幕間:水晶の心と成長の鎮静
わたくしは、ずっと、自分の体が怖かったのです。
この、光を浴びてキラキラと輝く水晶の体。かつては、わたくしを造ってくださった魔法使い様も、美しいと褒めてくださった、自慢の体でした。
けれど、いつからか、この体は、わたくしの意思とは関係なく、少しずつ、少しずつ、大きくなり始めました。
ミシリ、と、体の内側から、結晶が押し広げられる、あの不快な感覚。それは、わたくしが美しい宝飾品から、ただの醜い岩塊へと、ゆっくりと変貌していく、絶望の音でした。
このままでは、怪物になってしまう。
その恐怖が、鉛のように、わたくしの心を支配していました。魔力を取り込むことさえ、怖かった。生きていることそのものが、自分を醜くしていくようで、たまらなく悲しかったのです。
そんな時、風の噂で耳にしたのです。森の奥に、どんな悩みも解決するという、不思議な料理人がいると。
わたくしのこの、体の理そのものがおかしいというのに、料理でどうにかなるはずもない。そう思いながらも、何かにすがりたくて、わたくしは、そのお店の扉を開きました。
お店の主、ぶっさん様は、わたくしの姿を見ても、ただの美しい置物だとは思いませんでした。彼は、わたくしの体の奥にある、結晶の仕組みを、まるで自分のことのように、静かに、的確に見抜いてみせたのです。「君は宝石だ。正しい手入れが必要なだけさ」と。
彼が作ってくれたのは、「食べる宝石」という、不思議なお菓子でした。
鍋の中で、砂糖水が、わたくしの体と同じように、結晶になっていく。それを見ているのは、少しだけ怖かった。でも、彼が、緑の葉から抽出した、優しい香りのエキスをそこに加えた時、わたくしは、初めて希望というものを見たような気がしたのです。
目の前に置かれた、キラキラと輝く「琥珀糖」。
わたくしがそれに触れた瞬間、奇跡は起きました。
わたくしの魔力が、そのお菓子を、瞬く間に美しい宝石へと変えていく。
そして、そのひとかけらを、わたくしが体に取り込んだ時、
すーっと、あの、ずっとわたくしを苦しめていた、体が内側から押し広げられるような、不快な成長の感覚が、穏やかな潮が引くように、静まっていったのです。
止まった。
わたくしの成長が、止まった。
涙が、溢れて止まりませんでした。
でも、それは絶望の涙ではありません。長年の恐怖から解放された、歓喜の涙でした。
ぶっさん様、ありがとうございます。
あなたの作ってくれた、あの温かい宝石は、わたくしの体の成長を鎮めてくれただけではありません。自分の体を呪うのではなく、その美しさを、自分の手で守っていくための、知恵と勇気をくれました。
もう、わたくしは、自分の体が怖くありません。
この、世界で一番美しい水晶の体と共に、これからは、胸を張って生きていくのです。
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