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アメノチハレ  作者: 秋月
33/33

夢、そしてアメノチハレ。

 くぁ、とあくびが漏れる。


 寝転がっていたソファから起き上がると、時間を確認する。十時一分、朝と昼の間ほどの時間帯であった。寝ていたか、と頭を振って眠気を飛ばす。彼がソファから足を下ろすと、おはよう、と男の声が聞こえた。


「どのくらい寝てた?」

「だいたい三時間ぐらいかな? 追手は無し、撒けたんじゃないかな」


 そうか、と言って、彼はリュックを降ろした。それからガチャリ、ガチャリと音を立てて、机の上に道具を並べていく。


 壊れている道具があれば捨てていくつもりだったが、幸い、使えない程破損している物は少ない。魔術用の触媒がいくらかと、携帯食料が残り三日分ほど、銃弾と銃器は心許ない程度か。それを見て、彼は眉間に皺を寄せた。


「補給が無いとそうはもたんな。ここも引き払おう、日本支部は遠いが、まあ夜通し歩けばつくだろう」

「……まったく、君も懲りないよね」


 彼が声のほうを見ると、小太りの眼鏡をかけた男が、床に座って魔術触媒を磨いていた。


「何が言いたい?」

「よくもまあ、巻き込まれた子供一人のために、ここまで苦労するよねって話さ。まったく面倒な()を抱え込んだもんだ」


 そういって、男は魔術の触媒をポケットに突っ込む。男の名は黒森栄治――"土塊(つちくれ)"の魔術師と呼ばれる、彼の幼馴染であった。


「僕を巻き込んで天の盾に所属した時も思ったよ。ま、腐れ縁だと諦めてるけど」

「すまんな」

「良いさ。……"取りこぼさない"って決めたんだろう?」


 栄治はそう言って眼鏡の位置を直す。その顔に浮かんでいるのは、呆れ、諦め――そして僅かな憧れだった。


 栄治は彼の理想に協力し手を貸すが、彼の理想に賛同したことは一度も無い。なぜならそれは、酷く長い茨の道だからだ。


「おう。生きてる限り歩き続けると……手を伸ばし続けると決めてる」


 ――手の届く限り、人を救う。それが彼の夢で、理想だった。単純で、愚直で、そして言うまでも無く困難な願いだ。


 現代世界の裏で魔術が飛び交い、魑魅(ちみ)魍魎(もうりょう)が跋扈し、幾度も地球が割れそうになるような世界で、その理想はほぼ不可能に等しい。


 だが、彼はそう決めたし、そうしてきた。歩き続ける事だけはやめないと、かつて死した少女に、そう誓ったのだ。それが重荷であろうと、抱え続けると。


「まったく馬鹿だな、君は」

「今更な話だろ。さっさと行くぞ」


 そう言って彼は、窓から差し込んでくる日の光に、手をかざす。日光を受けて、作り物たる銀の腕がギラリと輝いた。


 ――丁度、雨も止んだらしい。"天の盾"を掲げるには良い日だ。


 "鉄腕の魔術師"たるクロムは、そう言って立ち上がる。栄治もまた同様に立つと、二人は並んで廃ビルを出て行った。"少しでもマシな世界"を掴み取る為に。

 これにて短編集"アメノチハレ"、完結とさせていただきます。

毎日更新を詠っておきながら何度も隔日更新になってしまい、申し訳ありませんでした。


 よろしければ、「この話が好き」といった感想をいただけるととても励みになります。


 そして、ここまでのご愛読、誠にありがとうございました。

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