第二十四話:水晶ゴーレムと結晶の話 (3/3)
俺は、宝石のようにキラキラと輝く液体が入った型を、彼女の前にそっと置いた。
水晶の少女は、その型の中を、ただじっと見つめていた。
そこには、これから生まれようとしている、小さな、美しい宝石の世界が広がっていた。そして、それは、彼女自身の、新しい未来の姿でもあった。
通常なら、この琥珀糖が固まるまでには、数日かかる。だが、彼女は、ただの人間ではない。魔力によって生命を維持する、魔法的な存在だ。
彼女が、その型に、そっと指を触れた瞬間、奇跡は起きた。
彼女の持つ魔力が、砂糖水に流れ込み、結晶化のプロセスを、超高速で促進していく。液体だったものが、みるみるうちに固まり、美しい宝石のような、半透明の固体へと変わっていく。
そして、数分後。
そこには、外側はシャリシャリとした結晶に覆われ、内側はぷるりとした潤いを保った、完璧な「琥珀糖」が完成していた。
「さあ、食ってみな。いや、『吸収』してみな。こいつが、君の体の新しい『取扱説明書』になる」
俺が言うと、水晶の少女は、意を決したように、その琥珀糖を、ひとかけら、そっと手に取った。そして、それを、自分の水晶の体へと、ゆっくりと吸収させていく。
琥珀糖に含まれた、ハーブの「阻害剤」の成分が、彼女の魔法的な体を通して、驚異的なスピードで、その全身へと行き渡っていく。
そして、彼女をずっと苦しめていた、体が内側からミシミシと押し広げられるような、不快な成長の「感覚」が、すーっと、穏やかな潮が引くように、静まっていくのが分かった。
《あ……!止まった……?わたくしの体が、もう、大きくならない……?》
彼女の心の声が、震えていた。
それは、完治ではない。だが、彼女の体の過剰な成長が、確かに「鎮静化」された瞬間だった。自分の体が、もう怪物になることはない。その事実に、彼女は、生まれて初めて、心からの安堵を感じていた。
彼女の水晶の瞳から、大粒の、ダイヤモンドのような涙が、ぽろぽろとこぼれ落ちた。
それは、長年の恐怖から解放された、歓喜の涙だった。
「言ったろ? あんたの体は、美しい宝石なんだ。ただ、正しい手入れの仕方を、知らなかっただけさ」
俺は、お土産に、あのレモンバームの葉を数枚、小さな布袋に入れて渡した。
「お守りだ。これから、時々、この葉を煎じて、その蒸気を体に浴びるといい。そうすりゃあ、あんたの体は、ずっとその美しい姿を保てるはずだ」
彼女は、そのハーブの入った袋を、まるで世界で一番の宝物のように、大切そうに胸に抱きしめた。
《ありがとうございます……! ぶっさん様……! ありがとうございます……!》
彼女は、何度も、何度も、頭を下げた。
その日、一人の水晶の少女は、初めて、自分の体を呪うのではなく、自分の体を愛おしいと思えた。そして、自分の美しさを、自分の手で守っていくための、確かな知恵を手に入れたのだった。
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