第七章 大芙蓉棚(十九)
昨日から朝6時と昼11時に更新しています。
よろしくお願いします。
何虎敬が出ていくと、私は深呼吸する。
きつく締め上げていた帯を緩めたような気分だった。
梅乗が食器を下げるのを待って、寝台に座る。
胃が重く感じて、掌でさすってみる。さすったからといって、消化がよくなるわけではなかったが、少しだけ落ち着いた気がした。
「腹でも壊したか」
楊淵季が怪訝そうにのぞき込んだ。
「いや」
顔を上げると、彼の端正な顔が目の前にあった。
まったく、この男も綺麗すぎて慰めにならない。
「どうした」
「別に。淵季は一体何を考えているのかなと思っただけだ。正直、先ほどの何虎敬とのやりとりは、私にはさっぱりだったよ」
「いや、あれは、何虎敬が」
珍しく焦っている。
「淵季。わからないところから、少しずつ聞いてもいいか」
「好きにしろ」
「代々の天君の研究室を封鎖してしまうのはなぜだ?」
「同じ研究をさせないためだ。天君の道術がいかさまだと気づくやつがいるかもしれないだろう」
「そうしたら、その研究がなかったことにならないか」
「なるね。だから、その分野の研究は滅びる」
「そんなことしていたら、研究することがなくなりそうだ」
「かもな。それは、何虎敬も気づいているだろう。天君がらみの研究をつぶしていくというのは、まったく迂峨過都のためにならない」
「じゃあどうして」
「そこまでしてでも、権力を手に入れたいからだ。天君になれば好き放題できる。気に入らない奴は殺し放題、欲しいものは輸入し放題。しかも独占することも可能だ」
「……滅茶苦茶だっていうのは、私でもわかる」
このまま、天君が支配する制度を続けていけば、遠からず迂峨過都は滅びるだろう。
だから、別の支配の形式が必要なはずだ。
「楊淵季。おまえは、新しい形を考えているのか」
「いや、特には」
「考えてないのか?」
「俺は、けっこう無為に過ごしていたんだよ。ぼんやりしていた、というか。諸事情で腹が減っていたから、頭もろくに動かなくてな」
「それでも、天君の道術は暴けたというわけか」
「おまえに追い詰められたくはない。ほかに聞きたいことはないのか。技術のことなら、答えられそうだが」
灰色の目が、色を増したように見えた。戸惑いが、揺れる瞳に表れていた。
私は、じっと楊淵季を見つめた。
華都にいたときよりも、ずっと痩せた姿は、見慣れたとはいえ、やはり痛々しかった。
「わかった。じゃあ、昨日、生きてるものはすべて光を放っているといったが」
私は頭の中で質問を探しはじめた。




