上書き
城下町に出かけて数週間が経った。
だが、彼には動きがない。
「うん。実に平和だね?」
「なぜ?あなたがここに?」
私の目線の先にはちゃっかり王子がいた。
「なぜいると言われてもね?ヴァン」
「俺に振るな。何で今日はいる?」
ヴァン様にも言わず来たのか迷惑な人だ。
「今、いい迷惑だと思ったね?」
「いえ」
嘘である。
「そう、まあいいよ。不敬罪になりかねないけどね」
「すみませんでした」
権力者怖い。
「それで、本当に何で来た?」
「ああ、気になることがあったんだよ」
「気になることですか?」
「……王都に変な噂が流れている」
「また噂ですか…」
この前の件と言い彼の影がちらつく。
「それで、噂の内容はどんなものですか?」
「王家が新兵器の設計図を独占しているという噂だよ」
「あの、筒のようなものですか?」
「ああ、確かに壊れたものは保管しているが、解析は今も進んでいる。だから設計図なんて存在しない」
「あいつが流したのかもな」
「やはりそう思おうか?」
「ああ、市民が王家や貴族に不満を抱き始めている今だからこそ、意味のある噂だ。あまりにもタイミングが良すぎる」
そう、あまりにもタイミングや内容が的確過ぎる。
彼でないとできない芸当だ。
「それで、市民の反応は?」
「一気に王家に対する不満が膨れ上がったよ」
「そうでしょうね。で、暴動などは?」
「今のところは特にないけど、時間の問題かもね」
「そうですか……」
どうにか止めたいが無実だと言っても同じ貴族の私では信用がない。
「暴動は止められないか……」
となると自然と武力での鎮圧になる。
だが、それは彼の思うつぼだろ。
それにより、一層市民の不満は溜まり、王家並びに貴族に対して不信感を持つ。
「さて、どうしましょうか?」
「それを相談しに来たんだよ」
「と、言っても俺達では何もできないぞ?」
「そこは奥方に何かいい案がないか聞きたいところだね?」
「はあ、考えはしますけど、期待はしないでくださいよ?」
この人は簡単に言うが、今回のことは繊細かつ慎重にしなければ、火に油を注ぐことになりかねない。
とにかく、整理しよう。
彼の狙いは間違いなく武力での鎮圧による不満や信頼の失墜だ。
これを防ぐには彼らを武力以外で止める必要がある。
一番いいのは本当のことを言い誤解を解くことだが、それは難しい。
なら、それよりインパクトのある話でごまかせばいい。しかも、同じ種類のもので。
「王子、あの新兵器クロスボウは、まだ公表していないのですよね?」
「ああ、今軍部の連中と話していて近日中に公表予定になっているよ」
「その公表、使えませんか?」
王子とヴァン様は少し頭をひねり考えていたがすぐに気づいたのか笑みを浮かべる。
「……なるほど」
「リアリスらしいな」
無事、話はまとまった。その数日後。
「市民の皆様、今回は集まっていただき感謝する。今回は新兵器クロスボウについて報告しようと思い市民の皆様方には集まっていただいた」
広場の中央台に立ち王子が大きな声で説明する。
市民はざわつくが話を続ける。
「我が国は残念ながら先日の式典で敵が使用した武器の解析に全力を尽くしているが原理が不明でいまだ設計図すら作れずにいる。だが、もう一つの新兵器、名をクロスボウ。これの再現に成功した」
王子の手にはクロスボウが握られている。
そうして王子はクロスボウの説明を淡々と行い説明を終える。
「と、こんな具合にクロスボウは戦場の新しい弓に変わる武器になる。これで一層我が国の守りは強くなるであろう」
民衆が湧く。
その時にはもう、設計図の秘匿についての声は聞こえなくなっていた。
一部を除いて。
クロスボウの公表が終わり、王子は王城に戻る。
「はあ、ハラハラものだよ」
王子はソファーに深く座る。
「いえ、大変落ち着いてましたよ」
「はあ」
王子は顔を下に向ける。
「君が変わってくれたらよかったのに……」
珍しく疲れていた。
「まあ、賭けの部分がありましたからね?」
「そうだよ、あそこでまだ疑われていたら、切り返しなんてできないよ」
「まあ、無事済んだのだからそういうな」
ヴァン様が王子の肩を軽くたたく。
「君たちはただ見てただけじゃないか?」
「いや、いや。見ていてひやひやしていたぞ?なにせ提案は僕の妻の物だし、もし暴動でも起これば、対処しなければいけなかったからな」
「お二人ともお疲れ様でした」
二人の視線がこちらに向く。
「君は鬼か?」
「ああ、可愛いが鬼だな……」
鬼とは失礼な。今回のことは私にしても不安だった、だけど仕方ないのだ。
もしこのままなら、彼の思うつぼだった。
「少なくても、これですぐには暴動は起こりません」
「ああ、それだけが救いだよ」
王都から少し離れた小屋。
「いいな、ここから俺達で世界を変えるぞ」
「「おお!」」
そこでは、男たちが強い意志のもとに集まり、世界の変革を望んでいる。
「貴重な情報ありがとうございました」
「いえ、当たり前の話ですよ」
男は微かに微笑む。公爵家の方向を眺めながら。
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