70.凶悪に愛らしい
シオン視点
レイがうちに住み始めてから、毎日仕事前には見送ってくれて、仕事から帰ると出迎えてくれる。
まだ結婚していないのに幸せすぎる。
陛下の生誕祭で、俺とレイの婚約が発表された。
美しすぎる幻の令嬢であるレイと不本意ながら優良物件である俺のために、陛下がお認めになった婚約であるから口を出すなと陛下がやましい気持ちを持つものを粗方排除してくださった。
レイは陛下の可愛い姪であるから何もおかしいことはない。
それでも納得できない者がレイに絡んだ。ちなみに男どもはレイに近付きもできないように手を尽くしてある。
レイが自然にやり返しているのが、逞しいし面白い。
しかし、陛下の認めた婚約であるというのにまだ文句を言いたいなど貴族として教育が足りていない。
俺がそんな馬鹿な令嬢に靡くわけが無いだろう。
俺のレイに見た目も中身も何一つとして勝るところがないのに、文句だけは一丁前なんだから手に負えない。どこまで自分は優れているつもりなのか。
陛下の生誕祭で陛下の認めた婚約にケチを付ける。それすなわち不敬罪。話の通じない馬鹿はご退場願えて何よりだ。
だが、レイに愛してると初めて言ってもらえた。
それは皆への牽制だったのかもしれない。だが嬉しかった。
レイと共に暮らし始めて、レイに自分の気持ちを隠さず伝えるようになってよりレイを好きだと愛してるとはこういことなんだと感じるようになった。
俺の愛情は重くないだろうか。
「メリッサ、俺の愛は重くないだろうか。レイは鬱陶しがっていないか?」
と小さなころからレイと一緒にいるメリッサに聞いてみる。
「いえ。全く。レイ様は自然に受け取っておられます」
少しホッとした。
「レイ様はこれまで誰かとずっと一緒であることが当たり前でした。ですからむしろ寂しさを感じずよろしいかと」
そうか。確かに殿下と常に一緒であったし、殿下として出かける際もメリッサやフレッツと常に一緒だったな。
「レイ様はシオン様といらっしゃる時が一番凶悪に愛らしいのです。シオン様も自信をお持ちください。シオン様が思ってる以上にレイ様はシオン様を想ってらっしゃると思いますよ」
メリッサがそう言うのだからそうなのだろう。
レイがご両親や殿下たちと話があると王宮へ出かけた日、仕事が終わった俺はレイと共に帰ろうとレイを迎えに行った。
すると急にレイに
「シオン、好きだよ」
と言われた。
一瞬思考が停止した。
レイが返してくれる愛情を疑ったことはないが、パフォーマンスだと思っていた節が少しだけある。
年齢も離れていて、婚約も成り行きで俺は少し自信が無かったのだと思う。
レイが夜会や他の貴族に会う機会があるたびに、何かしらの方法で女性を牽制していたけどあれは俺を好きだからとかではないとなぜかそう思っていた。
だけど、そうではなかった?
レイもちゃんと俺のことが好きだった?
当たり前だが牽制は牽制だった。はっきりとシオンは私のものだと言ってくれていたのに、素直に受け取れていなかった。
愛してるとまではいかなくとも、好きになってくれたらいいなと思っていた。
だがちゃんとレイも愛してくれていた。
それが衝撃だった。
人目も憚らず抱きしめてしまったのは仕方が無いと思う。
だって可愛すぎないか。
幸せだと思ってくれていた。
それが何より嬉しい。何このかわいい生き物。
メリッサの言う凶悪に愛らしいその一言に尽きる!
どうしてここは王宮なのか!家でないのか!
レイを膝に乗せて家へ帰ったのも仕方が無いと思う。




