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満月 古き者たちの議

書き直す時間も気力もないので、かといって中断してるのも気持ち悪いので、昔書いたもので最後まで突っ走ることにしました!

 重い沈黙が室内を包んでいた。

 円卓には王アストライオスと、四人の王候補者、ルナ、数名の長老たちが座っている。 


 王はゆっくりと腰を上げた。琥珀色の瞳の奥には、深い影が差していた。


「……もうやめよう」

 低く響く王の声に、場の空気が揺れた。


 長老の一人が眉をひそめる。

「しかし陛下、奪目の儀は数万年続く伝統……」 


「……ルナは闇の病を治すことができる。もはや、民からの反対を押し切ってまで、奪目の儀を続ける理由がない」


「……それに、天人の目を手に入れたところで、民の心を掌握する力などないのだ」

 アストライオス王の言葉が落ちた瞬間、広間の空気が爆ぜるようにざわめいた。


「ありえぬ!!」


  長老の一人が椅子を蹴って立ち上がる。白い髭を震わせ、机を叩きつけた。



  「数万年……我らは天人の目こそが王の証と信じてきたのだぞ! 影人の心を掌握する力はないですと!? 祖先の歩みを、我らが築いた秩序を、全て無に帰すことになる!!」

 別の長老が声を張り上げる。

「民は皆、目に力が宿ると信じてきた!!……それを取り上げれば、希望を失い、混乱するだけだ!」

「そうだ……!」

「王よ、正気を失われたのではあるまいな……!」

 長老たちの怒声が重なり、広間は渦を巻くように荒れた。

  古き伝統を守ろうとする必死さ、動揺を隠せぬ恐怖――それが怒りとなって迸っていた。

 だが、王は琥珀の瞳で彼らを睨み返し、低く言い放った。

「……黙れ。幻想に縋り、罪なき命を奪うことを正義と呼ぶのは、もうやめよ」

 広間は再び凍りついた。

 一方、四人の候補者は静かにその言葉を受け止めている――すでに知っていた事実だからだ。


「……王のおっしゃっていることは本当ですわ。王家の古文書によると、天人の目は太陽を見るためのレンズにすぎません。あなた方が読めない、古代天人語ではっきりと書かれてありましたわ」


 会議に同席しているルナがはっきりと言う。

 

「お主、いつの間にあの本を読んだのだ……?」

 長老の一人が赤い目でぎろりとルナを睨む。


「しかし、あの前半のわけのわからない文字は古代天人語だったのか……道理で読めないはずだ……」

 長老メラクが納得したように言う。


 アストライオス王が続ける 

「光の世界への憧れは幻想にすぎぬ。あそこには差別と暴力しかないことは皆すでに知っているだろう。」


 ノックスは黙って考えていた。

(つまり、あの本の古代影人語の部分は、上層部は全員知っているんだな。でも、天人の目の本当の力についてはみんな知らなかったのか……)


「天人の目に民を従える力はなく、太陽を見られるようになっても光の世界では生きていけない。ならば奪目の儀は……ただの残酷な見世物にすぎません。陛下は、そのことをご存じだったのですか?」


 アルトが表情筋一つ揺るがさずに淡々と王に問いかける。琥珀色の目が曇る。


「……知っていた。私が候補者だった時から」


 一瞬の沈黙。

 その声には、長年押し殺してきた後悔と、自らの無力を突きつける苦さがにじんでいた。

 それを聞いたリゲルは何かが切れたようで、声を荒げる。


「……じゃあ俺たちがやってきたことは何なんだ!? 今まで毎月、必死に戦って、ルナの目を奪おうとして……全部茶番だったのも御存じだったのですか!?」


 リゲルの怒りは、裏切られた者の叫びだった。

 アストライオスはうつろな琥珀色の目をリゲルに向ける。


「……制度を変えるには王の権威だけでは足りない。真実を明かせば、数万年信じてきた幻想が崩れ、民は暴徒と化すだろう。私も、上層部も……恐れから口を閉ざしたのだ。光の世界への憧れを断ち切れば、この闇に生きる希望も失われると恐れたのだ」


 アストライオスはしばし目を閉じ、低く続けた。


「……私は、真実を知りながら制度を変えられなかった。そのせいで、先代天女……アンバーは死んだ」


 それを聞いて、リゲルははっとした表情になり、拳を握ったまま何も言えなくなった。

 王の声は掠れ、拳がわずかに震えている。 


「お前たちには、同じ苦しみを味あわせたくない。

 意味もなく、目を奪って、人殺しをする――そんなことは、もう終わらせたいのだ」  


 その視線はルナだけでなく、候補者全員に向けられていた。

 王の言葉に長老たちが息をのむ。

「しかし――」と誰かが口を開きかけたが、王は遮った。


「ルナは闇の病を癒やし、命を繋いでいる。……今まで、あの不治の病でどれだけの民が死んだか……民を救うルナと、伝統だけで意味のない儀式、どちらが大切なのだ!!」


 アストライオス王の声が響き渡る。


「……幻想にすがる時代は終わった。闇にあっても、我らは生き、育ち、命を繋いできた。

 必要なのは、扉の向こうではなく、この地で未来を築くことだ」


「……奪目の儀は廃止しよう」


 王は重苦しく言った。もはや長老からも、反論の声は上がらなかった。


「王決定方法は、奪目の儀ではない、民が納得するような他の方法を考えよう。それまでは保留だ」


 ルナは静かに目を閉じた。

 ――長き伝統が、いま終わりを告げた。



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