253話 二刀流なる錬金術士
:黒耀鉄→黒妖鈴→黒夢鋼→『天夜に流るる隕鉄』への上位変換に成功しました:
『天夜に流るる隕鉄』
【悪夢のような漆黒の夜空を一筋の光が切り裂く。吉兆を示唆する流星から未来を視る時、染黒が広がる運命を覆す英雄が生まれる。其なる隕石で造られた武器は、英雄の手に渡る宿命である。また、別説によると堕天の光と読む者もいて、天より堕ちた悪魔の降臨を予見する石でもある】
「できましたよ。隕石? 流れ星みたいです」
『黒耀鉄』を希少化するのに成功した俺が手にした鉱物は、雪よりも白く、太陽よりも強い輝きを放っていた。
「星石だと……」
「黒から白に変わるとか……事件だ。これは事件ですよ!」
驚くガンテツとゲンクロウさん。
そしていつの間にか俺の背後には傭兵団『武打ち人』の団長でもあるマサムネさんがいた。
「……」
相変わらず岩のようにムキムキな体躯で、山のように微動だにしないマサムネさんだったけれど。そのヒゲと前髪の奥に隠れた眼光が、雄弁に彼の内心を物語っていた。
早く、俺が作った鉱石と語り合いたいと。
もちろん『遊界炉』をいただく手前、今回は『黒夢鋼』と『天夜に流るる隕鉄』は無料で譲っておく。
「この度は『遊界炉』を譲ってくださり、ありがとうございます。これを受け取ってください」
改めてマサムネさんにお礼を言いながら、鉱物をテーブルに置く。
「……元々、使えぬ炉。……気にするな」
「おやっさん! こりゃあすごいぜ……見てくれよ、硬度と魔鍛値が尋常じゃねぇ!」
「融合金の可能度も……なんて数値だ……これで一振りの剣でも作れたら……」
ハゲとインテリも団長に負けず劣らずに興奮しているようだ。
「お前ら……」
俺の渡した鉱石に夢中になっている二人に、団長であるマサムネさんが両手を組んだまま顎で何かを指示した。
すると二人はそれぞれ一振りの【刀】を俺に見せてくる。
一本は夕焼けのような赤みを帯びた刃が印象的だ。
そしてもう一本は、夕闇が迫った夜空みたいな藍色をしている。
どちらも暗い輝きを放つ刀であり、俺が持つ【燈幻刀・鏡花】より刀身が短いようだ。
「暗い、赤と青の刀? もしかして……」
これってもしかして、前回渡した『優雅なる西火』と『静寂おちる夕闇の一時』の【延べ棒】で造った武器なのか?
「嬢ちゃんの推察どおりだぜぇ」
「お嬢ちゃんと取引させてもらったインゴットで作った刀だ」
「おめえさんのインゴットで武器は作れる。刀をな」
「だが、刀術スキルを扱える傭兵がお嬢ちゃん以外にいない。そのため、今後はこの【延べ棒】での取引は極力控える方針に決定した」
貴重な商材を作っても買い手がいなければダメなのだ。【延べ棒】がよい取引材料にならなくなったのは残念だけど、今回からは『黒夢鋼』という新たな商材ができたのでトントンと思っておく。
「それで、嬢ちゃんが良ければだけどよ。この二刀はもらってくれよ」
ガンテツがおずおずと刀を譲渡してくる。それに倣い、ゲンクロウさんからも装備取引がとばされる。
「こんな……見事な武器を俺がもらったら、ダメです」
内心では喉から手が出るほどに欲しい。
しかし、さすがにこれは受け取れないと固辞しようとする。
「…………受け取れ……」
「これからも、うちとよろしくやろうってな」
「今後ともどうか『武打ち人』をよしなに」
マサムネさんを筆頭に『武打ち人』の代表格が、俺を見つめては深く頷く。
末永く取引先相手としてよろしく、といった意味合いも込めてこの二振りの刀を俺に譲るというのだ。
彼らの態度から、俺にはそれだけの事をする価値があり、先行投資なんてお安い御用だという。
そんな気前のいい、粋な計らいに水を差すなんてできなかった。
◇
自領にある研究所へと帰り、俺は研究員NPCたちがせっせこ錬金術に励む前で、譲り受けた二振りの刀を眺める。
『赤眼刀【夕鬼】』
【夕暮れ時を過ぎると姿を現す優雅なる一族の力が宿る。血わき肉躍る夜を求め、その魔刀の持ち主を夕鬼と化す】
【レア度】6
【ステータス】攻撃力+30 技量補正F
【固有アビリティ】
『美味なる血潮』 【発動条件:MP30消費】
『魔眼・緋珠』【発動条件:天候・夕】
【装備必要ステータス】知力120・力6
『蒼暗刀・高貴』
【夜を支配せし高貴なる一族の闇を宿す。静寂と冷血なる夜を求め、その魔刀の持ち主に、侯鬼の力の一端を開放させる】
【レア度】7
【ステータス】攻撃力+42 技量補正E
【固有アビリティ】
『魔眼・夜皇』【発動条件:天候・夜】
【装備必要ステータス】知力150・力4
『燈幻刀・鏡花』に比べ、どちらも刀身が短く、攻撃力も68より下回る。
しかし実はこれ、二刀流ができます。
右手と左手に装備すれば、あら不思議。二刀流の完成だ。
そして二振りの素晴らしい刀を腰に差し、改めて問題点を分析する。
「目下の問題は刀そのものにはない。刀術スキルの普及だ……これさえ解決すれば、俺の作る鉱石だって高値で売ることができるわけで」
これほど美しい武器を扱えないのは、傭兵として非常に残念なのではないだろうか。そんな風に現状を憂うなら、刀術スキルの取得方法を開示すべきか?
しかし、刀術スキルの輝剣の生産条件を無償で広めるのは、もったいない気もする……。
「ん、まてよ? 輝剣を作って売りだせばいいんじゃ?」
生産条件はバレずに刀術スキルが普及し、俺も儲かる。
一石三鳥じゃないか。
刀術スキルの輝剣生成方法の条件は、おそらくだが3つ。
一つは刀系統の武器の愛用度が100を満たしていること。これは装備する時間が長く、使用すればするほど増えていく数値だ。
二つ目は使用者の知力が300以上。
三つめは武器破壊によって装備が消滅すること。
俺が『小太刀・諌めの宵』を壊してしまった時、偶然にもこれらの条件を満たしていることで刀術スキルの輝剣を手に入れたのだ。
アビリティ【戯れたる塵化】は武器の耐久値を下げるだけでなく、分解し破壊することができる。それを活用すれば、市場に流せる刀術スキルの輝剣も増やせるのでは?
「問題点は、愛着を上げるために長く身につける必要があるのと、壊すための刀が何本も必要……」
俺だけでやるにはかなり時間がかかってしまう。
だからと言って、知力ステータスの装備条件をクリアできそうな傭兵の知り合いはいないし、ずっと装備しててくださいなんて頼めない。
『小太刀・諌めの宵』の装備必要ステータスだって、知力15なのだ。
そんな人物は…………。
「いた!」
目の前にいる研究員NPCたちだ。
俺はコロンやスラッシュ、ピリオドにさっそく『小太刀・諌めの宵』を装備させるべく『競売と賞金首』で物を探す。
すると案の定というべきか、いくつか出品されていてどれもお手頃価格だったので即座に購入。『小太刀・諌めの宵』は刀術スキルにまつわる物だと知らなければ、攻撃力が低く装備するのにゴミ捨て知力をちょこっと上げないとダメな武器だ。
謎にレアリティが少し高いのに、攻撃力は低め。だから一本700エソという安値で売られていたのだろうが、こちらとしては非常に助かる。
「よし。あとはNPC達のレベルを上げて、知力300以上にする。そして、俺の『戯れる塵化』で壊せば……」
刀術スキルの輝剣の完成だ。
実際に輝剣を俺が売るってなると……目立ちすぎるな。製法を詮索されかねない……となると餅は餅屋、つまり輝剣ショップを営むジョージに卸せば問題ないはず。
刀術スキルの輝剣を作る、か……。
「ふふふ、夢も希望も懐も膨らむっ!」




