プロローグ
久方ぶりにネットに小説を投稿します。おはようございます。こんにちは。こんばんは。初めまして。お久しぶりです。ずっと投稿したいと思っておりこそこそとストックを溜めておりましたが時間が掛かってしまいました。待っていてくれた方がいるかはわかりませんがお待たせいたしました。今回の作品は自分が初めて挑戦する事ばかりとなっております。異能力であったり、人ではない登場人物が出てきたり、群像劇だったり。そんな作品となっておりますが良ければ是非読んでやってください。
人の往行が激しい繁華街の路地裏。雨だというのに人間の活気を十分に感じられるその場所に隠されたようにある場所。そこを悪魔は自分の死に場所に選んだ。最期は一人で、人間の姿で、人間を感じながら、誰にも看取られず、特に思い入れのあるわけではない土地で、静かに逝く。それが死を意識し始めた頃から徐に描いていた悪魔の理想だった。雨が少々煩わしいが、こればかりは自分ではどうしようもない。
人間の女の姿に化けた悪魔は膝を抱えてしゃがみ込む。自分に残された命がいよいよ底を尽きようとしている事を、自分の身体から抜けていく生気を感じながら悟る。
――思っていたよりも余は死の恐怖に鈍感らしい。
恐怖を感じない。それは悪魔にとって予想外の事だった。死に方に対する理想はあるものの、死の直前とはもっと困惑し、恐怖し、どうしようもなく動転するものだと思っていた。しかし、実際は拍子抜けしてしまうほど素直に死を受け入れようとしている自分がいる。
思い返してみれば、この世に生を受けた時の方がよっぽど恐ろしかった。何も知らない所に自我だけを授けられ召喚された時は新底取り乱したのを覚えている。あの時は悪魔と呼ばれる者らしく狂気を巻き散らした。
しかし今は違う。確かに、ここまで自身の身体が、精神が、死に近いのは悪魔にとって未知の領域だった。だが、悪魔の性質上今までに何度も死には立ち会ってきた。人間が死んでいくところを幾度もその目で見届けてきた。
悪魔は今までに見届けてきた人間の最期をいくつか思い返す。生に縋り、自分もそうなるかもしれないと予想していた行動で、形相で死んでいった人間も確かに少なくない。むしろ自分の関わったほとんど人間の最期は、地べたに這い、自分に命乞いをしながら手を伸ばすといった行動だった。その度に悪魔はその未練に満ちた顔を俯瞰しながら、伸ばされた手を踏みつけてやった。だが、その姿を醜いと思ったことは一度もない。目の前に迫った自身の死と向き合えばそうなるのは至極当然な事だと悪魔は思ってきた。人間とは欲深い生き物である。特に悪魔に何かを求めてくるような輩はそうだ。それが悪魔の人間に対する印象だった。故に自分たちの稼業が捗る。感謝までとは到底いかないものの、手を踏みつけるという行動はいわば、最後の欲を絶ってやるための儀式みたいなものだった。
だが、悪魔の関わってきた人間の中で一番印象的だった人物はそうではなかった。死に際に悪魔を怒らせたのは後にも先にもその者だけだ。その男は死ぬ間際、最期を看取ってやろうとした悪魔の顔を見て、いい人生だったと言い、笑ったのだ。その顔と言葉に皮肉や後悔は感じられなかった。純粋に、悪魔に対して率直な人生の感想を口にしたのだ。確かに悪魔と関わった全ての人間が未練に溺れて手を伸ばした者ばかりではなかった。今の悪魔のように素直に自分の死を悟り、受け入れたものもいる。だが、その者だけは自嘲でなく、幸せそうに、悪魔に最後の力を振り絞って笑って見せたのだった。
当時の悪魔はそれまで、その肩書に偽りなど微塵も感じさせぬ程の悪魔だった。目先の幸福を与えながら身体の自由を奪い、先にあったかもしれない幸福を無にしながら魂を啜る悪魔の中の悪魔だった。
故に、死を前にして自分に見せた男の顔は悪魔にとって、ただの屈辱でしかない――そのはずだった。
その男が逝った後、悪魔は男の屍を蹴り飛ばした。男が最後に見せたあの顔を思い浮かべると、後から沸いて出るように男との思い出が込み上げてきた。悪魔はその一つ一つを拒絶するために何度も何度も気が狂ったように蹴り飛ばした。いや、実際に当時の悪魔は狂っていた、男によって狂わされていた。
悪魔は人間の男に恋をしていたのだ。
その事実に悪魔は男が逝ってから気付いた。気付いてしまった。だから蹴り飛ばした。自分の感情を拒絶するために。涙は出なかった。悪魔は怒りに任し、ただひたすらに屍を蹴り続けた。
悪魔にとって人間は自分たちが生きていく上での食料だ。人間との契約、それが悪魔にとっての命だった。故に人間に災いをもたらす存在として彼女らの種族は悪魔と呼ばれる。彼女のような存在の事を悪魔と呼び始めたのは人間だ。悪魔自身、今やその名称に何の不快感を覚えることもないが、悪魔と呼ばれる所以の行為は悪魔にとって生きていく上で必要な行為であり、絶対欲求である。人間が他種の動物を食するのと同じで、その対象が悪魔にとっては人間の命(時間)なのだ。
だが、それ故に人間に恋をするというのは悪魔にとってありえないことだった。確かに、それまでに悪魔が契約を交わした人間達とはその男は少し違った。それは契約を結ぶ時から悪魔が感じていたことだった。
男は契約の期間中、つまり自分の生きている間、なるべく傍にいてほしいという悪魔のしてきた契約史上最も無益に思える願いを提示した。今思えば『なるべく』という言葉にその男らしさを感じる。それに対し、悪魔は元々長くはなかった男の寿命の三分の二を頂戴するという条件を提示した。しかし、交渉の往復は一度も行われることはなく男はそれに快諾したのだ。初めはただのうつけだと思っていた。後になって後悔すればいいと心の中でバカにしたのを悪魔は今でも覚えている。
しかし、男は後悔を感じさせるような素振りをまるで見せなかった。言葉通り、終始悪魔に対して他愛のない話を持ち掛け、ただただ笑っていたのだ。
悪魔はその男が死ぬその時も、伸ばされた手を踏みつけてやるつもりでいた。しかし、男が伸ばした手は命を欲する手ではなく、悪魔の頬を撫でるだけで欲などというものは微塵もなかった。悪魔は頬を撫でられながら、いつ泣き言を言うのだろうかと待っていたが、彼が後悔を口にすることは悪魔の頬から動かない腕を伝って力なく滑り落ちるまでとうとうなかった。
屍を蹴り飛ばしたところで、怒りと、どこにもぶつけることができない恋心を諫めることはできず、しばらくして悪魔は男と過ごした地を離れることにした。
だが、生活の拠点を替えたところで悪魔の精神状態が改善されることはなかった。
悪魔は以降、人間の命を食い漁った。悪魔の常識からしても不平等だと感じざるを得ない契約を無理やり結ばせた事も一度や二度ではない。しかし、男の死以降、悪魔は何をやっても大した幸福感を得る事が出来なくなり、悪魔は悪魔としての尊厳を無くしてしまった。
そしてある時、悪魔は死ぬことを決意した。人の何倍も生きてきた悪魔でも、一度狂ってしまった心の歯車を元に戻す術は心得ていなかった。悪魔は何人もの人間から奪い取ってきた寿命を持て余しながら、今この時まで生きてきた。
そして今日、悪魔の寿命が尽きるその日――。
そこから物語は始まった――。
前作からかなりの時間が経ってしまい元から拙い腕がさらに鈍ってしまっている事は自覚しております。なので随時、もしくはなろうで完結後、推敲を加えていく事があるかと思います。ご了承ください。すみません。
ただ、書くのってやっぱ楽しいですね!
時間が空いてしまったこともあるのか今回ひしひしとそれを感じながら書いています。
今後もお時間があるようでしたらお付き合いいただければ幸せです。
あ、今作初投稿なので2話一気に上げますね。




