おまけのはなし
それから何年か後の世界、……の、誰かの手記。軽ーく読んでいただければと思います。
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人間が築き上げた中で最大の王国だった、ネロン王国。
表向きは神から与えられたとされる神子。その存在によって長く繁栄した土地もしかし、今は魔の王によって支配されている。
神子召喚の為の法則陣は文字の一文字も拾えぬほどに破壊され、各地にばらまかれた。
最早、復元を夢見ることすら出来はしない。
おそらく、これから先、我々人類が栄華を掴むことはないだろう。
魔の王は隙なく、徹底的に我らから力を取り上げ、奴隷同然に扱い、容易く切り捨てる。
ほとんど無いに等しいが、魔の王の目に映されてなお、運良く生き延びた者は全員、口を揃えて言う。
あの目に再び晒されるのは御免だ、いっそ他の魔族から虐げられ、死んだほうがましだと。
魔の王が何を考えているかなど、解るはずもない。
ただひとつ言えるのは、すでに人の世は終わった、という事実のみだ。
≪ネロン王国元宰相の手記より抜粋≫
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アリゾナ暦12年、1月2日
今日もまた、魔王様の機嫌を損ねるやつがいた。愚かな人間どもは、未だに立場を解っていないようだ。
あの忌々しい王国がなくなってもう12年もの月日が流れたというのに、ちまちまと脱走者やら反逆者が現れる。
反逆なんてただ死ぬだけの行為に過ぎないのは言うまでもないが、逃げたからと言って安息の地なんてものはない。
野垂れ死ぬか野生の魔物に喰われるか。運が良ければ、村とも呼べぬ集団に合流出来るかもしれないが、何処へ行こうと生活が変わるとも思えない。
そもそも脱走しようと出ていった時点で九割以上が見張りの手で殺されるのだが。
……まあ、そんなことは良い。
それよりもあの空気の読めぬ人間だ。よりにもよって、あのお方の前で神子などと口にするとは。
魔族の中で、神子という言葉を魔王様の前で言う愚か者は存在しない。最早常識だ。
一度それを言葉にすれば最後、恐怖で自我を失う程に痛め付けられ、殺される。
魔族の部下相手ですらこれなのだから、あの人間は今頃、どうなっていることやら……。
王国を乗っ取るより以前の魔王様は、……確かに神子に思うところがあるご様子だった。
しかし、ここまで過剰な反応は一度も見せたことはなかった。
一体あの日、何があったのか。
頭の潰れた神子の遺体を引きずり、神子を討ち取りましたと人間どもに宣言したときには、最大の敵を魔王様が討ち取った事に興奮し、何も疑問を抱かなかった。
だが、今日、小声で呟かれたあなたが神子を語らないでくださいという言葉と、法則陣を破壊した際のあの時の表情には、我々には推し量れない、複雑な感情が宿っているように見えた。
私などが魔王様のお考えを推測しようなど、不遜であるだろう。
それでも、我らを救ってくださった魔王様の気分を晴らすことが出来れば、と考えてしまう。
……どうやら随分疲れてしまったようだ。今日の日記はこれで仕舞いとしよう。
≪とある高位魔族の日記より抜粋≫
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何かが少し違えば、救われる未来もあったのかも……。
これで一応完結です、読んでいただいてありがとうございます。