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249話 人狼殺


 薄暗い路地裏、そこは蛇のようにうねり曲がった長い回廊。あいも変わらず芸術的な意匠を凝らされた石柱が幾重にも伸びては、空を遮る屋根となる。

 そして石材で造られた床や壁には赤黒い血痕が所々に飛び散っており、腐臭がただよってきそうな不気味さを醸し出す。


 そんな場所で何の変哲もない男が一人。

 とぼとぼと歩いてゆく。


 時折、何かの匂いを嗅ぐように顔をすんすんと上下に動かし、周囲を見渡す。

 その度に俺達は息をひそめて身を隠す。

 距離にしておよそ20メートル前後、後方からの観察。

 

「お兄ちゃん、ずるい。エル、それで見たい」

「ちょっと待ってろ……」


 片手持ち望遠鏡で例の人狼(ライカン)をつぶさに観察。

 種族名がただの【人狼(ライカン)】ではなく【冷血なる人狼(リカント・ライカン)】と出たのだ。上位種と見込み、かなり慎重に追跡を(おこな)っていると自負している。

というのも、今回は隠密スキルに長けたリリィさんがPTメンバーにいるのだ。


『嗅覚の優れた敵でしたら、こちらに気付かれてしまう危険があるかもしれませんわ』


 そんな彼女のアドバイスから、十分な距離を取って後を追うという選択をしたわけなのだ。

そうして数分、人狼(ライカン)がどこに行くのかと様子を見ていると、(ほろ)のある荷馬車の前で彼は立ち止まった。馬車の荷は何かと望遠鏡で幌の裂け目を見てみると……。


「馬車の荷は多分、(おり)だ。しかも何人かの人間……NPCが捕まってる。移送中なのかな」


人狼(ライカン)が人(さら)いでもしてるのかしら」

「食用とかでしょうか?」

人狼(ライカン)、わるい?」



 さらに事態は急変し、人攫いの現場に数人の傭兵(プレイヤー)たちがなだれ込んだ。どうやらその男をつけていたのは俺達だけではなかったようだ。

 問答無用で武器を振りかざし、NPCの男へと攻撃を仕掛ける傭兵(プレイヤー)たち。

 寸での所でNPCはその攻撃をかいくぐり、傭兵(プレイヤー)たちと距離を空けた。ここからだと建物が遮蔽物になっていて詳しい戦況は分からないが、おそらく傭兵(プレイヤー)たちが数的にとても有利だと確信する。

 しかし、そんな思いは容易く打ち砕かれる事態となった。



「男が……人狼(ライカン)化してる」


「えっ、今って【天候:月夜】じゃないよね。どうして……」

「早い話、上位種は自分の意志で変身できるのか?」

 

 親友たちの疑問と憶測が隣で飛び交うが、俺は望遠鏡から目が離せなかった。さっきまでただの人間だった者が、屈強な骨格へと変貌し大男になっていくのだ。2メートル前後の体格で、黒い体毛を急速に生やしていく姿には圧巻だった。筋骨隆々の力強い人狼(ライカン)となった彼の頭部は、完全に狼のそれとなっている。


「す、すごい……」


 正直に言えばだいぶカッコイイ。

 俺がそう感想を漏らすと同時に、路地裏には狼の遠吠えが鳴り響いた。

 それが合図だったのか、今まで姿を隠していた数匹の人狼(ライカン)が飛び出した。

 持ち前の強靭な爪をひっかけているのか、目にもとまらぬ速さで壁を立体的に移動し、縦横無尽に駆け巡る。

 独特な動きで傭兵(プレイヤー)たちを翻弄し、予測不可能な動きで攻撃を回避していく人狼(ライカン)たち。もちろん避けるばかりでなく、その鋭い牙と爪の餌食に選ばれたのは――


「……傭兵(プレイヤー)人狼(ライカン)が戦闘を始めた」


 俺は即座に駆け出し、もう少し近くで見ようとする。

 傭兵(プレイヤー)たちは4人で【冷血なる人狼(リカント・ライカン)】は3匹だ。

 一見して傭兵(プレイヤー)側に分があるように思えたが、それも束の間。人狼たちは敏捷性が高いのもさることながら、その攻撃力が桁違いだった。剛腕による爪に引き裂かれた者は、ノックバックから立ち上がるのにしばしの時間を要する程で、体勢を立て直すのに手こずっている。

 そうこうしているうちに、狼の(あぎと)に挟まれた傭兵(プレイヤー)はベキリと不快な音を立て、一撃でキルされた。


「あの人達まずいよ、タロ。助太刀する? 早くしないと全滅しそうだよ」

「見て見ぬふりだ。逃げるのをお勧めするが」


 親友たちへどう返答するべきか迷っていると……一匹の人狼(ライカン)と完全に目が合ってしまった。


「グルルゥ……銀……脅威」

「我らを滅ぼす銀……」

「血吸い共に続き、危険……グルルルル」


 喋れるのにも驚きだったが、なんと三匹は唐突に標的を俺へと変えてきた。正確には俺の銀髪を見てだと思うが、この際どうでもいい。


「ごめん、みんな。近付き過ぎた代償で、なんだかこっちに来てるっぽい」


「早い話、夕輝(ゆうき)の要望通りな展開だな?」

「いや、まぁあの人達を助けたいと思ったけどさ」



 狙いがこちらに移ったと悟った瞬間から臨戦態勢に入るべく、俺はブルーホワイトたんを呼び出す。


「主サマ――――お呼びでしょうカ」


 氷雪をキラキラと降り散らせ、【銀氷の雪姫人形】は白青のドレス姿で優雅に参上した。


「敵だ。今回も一緒に戦おう」

「はい、かしこまりましタ」


 次いでフゥも召喚しておく。


「タロん、どうしたの? 遊ぶの?」


 緑の風を巻き吹かせ、【風呼び姫(ガルーダ)】は四枚の美しい翼で舞い踊る。


「ちょっとばかし風と(たわむ)れたい奴らがいるらしい」

「こう見えてもフゥは妖精女王候補(ティタルニア)なのん! タロんのためならがんばるるー!」

 

 同時に呼ぶのはMPの消耗がかなり早まる。かといって、相手の脅威レベルはかなり高いと直感で悟ったため、全力で応戦する他ない。



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― 新着の感想 ―
[一言] 200話以降から少なくなっている 掲示板スレや元の母校に表敬訪問で女神部の活動とかタロちゃんのハズか死ぬエピソードなどほんわか回を見てみたい。
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