52.暇を持て余した令嬢の遊び
ガオナー伯爵家の影での役割は終わったとはいえ、王家の執事であるという表向きの役割は変わらない。
そのため私たちガオナー伯爵家は王宮に居を構えたままだ。
ライが王となる時、ルカは執事長としてライに侍ることになる。
そして私はというと、1週間も目覚めなかったせいで筋力や体力が落ちてしまったのでそれを元に戻すために回復訓練を余儀なくされた。
今までの王家の仕事が無くなった私は、今世の人生で初めてゆったり過ごしていると言えるだろう。
刺された傷は幸いライに偽装用ベストを着用していたおかげで、少しで済んだ。
だけどまた毒に侵されてしまった。
することが無くなった私は、回復訓練も兼ねて王宮の王家の者のみしか立ち入れない所をお散歩したり母たちとお茶会をしたりドレスを作ったりとこれまた今までに無い過ごし方をしている。
体力が戻りだした頃、あまりにも暇になってしまった私は母上に許可をもらいメリッサとフレッツを伴い調理場を訪れていた。
「初めまして、わたくしローレライ=ガオナーと申します。妃殿下から連絡が来ていると思うのだけど、デザートの担当の方いらっしゃる?」
ざわざわした雰囲気の中、デザート担当だと思われる人が数人出てきた。
「わたくし、騎士団へお菓子の差し入れがしたくて伺いましたの。調理場の隅で構わないから少し場所を借りれないかしら?それで、少し教えてくれたら嬉しいわ」
微笑んでおく。
伯爵家の令嬢ごときが王宮の料理人の中へ入ると言う暴挙。それは重々わかっているが、妃殿下の姪と言うことで許してもらいたい。
「どうぞ、どうぞお使いください」
と快く場所を提供してくれた。
そこでオーソドックスなクッキーを作ることにした。
料理人に教えを乞いながらひたすらに作る。
前世ではもちろん作ったことがあるが、勝手がこちらとは違うから一人ではまず作れない。
こちらのクッキーは型抜きなんてものは無い。
スプーンで落としたような形のものばかりだ。
それでは味気ない。スプーンで落とすものも素朴で小さくて食べやすいしいいとは思うが、食べるのは騎士団という食べ盛りな男ばかりである。
「グラスをひとつ貸してくれないかしら」
「はい。喉が渇いたのですか?」
調理人が聞いてくる。
「いいえ。こうするのよ」
とグラスをひっくり返し、型抜きする。
「ガオナー伯爵令嬢様、そちらは」
「ローレライで構わなくてよ。これで型を抜いていくと大きくて丸いものができるでしょう?騎士団へ差し入れるのだから大きいものがいいかと思ったの。食べ応えがあるでしょう?」
「素晴らしいです!!」
丸い大き目クッキーをたくさん作る。
それから
「ローレライ様、今度は何を?」
「ああ。わたくし騎士団に婚約者がいるの。だからね」
とまた微笑んでおく。
そう。ハート形を作っている。こちらは型が無いから手で形成するしかない。
「はっ!!なるほど!女性ならではの視点ですね!」
型を作ってもいいかもしれない。星形とかも可愛いし、お花も女性受けがいいから。
「今度、型を作ってみるわ。きっと女性は喜ぶと思うの」
「楽しみにお待ちしております」
調理人を味方につけた。
そうして量産したクッキーを騎士団へと持っていくことにした。




