第19話:田中家、空を飛ぶ。新天地への「やりくり」は大陸移動!?
田中家の庭は、もはや「庭」という概念を通り越していた。
天を突く世界樹の枝葉は王都の半分を覆い、その根から溢れ出す魔力は街全体の植物を異常成長させ、聖獣たちは狭い庭で追いかけっこをするたびに、うっかり他国の山を一つ二つ消し飛ばしかねない勢いだ。
「直人、もう限界よ。昨日の夜も、グリちゃん(グリフォン)が寝返り打った拍子に、隣の伯爵領の森をなぎ倒しちゃったみたいで……」
ユカリが困り果てた顔で、窓の外を見る。そこには、世界樹の枝に窮屈そうに止まっている伝説の魔獣たちの姿。
「そうだな。これ以上ここにいると、王都そのものを押し潰しちまう。……よし、ユカリ。もっと広い場所へ引っ越そう」
「引っ越しって……どこに? どこの国も、私たちの庭を受け入れる広さなんてないわよ?」
「ないなら、探せばいい。俺たちの理想の庭を――未開の新大陸とかな」
田中家の「やりくり」:浮遊屋敷の完成
直人は『神のナイフ』を抜き、地面に突き立てた。
「ナビゲーター。田中家の敷地、世界樹の根、そしてゼウスからもらった『浮遊城の心臓』を、一つの『素材』としてさばいてくれ」
『了解。スキル【さばく者】および【満たす者】を最大出力で連結。田中家の土地そのものを世界の理(重力)から切り離し、独立した移動空間として再定義します』
――ゴゴゴゴゴゴ……!!
王都が激しい震動に包まれた。だが、それは破壊の揺れではない。
直人のナイフが地脈を「さばき」、ユカリの溢れんばかりの魔力がその亀裂を「満たして」いく。
王都の人々が空を見上げて腰を抜かした。
田中家の屋敷、世界樹、そして広大な庭そのものが、巨大な岩盤ごとふわりと宙に浮き上がったのだ。
「直人! 浮いたわ! 本当に浮いちゃった!」
「よし、ユカリ。ちょっとパワーが足りないから、後ろの『魔力エンジン(貯蔵庫)』に少しだけ魔力を流してくれ。……あ、本気で出すなよ? 大気圏を突き抜けるからな」
「わかってるわよ! えいっ!」
ユカリが軽く指先で触れると、浮遊島「ハウス・オブ・タナカ」は、白い雲を切り裂きながら、まだ見ぬ西の最果て――絶海の新大陸を目指して加速した。
空飛ぶ庭の住人たち
「グルゥゥゥ!」
空を飛ぶ爽快感に、グリフォンや白狼たちが喜びの声を上げ、庭を駆け回る。
「贅沢な旅ね、直人。屋敷ごと移動するなんて」
「ああ。これなら引っ越しの荷造りもいらないし、朝食を食べてる間に次の国へ着く。……おっと、ナビゲーター。前方に『空の支配者』を名乗る古代龍の群れだ」
『警告。古代龍の群れが縄張りへの侵入と判断し、ブレスのチャージを開始しました』
「直人、私が出るわ! 洗濯物を干したばかりなのに、煙を吐かれたら堪らないもの!」
ユカリがベランダに身を乗り出し、手に持っていた洗濯バサミを軽く振った。
「そこ、邪魔! どいてー!」
――ドォォォォォン!!
ユカリの放った「声」そのものが衝撃波となり、数百頭の古代龍が一瞬で地平線の彼方まで吹き飛ばされた。空の覇者たちが、ただの羽虫のように散っていく。
「……ユカリ、今のはちょっとやりすぎじゃないか?」
「だってお日様が隠れちゃうでしょ? さあ直人、お昼ごはんにしましょう。今日は空の上でピクニックね!」
新大陸、上陸?
数時間の飛行の後、雲の切れ間に見たこともない巨大な大陸が姿を現した。
そこは、かつての神々が捨てたと言われる、異形の魔獣と未発見の食材が眠る「絶望の大陸」。
「……いい場所だな。あそこなら、聖獣たちが暴れても誰にも迷惑をかけない」
「美味しそうな果物もたくさん見えるわ! 直人、あそこに決めましょう!」
直人は『さばく者』の目で、新大陸の最も肥沃な土地を見定めた。
「よし、着陸だ。……あそこにいる巨大な魔神みたいな奴らは、後で俺が『さばいて』、開墾用のトラクターになってもらおう」
『報告。新大陸の全生物が、上空から迫る「圧倒的な捕食者(主夫と女神)」の気配を察知。……現在、大陸全土で空前絶後の逃走・および降伏の準備が始まっています』
こうして、田中家の「理想の庭作り」は、一国を越え、未開の大陸を丸ごとやりくりする壮大な冒険へと変貌した。




