191話 盟友の参上
「かなり立派な都市だな……」
グラントール王国の首都、『雷炎を仰ぐ都イグニストラ』に到着した俺達は感嘆する。
7メートル以上の高さを誇る城壁門をくぐりぬけたその先には、不可思議な街並みが広がっていた。最も目を引くのは、等間隔に設置された太い円柱だ。円柱は都市内で百本以上も並び立ち、その頂上には白亜の小神殿じみた建物がある。そして、なんとそこに小舟が中空でゆらゆらと停泊していたのだ。
「舟が……空を飛んでいますわね」
リリィさんが頭上を仰ぎ見ながら、小神殿と小神殿の間を空中で往来する舟を凝視する。俺もそれに釣られながら周囲をじっくりと観察してゆく。
街と神殿の融合、とでも言ったらいいのだろうか、住民の生活区画には古い石質建築群も見受けられ、上空で舟が移動しているのもあって、都市全体がまるで水底に沈んでしまった遺跡のようだと錯覚してしまう。
「これのどの辺が……雷炎を仰ぐ都、なんだろうね」
「早い話、水中都市って言った方がしっくりくるな」
もちろんここは水中であるはずないけれど、親友達が指摘する通り雷と炎の要素がこれっぽっちもない。
「とにかく、グラントール継承戦争のクエストを受けるにはどこに行けばいいんだろ?」
「あそこだよ」
俺の疑問に夕輝は円柱上の小神殿を指した。
◇
小神殿への道のりは円柱自体が塔のような構造になっており、内部に入ってぐるぐると階段を上って行けばすぐだった。
そこから停泊している小舟を管理する衛兵らしきNPCに掛け合ってもらい、都市中央部に見える城に乗り継いで行くそうだ。
「俺達以外にも、小舟を利用している傭兵がいるな」
「意外にイグニトール姫王家側に付く傭兵も多数いるってことかな?」
現時点で、ハーディ伯爵、グランゼ侯爵率いる反乱軍からクエストを受注している傭兵は、首都近隣に侵入すると衛兵NPCから総攻撃をくらうそうだ。
ちなみに倒しても倒しても、衛兵は詰め所からは無限にリポップしてくるそうだ。
つまり現在、この町にいれるのはイグニトール姫王家に敵対していない傭兵だという可能性が高い。
「ただ、この町にいるってだけかもよ?」
「もちろん、観光って線もあるね」
「姫王家と反乱軍、どっちからクエ受注するか決めかねてるだけかもな」
そんな憶測を言い合いながら、一つの小舟に二人ずつ乗船していく。どうやら重量制限があるらしい。合計4隻で、都市での空中上船を楽しむ事になった。
舟の先端では案内役を買って出てくれたNPCが、オールを漕いで進めていくのだけど……どんな原理で小舟が浮いてるのか非常に気になった。
「どうやって、この船は浮いてるのですか?」
試しに漕ぎ手のNPCに聞けば、特別な機密事項でもないようですんなりと返答してくれる。
「円柱と円柱の間に電気の魔法結界が張り巡らされていてね。目には見えん力じゃが、わしらはこの結界を『電子の海』と呼んでいる。その魔法特性にやんわりと反発する素材を、舟やオールに使用しているだけじゃよ」
なるほど……磁石のN極とS極のような性質を利用して、こんな空飛ぶ舟を実現できたのか。
何か錬金術のヒントになりそうだな。
「すごいですね」
「ふぉっふぉ。傭兵さん、こんなゴンドラで驚いてたら、イグニトール王家が誇る『鋼鉄の玉座』なんか目にした日にゃ、腰を抜かすじゃろうなぁ……」
「『鋼鉄の玉座』?」
漕ぎ手の語りに興味を示すと、その初老は何かを崇拝するような、畏敬の念を浮かべた眼差しを空に向けて語り出す。
「わしが若い頃は、よく戦で見たもんじゃが……ありゃぁ、まさに炎の雷を豪雨のように敵軍へと降らす、嵐のような大船だったわい……」
『鋼鉄の玉座』とは、巨大な鋼鉄製の戦船でかなり頑丈であるようだ。しかも『電子の海』を必要とせず、どこへでも飛んで行ける代物で、先代の王様が率いた際には敵軍の上空から一方的に炎と雷の魔法を、王や騎士達が砲火していくという、とんでもない兵器だそうだ。
「王城が落ちれば、国は終わる。ならば強敵をも砕く最強の王城をもって、空へと君臨し、宿敵を薙ぎ払えば良い。守るぐらいなら攻め立てよ。そう豪語なさった王様が率いる、攻防一体を兼ね備えた戦船は、まさにこの地に……この地の空に君臨する『鋼鉄の玉座』じゃった」
『イグニトールの民は、あの黒き大船を仰ぎ見ては勝利に喜び、よく歓声を送ったものじゃ』と、遠い昔を思い出す漕ぎ手の双眸には、王に対する強い憧憬の色があった。
なるほど、炎と雷を落とす大船。それがイグニトール王家の象徴であり、それを見上げる機会が一番多い事を誉れとする民。それこそが、この首都が『炎雷を仰ぐ都イグニストラ』と呼ばれる所以なのか。
「先代の王様は、『鋼鉄の玉座』を使役できたんじゃが……今代の姫さまは使えんのじゃよ……」
そう言って少し背を丸めた漕ぎ手は、『ついたぞ、傭兵さん』と溜息をこぼしながら舟をとめた。
噂の『鋼鉄の玉座』とやらが見れるのかと内心でわくわくしていた俺だが、到着したのは普通のお城の門前だった。
屈強そうな門兵が8人ほどずらりと並び、武器を構えながら俺たちの停泊を出迎えてくる。
「ようこそ、傭兵殿。此度の訪問の目的を述べて欲しい」
「継承戦争に加勢すべく、参上しました」
代表として夕輝が口上に答えると、門兵たちは厳めしい顔で頷いた。
「此度の反乱軍鎮圧へのご助力、感謝する」
「反逆者に死の炎槍を!」「不忠者に死の雷刃を!」
一斉に武器や防具を打ち鳴らし、号令を叫び合う門兵たちの様子から城内の士気はかなり高いようだ。
「では、傭兵部隊の管轄はラインハルト伯爵が請け負っているので案内いたす」
隊長格らしきNPCに城内へ促されるが、ふと隊長格が俺を凝視しながら立ち止まった。
「月のごとき銀の長髪、天使のごとく幼子の容貌……そなたはもしや、姫殿下のお命を守られた……」
ぼそぼそと呟き、思案顔になった隊長格はすっと俺の目の前まで近付き、質問を浴びせて来た。
「そなた、姫殿下とは知己であるか?」
マモルくんやジュンヤくんと、ポーンセントまでイグニトール令嬢の護衛クエストをした時に、少しの面識はあったので肯定しておく。
「い、いちおう?」
「で、あるならば、証を見せて欲しい」
証……あかし。
あ、そういえば護衛クエストのクリア報酬でもらった装備があったじゃないか。性能は低いけれど、NPCの店で売ろうとしたら4万エソの値がついた高額な換金装備『炎聖の短剣』だ。
それを隊長さんに見せると、即座に片膝を突いて頭を垂れた。
「やはり姫殿下の恩人でありましたか! 国を代表して深くお礼申しあげます!」
唐突な隊長さんのお礼に、周囲の門兵たちも一斉に傅いて頭を下げ出す。
そんな熱い歓待を受けた俺たちのPT内が驚くのは当然だった。
「えっ? タロちゃん、何かしたの?」
「もしかしてータロちゃんって、お偉いさんなの?」
「いつの間に恩を売りつけておくだなんて、なかなかやりますわね」
「はらはら、さすがタロ氏でありんす」
「なんて言ったって、天士さまですから」
晃夜と夕輝は事情を知っていたので驚いてはいないが、ちょっとだけ肩をすくめているのが気になった。
「姫殿下の盟友殿を警護せよ! ささっ、姫殿下の元へご案内させていただきます」
兵舎から10人程の護衛兵がすぐさま招集され、俺達を挟むように物々しく城内を案内してくれる。
たまにすれ違う傭兵たちが、何事かと目を見開いてこちらを観察してくるが、護衛兵たちの圧力に気圧されてか近付いてこようとはしない。
「タロちゃん……国のお姫様と知り合いって……」
「しかも顔パスでお姫様に会えるなんて……タロちゃん、何者」
ゆらちーとシズクちゃんの小さな疑問に、『タロはタロだよ』『俺らの錬金術士殿、だろ』と親友たちが軽い口調で答える。
その後、『普通人のくせに、ちっとも普通じゃない』と二人に笑われた。
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