。頭髪は天女と瓜二つの見事な黒色に染まり、その魔力を自由自在に扱うことができた。二人の前ではどんな時の権力者でさえも平伏すしかなかったという。
だが二人は、その危うき力を決して悪しき事には用いなかった。
アシュクロフト・ティボリ・イスタルシアは黒色の天女の守護の元、国の統治に尽力した。そして彼の王が民のことを思い続ける限り、その守護は続いた。
イスタルシアには数々の武勇伝が遺されているが、この時代ほど、これほどまでに穏やかに平和と繁栄が続いた時代もなかっただろう。
晩年、二人は手を取り合いながら、同時に眠るように息を引き取ったといわれている。その不朽体を欲しがる者がこぞって後を絶たなかったが、イスタルシア王は二人の亡骸を掘り起こすことを厳重に禁じ、決してその在処を口にしなかった。
現在まで、その永眠の地は明らかになっていない。
――とある歴史研究家の著書より――
ここまでお付き合いいただいて、ありがとうございました。本編はこれにて一旦完結となります。
あとは補足や後日談をちょこちょことのせようかと思ってます。もう少しラブラブさせたかったのにシリアスな場面ばかりになってしまったので、ほのぼのとしたお話なんかを中心に。よければまたお付き合いください。
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