192話 銀姫への誓い
「私の盟友、タロよ。そなたを『指揮官』に任命する」
豪奢な一室で、イグニトール姫から直接そう命じられ少し困惑してしまう。護衛兵の案内の元、辿り着いた場所は姫殿下が要人と判断した人物にのみ案内される部屋らしく、あれよあれよという間に話が勝手に進んでいった。
「『指揮官』として、我が軍に付く傭兵や民兵を率いてくれ。またハーディの毒牙から守ってくれた時のように、私の力になってほしい」
というわけで『指揮官』になっちゃいました。
こちらとしては、思い入れのないNPCにいきなり盟友扱いされたり、イグニトール姫王家側に味方するつもりだったから、軍門に参加させられるのは一向に構わないんだけど……『指揮官』とか、責任重大すぎて気おくれしている。
『グラントール継承戦争』というクエストを受注した際に、ログでクエスト概要が表示されたのだけど、『指揮官』という身分に関しては一切表記されていなかった。
つまりは特例だ。
「タロが『指揮官』っていうなら、俺らは『小隊長』を選んだほうがいいな」
「だね。なるべく率いる兵数は多めの方がお得そうだし」
親友たちが言う『小隊長』とは、10人からなるNPC民兵を率いて戦地へと参加する身分を示す。『小隊長』として生存している限り、民兵の士気は上がり、NPCの全ステータスが1.1倍の補正を受ける。『小隊長』である傭兵がキルされてしまった場合、指揮下にある兵卒のステータスが0.9倍に下がり、近くの敵にしか攻撃しなくなるという単調な動きしか取れなくなってしまうようだ。
ちなみに民兵とは、イグニトール領に住まう義勇兵のようだ。
「傭兵は『小隊長』か『兵卒』って身分のどちらかを選んで継承戦争に参加って事ね」
「んー、でも『小隊長』の身分で一度でもキルされてしまうと再度、継承戦争に参加するときは『兵卒』しか選べなくなっちゃうんだねー」
「それなら誰しも最初から『小隊長』を選ぶでありんすね」
「あら? でも『兵卒』さんなら所属する部隊が正規軍と書いてありますわよ?」
みんなが話し合っている通り、普通の傭兵は『小隊長』か『兵卒』のどちらかを選択するらしい。『指揮官』である俺に選択権はなかった。
『兵卒』は騎士団の指揮傘下で、正規の兵士達と混ざって従軍する身分のようだ。
指揮系統を分別すると、騎士団が上位でその下に正規軍とそれに加わる『兵卒』、そして自由な遊撃部隊として独立した指揮権を持つ民兵という区分に別れるっぽい。
つまり、今回は民兵を率いるのが傭兵団という枠組みっぽいのだ。
もちろん民兵のNPCは正規軍の兵士や、騎士団と比べ劣っているようで、そのステータス差を如何に覆すかは、どのように民兵NPCを指揮するかが鍵を握っているのだろう。そういうのがめんどうなタイプの傭兵は初めから『兵卒』を選択し、堅牢な正規軍と共に行動するのだろう。
『兵卒』は生存しやすい分、自由なルートでの進軍ができない。騎士団というNPCが命令を下し、その意に沿って進軍するからだ。自分勝手な行動に出た場合、正規軍という集団の輪から単独行動になるため生存率が著しく下がるだろう。
ちなみに『小隊長』を選ぼうが『兵卒』になろうが、所属できる兵種の部隊は全て歩兵だそうだ。騎馬隊NPCとかと正面衝突したら、一気に傭兵部隊は瓦解するのではないだろうか?
せめて槍などを現地で調達してNPC民兵に持たせられれば、凌げそうな気もするけど……。
「おっ、『小隊長』を選択したけど、これはなかなか……」
「やりこみ要素があるね。NPC民兵の装備変更……今は基本の剣しかないけど、育成要素なんてのもあるよ」
「好感度もありんすね」
「疲労度、なんてのもありますわね」
自分だけの部隊を率いて、共に成長し、戦地を駆け抜けていく。
あぁ、俺もやってみたかったな。
謎の錬金術士部隊が戦場をひっかきまわす、だなんて流布されたらかっこいいじゃないか!
「よし。全員、『小隊長』になったね?」
夕輝の確認にみんなが一斉に頷いた。
ここに総勢、7名の『小隊長』が誕生し、その傘下に70人の民兵による傭兵部隊が設立されたのだ。
そして夕輝が俺の前でゆっくりと膝を突けば、各『小隊長』たちもその流れに乗っかって、みんなが傅いた。
「我らは『指揮官』タロ殿の部隊に志願します」
「我らが指揮官殿、よろしく頼むぜ?」
本音を言えば『指揮官』なんて遠慮したかったけど、こういう雰囲気を出されると自然と気分が高揚してしまう。
「天士さまに忠誠を誓います」
「タロ氏、よろしゅうに」
「今だけですわよ」
「タロちゃんの護衛はうちらに任せて!」
「タロちゃんを守るよー」
みんなが何故、こんな態度を取り出すのかと言えば。
それは俺が任命された『指揮官』という役職が原因なのだ。
『指揮官』は各陣営のNPCに特別な功績を認められた傭兵にのみ任ぜられる。その効力は『小隊長』のように民兵という部下を直接持つ事ができない。しかし、最大20人まで同じ陣営の『小隊長』を指名する事で、自分の傘下に入れる事ができるのだ。
『小隊長』である傭兵に対しての命令権はないものの、民兵NPCは『小隊長』が発する指示より、『指揮官』である俺の下した判断を優先して従う。
このシステムは、『指揮官』と『小隊長』による両者の信頼がないと成り立たない。俺が変な指令を民兵に送ってしまえば、『小隊長』は貴重な自分の部隊戦力を危険にさらす可能性だってあるのだ。
そしてここが一番重要なのだけど、『指揮官』は自分の傘下にいる、『小隊長』を含めた民兵NPC全員のステータスを1.3倍に常時強化できるのだ。
小隊長が持つ士気向上の効果を足せば、民兵は1.4倍のステータスを誇ることになる。
つまりは精鋭部隊が作れるに等しい。
ただし、『指揮官』がキルされた場合、傘下に所属する兵士の全ステータスが0.6倍へと激減してしまう。しかも一度キルされれば、俺は再び『指揮官』として返り咲く事はできず、『兵卒』としてもイグニトール継承戦争に再参加する事ができないらしい。
つまり、味方の負うリスク、自分の負うリスクを考えても俺を守ってくれる傭兵が、『小隊長』たちが必要なのだ。
幸いにして、俺にはもったいないぐらいの『小隊長』たちが揃っていた。
味方になってくれるみんなに、感謝の念が尽きない。
ちょっとの照れくささを感じつつ、これから始まる戦への意気込みを述べておく。
「必ずやイグニトール姫に、我らが勝利の栄光を献上してみせる! さぁ我に続け! 勇敢なる小隊長たちよ!」
「ククッ、夕輝に上手く乗せられたな?」
晃夜の突っ込みに、俺自身のせられたという自覚は多少あった。それでも、俺の傘下に入る要請をみんなが受諾してくれたのが嬉しい。
:『指揮官』タロは7人の『小隊長』より、忠誠を受けました:
:『小隊長』が『指揮官』タロの『旗手』となりました:
流れるログを見つめ、俺は不敵に笑った。
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