あわれ、断罪流刑の結末
あたりが一層暗くなった。もうここには闇しか広がっていないのではないだろうか?
「わ、わかった! 我々に非があることを認めよう!」
帝が叫んで、地にひれ伏す。それに倣うように人々が地に頭を擦りつけて許しを乞うた。すると主様の地を這うような低い唸り声が聞こえた。
「……我に頭を下げてどうする? 相手が違うだろう?」
ハッとした人々は私へ姿勢の向きを変えて口々に謝罪する。突如として発生した謝罪の渦に巻き込まれた私は、困惑した表情で主様を見上げた。
「あの、この状況はどうしたら……」
「はじめから、こうしておけばよいものを」
主様は皮肉げに唇を歪める。そして押し寄せる人々の群れから引き離すように私を軽々と持ち上げて、しっかりと抱きかかえた。
「彼らは罪を知り、宵宮に謝罪した。罪を罪と知らぬもののために裁きの場はある。つまり己の非を認めた今は裁かれることはないとそう思っているのだろうな」
「あ、そういうことなのですね」
「たしかに裁きの場は罪を明らかにする場である。そういう意味では私の出番は終わったと言えるだろう」
私にこれ以上の何かを求めているのではないと知って、ほっと胸を撫で下ろした。表情は見えないけれど、平伏する人々も主様に意図が通じたと安堵しているに違いない。だが主様の口調は、どこまでも冷淡だった。
「……だがな、おまえ達が怒らせた神は陽の神だけではない」
主様がそう告げた瞬間だった。突然、地面が激しく揺れる。そして空気を切り裂くような、轟音が響き渡った。
……ドドドドオオオーーーーーーン!
「な、なんだこの揺れと音は!」
人々はたまらず屋外へと飛び出した。彼らの目に映るのは天を切り裂くような、赤々とした火柱。そして空を侵食するように立ち上る黒煙と、白灰。止まらぬ怒りのように、火柱は大小様々な大きさの石礫を撒き散らす。まるで冥府に広がる景色が色鮮やかな現世を侵食しようとするかのよう。夢から覚めたように逃げ惑う人々は再び屋根の下へと舞い戻った。誰かのハッとしたような声が響いて、さざなみのように玉峰の間に広がった。
「あの方向は、喜多山の……!」
「それは、宵宮の出身地であると聞いているが……まさか!」
「恐れながら申し上げます!」
帝の言葉を引き継ぐように姿を現した兵士が御前へひざまずく。震える声を無理矢理絞り出すように、彼は一際高く声を張り上げた。
「神官によると喜多山の山神様がお怒りになり、火を噴いておられるそうです!」
しんと場が静まり返り、しばらくしてようやく怒号と悲鳴が飛び交った。
「な、なんと……!」
「ああ、なんということだ! 喜多山の神がお怒りになられたと!」
「おおい、見ろ! 噴煙で、陽の神様が!」
神渡りのときでもないのに、立ち上る黒煙によって太陽そのものが覆われる。周囲は神渡りよりもさらに深い闇に包まれた。
「陽の神が、お隠れになられた……」
神の恩恵だけでなく、陽光すら失われたのだ。想像もしていなかった光景に人々は声もなく立ち尽くす。主様は私を抱え上げたまま、火を噴き続ける山を見つめながら誰へともなく口を開いた。
「宵宮と彼女の一族は、先祖代々山神様に仕えて祭祀をとりおこなう立場にあった……由緒正しき祭司の一族」
「まさか喜多山の山神様にお仕えしていた……そ、そうだったのか」
「彼女が清く正しくあるよう自らを厳しく律し、水準以上の祭祀の知識と教養を得ていたのはそのため。侮って、あからさまに平民と蔑んでいたようだが、ここにいる誰よりも彼女は神を祀るにふさわしい環境に生まれ育った。その神に仕える一族を根絶やしにしたのだ、しかも冤罪を着せて……。それを神がお怒りにならないわけがないだろう」
「知らなかったのだ、全く知らなかった! ああ我々は、どうしたら許される?」
「どうもできぬ。ただ、神の怒りが一刻も早く鎮まるのを祈るだけだな」
優美で豪奢な邸宅の屋根や庭木に岩石がぶつかり、しんしんと灰が降り積もる。
色のない、灰と黒白の世界。もはやここは冥府ではないだろうか?
見たことのない景色にうろたえ、途方にくれる人々に主様が冷ややかな笑みを浮かべた。
「愛を失わないよう心を尽くす大切さは、おまえたちの方がよく知っていると思っていたが?」
私の耳に、かすかだが山神様の嘆き悲しむような声が聞こえる。己を祀る者を失った悲しみに耐えかねて嘆いてくださるというのなら、祭司の一族として本望。ただ神なりの悼む心を両親や親族に伝えられないことだけが心残りだった。閉じた瞼の奥から、一筋、涙がこぼれ落ちる。
主様が抱き上げたまま、静かに泣き続ける私の背をあやすように軽く撫でた。陽の神様はなんの感情も浮かばない金の瞳で、ただ怒り狂う喜多山の方角を眺めている。
何もしない。その言葉のとおりに、国を守護するはずの陽の神は、ただこの国が終わっていくのを静かに見つめている。彼にとって、何もしないことが愛する陽の巫女を奪った人間達への復讐だった。
混沌と混乱が支配する玉峰の間。そこへ衣を掲げ灰を避けながら一人の老女が駆け込んだ。
「波奈様、ご無事ですか⁉︎」
「よかった、志津様もよくぞご無事で!」
灰で汚れ、重みを増した衣を打ち捨てて老女は波奈様へと縋りつく。視線が交わった瞬間に、すぐわかった。この方が神殿より放逐された波奈様を救ったという、かつての陽の巫女様。彼女は福の神のようなふっくらとした頬を緩ませて、にこりと笑う。
少女みたいで、どこか可愛らしい。志津と名乗った老女は、遅れた旨と助けられなかったことを私たちに詫びたあと、表情を曇らせた。
「波奈様、そこかしこから帝都に穢が侵食してきていますの」
「陽の神様の浄化の光が届かないからですわね?」
いないと思い込んでいただけで、たしかに神はいたのだ。追い討ちをかけるような知らせに人々は動揺し、痛いほどの沈黙が落ちた。そして阿鼻叫喚の渦巻くような混乱が押し寄せる。
とにかく、逃げなければ!
正常な判断のつかなくなった人間達が我先にと玉峰の間を飛び出していく。先ほどまでは行手を阻んでいた結界もとかれたようで、主様が沈黙した今は咎める者もいない。本来ならばこういうときこそ動かねばならない帝や高位貴族は、すでに姿が見えない。どうやら彼らだけの知る、逃走用の隠し通路を使ったようだ。
逃げるとしても、どこへいく気なのだろう。他人から世話をされることに慣れた彼らが御所以外で生きていけるような場所はないだろうに……。
誰も導く者がいないせいで統制が取れず、混乱に余計拍車がかかっているようだ。その様子はまるで現世で描かれた冥府の監獄絵図のよう。
「……同じ混乱でも、これほど醜悪ではないがな」
冥府の主としての言葉だけに、重みがある。混乱を極めた玉峰の間を見渡し、波奈様は一瞬だけ眼を閉じた。やがて覚悟を決めたように眼を開くと、陽の神様にひざまずいた。
「陽の神様、今までありがとうございました。心安らぐ場所で、どうぞ心ゆくまでおやすみください」
そして同じように膝をついた志津様と共に深々と頭を垂れた。陽の神様は軽く目を見開き、意外なことを聞いたというような表情をして首をかしげた。
「それでいいの?」
「はい、陽の神様がそうお決めになられたことです。我らはそれに従うまで」
「君達は巫女であるけれど、私の花嫁でもあった。愛する人のわがままくらい聞くけれど?」
「……あらためてそう言われますとなんだか恥ずかしいですわね」
波奈様はほんの少し頬を赤らめた。そして曇りのない晴れやかな微笑みを浮かべる。
「陽の神様は人々のために、快く人ならざる力を貸し与えてくださっていた。あふれるほどの情を与えてくださった愛する方の、最初で最後の願いくらい、叶えて差し上げたいと思うのは当然のことですわ」
「その気持ち、とてもよくわかります。好きな人の願いを叶えるためなら、精一杯頑張ろうと思えますもの」
そう呟いた声を拾ったようで、波奈様と私は顔を見合わせて微笑む。
「君達は、どうして揃いも揃って……魂の創造主である私の想定を超えていくのかな?」
「人の子は日々成長していくものなのです。目を離すと、いつの間にか大人になっているものですわ」
志津様は、そう答えてふふっと笑う。引退後に結婚して子供も授かったという彼女から陽の神様へ向けられる愛は、恋人というより、もっと穏やかな家族愛のようなもの。陽の神様は深く息を吐いて、二人の陽の巫女の前に立った。
「まあたしかに、何もしないとは言ったけどね。太陽を隠されてしまっては仕事にならないし、ちょうどいい。君達二人に付き添ってあげるよ」
「まあ! それでは私達には穢も寄りつかないですから、何もしていないとは……」
「約束したとおりに何もしないよ、そばにいるだけだ」
「私達としては、ゆっくり休んでいただきたいのに?」
「いやだ、二人のそばにいるって決めたの!」
頬を膨らませる陽の神様。比類なき存在の陽の神も陽の巫女の前では子供のようで可愛らしい。これもまた、彼にとっての愛情表現なのだろうか?愛といっても、さまざまな形があるのね。見上げた視線が合って、主様が私の首筋へと唇を寄せる。
「私は君だけで十分だよ」
「ええ、私もです」
「はじめて会ったときから、君しか視界に入らない。欲に駆られ、無知で無謀な愛は罪深いと知っているのに囚われてしまった今は、この罪深い愛に包まれて幸せしか感じない。君を失う哀しみに比べれば、背負う罪など軽いと思えてしまうほどだ」
トロリとした甘い声は、いつも私の心を震わせる。人の身には陽の神様のように、たくさんの人から愛されるというのは幸せなことと思える。そしてそんな神が心から愛してくれる陽の巫女もまた、幸せなのかもしれない。
だけど主様が求めるのは、たった一人。私という片割れだけだ。人から鬼になろうが、生まれ変わることなく永遠に囚われようが……私は自分だけを愛してくれる人がいい。満足そうに微笑む私の視線の先で波奈様と志津様はしっかりと手を繋いだ。
「二人でどれだけの人を救えるか、これから忙しくなりそうですわ」
「それでは、私から波奈様と志津様にはこちらをお預けいたしましょう。お二人の、手助けとなるように」
私は簪を外すと波奈様に、そして扇子を志津様に渡した。二人は困惑したように顔を見合わせる。
「こちらは花嫁様が神々より贈られたもの、私達には過分な品です」
「この神宝には祓いの力がこめられていると聞いております。闇の支配するこの国に、穢が蔓延ることもあるでしょう。強い敵と対峙するとき、より強い祓いの力を必要とされることもあるかもしれません」
「ですが神宝は所有者や厳しい使用条件がつくとされています。せっかく贈っていただいても私達には使えないかもしれません」
「冥府では、今代の陽の巫女であったお嬢様の言葉に喜んで応じておりました。陽の巫女として務めておられたお二人ならば、きっと使いこなせるはずです」
「そうでしょうか……」
「実は私、お嬢様と約束したのです。生まれ変わったお嬢様と次に出会うときは共に戦う、と。ですが肉体の造り変わった私は、もう冥府から離れることはできません。ですから私の代わりに、陽の巫女であるお二人と共に戦うことを許してはいただけないでしょうか? そしてもしお嬢様が再び陽の巫女としてこの地に降り立つときがあれば、今度は私が彼女の道しるべとなりたいのです」
「陽の巫女の、道しるべに?」
二人は驚いた表情を浮かべる。彼女達の背後では、陽の神様がキラキラとした眼差しで『よくやった』と言わんばかりに笑みを浮かべている。何もしないとは言ったものの、愛する二人には力を貸したいらしい。簪の花飾りが嬉しそうにシャラリと音を立て、扇子がほんのりと光る。
そう、大好きな陽の神様がそばにいるだけで神宝の祓いの力が勝手に強まるだけだ。陽の神様は、何もしていない。
「わかりました、そのときまでお預かりいたしましょう」
視線を交わしたあと、二人は真剣な表情でうなずいた。私は波奈様の髪に花簪を飾る。
「この簪は、喜多山の山神様が贈ってくださいました。お怒りが解けたとしても、祭司であった我が一族は命を奪われて、誰もお仕えすることはできません。ですからせめて、いただいたこの簪だけは、山神様のそばに残しておきたいのです」
「それでは私が喜多山の祭司となりましょう。そして私のあとは、この簪を御神体としてお守りし、一族の者が祭司を務めるよう説得いたします」
「では扇子は我が一族に受け継ぎます。子から孫へと末長くお守りいたしましょう」
波奈様のご家族は皆敬虔な信者であるそうで、話せば快く受けていただけるだろうと。そして志津様は孫が生まれたそうなので、ゆくゆくはその方に引き継いでくださると約束してくださった。主様は私を抱き上げたまま、花簪に軽く手を添える。
「では私からも贈ろう」
その手を離せば、そこには見覚えのある折り鶴が垂れ下がっていた。冥府で鬼師三白に、いざとなったら主様へと渡して欲しいと託したものだ。その折り鶴が紙で折られたものとは思えないほどの張りと艶を保ち、装飾品の一部となっている。
「その折り鶴は……」
「鬼師三白から受け取った。これがあなたの覚悟の印なのだと」
簡潔にそう答えると、主様は波奈様に視線を向けた。そして何かもの言いたげな陽の神様を軽く制して口を開く。
「鶴の装飾は、あなたが我が花嫁の代わりに神殿や貴族と戦ってくれた礼だ。願えば一度だけ冥府の力を貸そう」
「そこまでしていただくほどのことはしておりません! ……それに今後どのように世界が変わっていくのかわかりません。皆様の力をお借りした者が、正しく使えるかはわかりませんわ」
「安心していい。世界のあり方が変わったとしても、私達冥府は未来永劫変わることはない」
「……」
「だから私達があなた達の要求に見合った対価を見極めて用意することとしよう」
「それでしたら、否はございません。加護を授けていただきましたことに厚く御礼申し上げます。冥府の主様にはさらなるご発展を、そして冥の花嫁様には末長くご健勝であられますことを祈念いたします」
「ありがとうございます、皆様もお元気で」
母のように柔らかく微笑んでから、波奈様は首を垂れた。そして祖母のような志津様がそれに倣うと、陽の神様は主様の思いを見定めるような視線で小さく首をかしげた。
「あなたは、それでいいの? 見限ったというわけではないと?」
「私のためにというよりも、我が花嫁の願いを叶えるためです」
「なるほど、あなたは冥の花嫁を得たことでそう変わるのか。想定外だけど、面白いね! じゃあ、末長くお幸せに!」
「私と末長く幸せであるように、あなたが彼女の魂を作ったのだろう?」
「そうだけど、言葉にすることは大事だよ! いくら心が読めても、宵宮はあなたの心は読めないのだから」
陽の神様はふわりと笑って、踵を返した。彼の行く先には波奈様や志津様がまっている。二人は主様に礼の姿勢をとると、私に手を振ってから歩き出した。自信に満ちた足取りで。そして、どことなくうれしそうな顔をした陽の神様の手を引いて、玉峰の間から出て行った。
「……どうか、どうかいつまでもそのままで」
決して叶わない願いであるけれど、それでも私の声は届いただろうか。陽の神様がついているとはいえ、かつてない事態に変わりはない。帝や国の上層部、神殿が役に立たない今、元陽の巫女であった彼女達が心の拠り所として頼りにされるだろう。とはいえ無理しないでほしいものだわ。
……いつかはと思っていても、もし冥府で会ったら泣いてしまいそうだもの。それとも時が経てば、笑って受け止めることができるだろうか? 陽の神様がいるから悪いことにはならないでしょうけれど、心配は尽きない。私の横顔を見て、主様はぽつりと呟いた。
「言葉にしなくては伝わらない、か。折り鶴を渡したときも鬼師三白も同じことを言っていたな」
「彼は、なんと?」
「あいつの懐に気配が残っていることには気がついていたから何か渡しているだろうとは予想できていた。だから遅かれ早かれ没収されることは奴も想定していただろう。ただ…これを渡すときに、裁きを待つ罪人よりも冥府の住人よりも切実に主様の言葉を欲しているのは花嫁様であることをお忘れなきように、と言っていた。いつの間に心配されるほど親しくなっていたのかと嬉しい反面、少々腹が立った」
「まあ、それは……!」
嫉妬というものではないだろうか?
主様は、ふいと視線をそらす。なんてこと、でもこういうところがとてもかわいらしい。頬を赤らめながらくすくすと笑う私の脳裏に浮かぶのは鬼師三白の温度を失ったかのような表情と瞳の色だった。
冥府のために私を切り捨てようとした冷徹さは、愛憎入り乱れる冥府で淡々と務めを果たす彼にふさわしい。でも内面は思いのほか情の厚い人物であったようだ。
「では鬼師三白にお礼を言わねばなりませんね」
「彼に情を教えたのは寧々だ」
「寧々様が?」
「情をおろそかにする者は、いつか愛する者を失うと脅したらしい」
あんな楚々とした儚げな雰囲気の女性が脅したなんて。内心を見透かしたように主様は口角を上げる。氷雨様といい、冥の花嫁になった者は、しなやかで、したたかで芯が強い。私もそうありたいものだわ。もっと努力しないとと、心を決めた私の頬に主様が唇を寄せた。
「そして我が花嫁は私に愛がどんなものかを教えてくれた」
「主様……」
耳ではなく、肌に染み込ませるように言葉は寄せたままの唇から次々と注がれる。わずかに触れる感触が艶かしく、触れた箇所がどんどん熱を帯びていく。
「冥の花嫁は冥府の住人に欠けたものを補うために生まれる。だめじゃないか、勝手に鬼師三白とあんな約束をしては……冥府は守られたとしても私の世界は欠けたままになってしまう。あなたといる時間の心地よさを知ってしまった私に、いない世界で孤独に耐えろとでも言うつもり?」
「ごめんなさい、主様。ですが私にもあなたが唯一無二なのです。だからどうしても失いたくなかったの」
咎めるような顔でため息をついた主様の頬に手を添える。深い闇をたたえた瞳が、ただ私だけを見て、全身が私だけを求めて……。心の奥底からこみ上げてくる仄暗い愉悦に、頬をゆるめた。
絡みつくように体を寄せて唇から熱を奪い、奪われる。壊さないようにと優しく触れる手が幸せで。そのあとは、なされるがままだ。
気がつけば、玉峰の間には私達二人しかいなかった。
徐々に崩れゆく帝都の町並み。
平民の暮らす右京はもとより、絢爛であった貴族の暮らす左京も今は同じ灰色に染まっている。
今はもう平民も貴族も、世界の違いも身分差すら関係ない。
歪んだ視界に、黒と白と灰色に染まった自分の姿が映る。
私は、冥の花嫁。
誰よりも冥府にふさわしく生まれ変わったと思うと嬉しくて、どうしようもなく胸が震えた。




