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ボクと正義の味方2

 客間に通されたルム達は部屋の中央のソファーに座るよう促された。


「サンダー、アンタが座ると三人掛けのソファーに二人しか座れないのよ。アンタ立ってちょうだい」


「ここは新参者が遠慮するべきだろう。立つのはお前だ」


 またどうでもいい話でサンダーとモディが険悪なムードになる。ルムは頭を抱えた。──これが二人なりのコミュニケーション、俗に言う「プロレス」だとルムが気付くまで少し時間がかかった。


 部屋の扉を開け、今度は年配の男性が姿を見せた。


「初めまして、旅の方。私がこの集落の長を務めているデヴィッドだ」


 ルム達は頭を下げた。彼はルム達が座るソファの正面にある一人掛けの椅子に深く腰を掛けた。


「回りくどいことは止そう。貴方達はなぜこんな不便な場所に来た?」


 余所者が訪ねてくることは余程ないのか、ここを偶然通りかかっただけのルム達に警戒しているのは明らかだ。トカゲ人間よりも余所者に警戒するってどんな村だよ……と言いたい気持ちをぐっと堪える。


「当てのない旅を続ける身でして、山を越える途中だったのです。ですからこの村と謎の生物の襲撃については偶然知ったに過ぎません」


 サンダーは苛立つ様子も見せず、冷静に答える。


「実は俺達もその生物に財産を奪われまして、そこで偶然この集落の住民に『同じ生物が集落を度々襲っている』と聞きました。自分達の財産を奪還するためその生物に接触したくここに立ち寄らせてもらいました」


「それだけか?」


「……俺達の目的はあくまで『自分達の財産を奪い返す』です。ですが手当次第ではその生物を撃退させていただきます」


 サンダーの意地の悪い提案に長は渋い顔をする。


「え、サンダー! 報酬がなければやらないって……」


「しっ!」


 ルムが言い掛けたところでモディが遮る。ルムは報酬が無くったってやるつもりだった。


「しかし外の者がアイツらを退けられるのか……」


「ですが『内の者』だけではどうにもなっていないのが現状なのではないですか? 内の者だけでどうにもならないならやられっ放しでもよいというのがこの集落の総意ですか?」


 あくまで『外の者』に頼りたくない長へサンダーが痛いところを突いていく。長は悔しそうに口を噤んだ。

 しかし彼は観念したのか、背に腹は代えられないとばかりにぽつぽつと語り始めた。


「あの大トカゲの襲撃はもはや夏の風物詩だ。アイツらは冬は大人しい。眠っているのかもしれない。だが目覚めて気温が高くなれば好き放題だ。金目のものなんてバケモノが奪って何をするのか知らないが、奴らのいない間に貯めたものを夏にアイツらが奪っていく」


 それなのに対策の一つも立てずやられっ放しだったのか、と呆れた。


「アイツらは一つの群だ。ボスが居て、そいつの統率のもと略奪行為を繰り返している」


「ふーん、逆にボスっていうのを倒せばその群が瓦解するかもしれないわねん」


「そうかもしれない。あの大トカゲはさほど頭が良くないようだが、ボスは別格だ。奴は人語を話すことができるほどの知能と知性の持ち主だ。すべてそいつが指示を出していて、その他はそれに従うだけだ」


 一つの突破口が見えた。


「できるだけ群を壊滅状態まで追い込むつもりです。しかしそれが不可能と判断すればボスだけは仕留めようと思います。そして復讐など考えられないほどに戦意を喪失させます」


「頼む」


「俺達は武器は自分のものを持っていますのでお借りする必要はないですが、できるなら寝所と食事を提供してほしい。なるべく短期でけりをつけます」


 村長は再び渋い顔をして考え込んだ。


***


「結局野宿みたいなモンじゃない!」


 モディは不満をぶちまけた。


「屋根があるところで過ごせるだけマシですよ」


 ルム達は結局どこにいるかというと、長の口利きでアルメリアの家の薪置き場で寝泊まりすることになったのだ。壁は三面しかなくただの風除け程度にしかなっていない。

 ルムは借りたぼろ切れのような薄手の毛布の上に横たわる。


「結局ここの人達って襲撃に慣れちゃってたんですね」


「外の者に頼りたくないのか、頼れない余りに『いつものこと』だと麻痺してしまったんだろう」


 そこでアルメリアの母が訪ねてきた。手に持ったトレーにはパンとスープが乗っている。アルメリアとマツリカも母について小屋に来た。


「たいしたものではありませんが」


「いいえ、お食事までいただけるのはありがたいです。いただきます」


「おねえちゃんたちがトカゲさんやっつけるの?」


「あ、うん……」


 会話に割って入ってきたアルメリアにやはりルムは戸惑う。懐いてくれるのはありがたいことなのだろうが、ルムにはありがた迷惑でもあった。そんなルムの代わりにサンダーが「そう、悪いことをするトカゲさんはお兄さん達が退治するんだよ」と答えた。するとアルメリアはほっとしたような笑顔を見せた。


「トカゲさんやっつけてくれるって! もう怖くないよ」


 そう言ってアルメリアはマツリカを抱き締めた。小さな体から溢れるその気遣いに大人達は頬を緩めた。


***


 降り注ぐ朝日の眩しさで目が覚めた。

 適度に吹いていた風が小屋に溜まる熱気を循環してくれたらしく、寝ている間に熱中症にならなくて済んだ。ルムは体を起こして背伸びした。昨晩は何事もなかったようだ。


 アルメリアの母からパンと卵焼きの簡単な朝食をいただくと、あとはすることのない暇な時間を過ごすことになった。こちらからトカゲ人間の居場所を探しに行くという方策もあったが、自分達が不在の間に集落が襲撃されたらどうしようもないということで待ち伏せる方法を採った。

 ルムとモディは小屋の中の薪の束を椅子代わりに腰掛け、自分の銃の整備を始めた。サンダーは小屋から出てその前で軽くストレッチをしている。サンダーの武器は自身の体なので武器の整備と言ってもあながち間違いではなかろう。

 周囲を見渡してみると、早朝から山で取った山菜を処理している住民がちらほらいる。こうしていると謎の生物とは無縁の平和な集落だ。


 屋外に出ている住民が一斉に顔を上げ、集落の入り口を注視している。住民は作業していたものを放り出して家の中に隠れてしまった。その要因はルム達も薄々勘付いていた。


「……足音が近付いてきますよ」


「ああ、それも結構な数だな」


 ルムも、サンダーも、モディも、集落と街道を繋ぐ細い一本道を見た。奴らはどうやら律儀にもこの道を使って襲撃しに来るようだ。

 やがてこの集落を荒らす一団が姿を現した。昨日見たトカゲ人間と全く同じ姿をした生き物がざっと見るかぎり十匹以上いる。その先頭に立っているのは他のトカゲよりも少し立派な甲冑を身につけ頭に鉢金を巻いている。全員手には棍棒や斧など何かしら武器を持っている。

 群が集落に踏み入る前に、ルム達は入り口に立ち塞がり奴らの侵入を阻んだ。


「何だテメェらは?」


 先頭にいる鉢金をつけたトカゲが人の言葉で凄んできた。潰れた喉から無理に出したような嗄れた声だ。人語を喋るということはこいつがボスのようだ。


「昨日盗んだボク達の財布を返してもらえませんか? あれは全財産なんです。返してくれなければ力づくで奪い返すまでです!」


「あー、財布ゥ? てめぇら、知ってっか?」


 ボスが群の方を振り向き尋ねると背後のトカゲ人間達がギャッギャとやかましく鳴き始めた。


「あれが全財産だと? 随分と可愛らしい全財産だなぁ!」


 トカゲ人間のボスは小馬鹿にしたような高笑いをした。それを真似るように背後のトカゲ人間達がギャーッと声を上げる。


「うるさいわボケ!」


 ルムの汚い言葉にトカゲ人間が静まり返った。トカゲ人間が黙ったことを確認して、ルムは小さく溜息を吐いた。それから落ち着いた口調でボストカゲに尋ねた。


「お前達は【魔女】の手先か?」


「はぁ?」


 ルムの質問に驚いたような奇声を上げるボストカゲ。これはもしかして当たりなのかもしれない、と思った。


「一体誰の指図で金目のものを盗んだりするんだ? どの【魔女】にお前達は作られた?」


「お、おい。ちょっと待て! 誰が【魔女】の手先だって? 冗談じゃねぇ!」


「何だと? ボクが見てきた人外はすべて【魔女】の影響があって……」


「俺達は『山脈の魔女』の気配のするところから脱出してきたんだぜ。アイツに見られてると思うだけでおぞましい。俺達は生まれてから死ぬまで【魔女】とは関わってねぇし関わりたくねぇ。【魔女】の手先とかフザケんな」


 ボストカゲは一気にまくし立てた。


 こいつらは【魔女】の手下じゃない? それどころか人間と同じくらい【魔女】に怯えている? そして生まれながらのモンスター?

 ルムには訳が分からなかった。


***


「テラってさー、ホントいけずな方だよね」


 腰から下が獣の下半身でありながら器用に椅子に座る【魔女】の使い魔が、卓に片肘で頬杖つきながら言った。傍に立つ【魔女】はその言葉などに全く興味を示していない。


「テラの能力の一つは『完全無欠な千里眼』でさ、彼らに『誰が呪いをかけたのか』が見えてるはずだし、それを提示するだけの『魔法』もあるのにさ。彼らにできるだけ多くの【魔女】を始末させたいが為にそれを伏せるなんて」


 黙っている【魔女】テラの背を見ながら、使い魔のアイトはニヤッと笑った。


「俺のツッコミがアタリでもハズレでもテラはだんまりだよね。でも俺テラのそういうところ嫌いじゃないよ」


 そこでテラの住処へと巨大な鳥が滑空で飛び込んできた。鳥ではなく翼の生えた男、テラのもう一人の使い魔だ。


「ミノンさん、おかえり。何か変わりはあった?」


「あるわけない。人間は今日は来ていないし、テラの力の影響で魔生物はこの辺りには寄りつかない」


「そうだよね。この辺りはテラの気配が濃いもん。ちょっと魔力がある奴は気付いて逃げ出すからね。……だからこそ逃げ出さないどころかそれをわかってて『呪い』という魔法を使った【魔女】が気に入らないんだよね」


「テラは人間や魔生物のように自分よりも上をいく者に対する『正しい畏怖』をする者には寛容だな」


「でもそうでない者は、ね……」


 アイトはもう一度テラの背を見た。テラは相変わらずだんまりだった。


***


 【魔女】との関わりをボストカゲに否定され、ルムはトカゲ人間の正体や暴れる理由がますますわからなくなった。

 そんな立ち尽くすルム達にトカゲ人間達は近付いた。


「さ、退いてもらおうか」


 ボストカゲは埃を払うように手を振り、退くよう促した。悠々と集落に群で踏み込もうとする。未知の魔物による蹂躙が再び始まる……かと思われた。

 乾いた破裂音が連続で響き、魔物が崩れ落ちる。


「げっ! 何だ?」


 ボストカゲは絞り出すように声を上げた。ルムは銃床を肩にしっかりと押しつけ銃口を群に向け、モディは両手にハンドガンを構えている。


「銃を持ってるのは女かよ! 畜生、舐めた真似しやがって! 男は何をやってんだよ」


 ボストカゲは『自分の仲間を撃ったのは女二人』としっかり認識できたようだ。奴は身を翻し来た道を駆けて戻り始めた。


「いくら自分の予想外のことが起きたからってパニックし過ぎじゃない? アイツ三下の雑魚よ!」


「ギャーッ!」


 モディの言葉にその場に残されたトカゲ人間の群が叫び声を上げた。それぞれ手にした武器を高く掲げ、ルム達の元へ全力で駆け寄ってくる。


「あれ? もしかして怒っちゃった?」


「二人とも、奴らが集落に入るのを防いでくれ。俺はあいつを追う」


 サンダーはシャツを脱ぐと迫り来るトカゲ人間の群に向かって走り出した。


「ギャアァーッ!」


『ガァァァーッ!』


 金髪の大男は失せ突如青い怪物が現れる。怪物はトカゲの群を難なく飛び越え一本道を駆け出した。トカゲ達は一度怪物の去った方向を振り返ったが、再び集落への侵入を目指し駆け出す。

 ルムとモディは迫るトカゲ人間を正面から迎え撃った。発砲の音と同時に倒れるトカゲ人間達。彼らは武器を振り上げ近付いてもそれが届く前に撃ち抜かれ、徒に屍を増やすだけだ。


「これなら雑魚は片付きそうです……ね……? ん?」


 ルムはトカゲ人間が使った一本道を見た。

 見えた光景、それはまさしくデジャビュだった。トカゲ人間の群が集落に向かってあの狭い道を行進してくるのだ。


「モディ、また群が来ますよ!」


「何ですって!」


「ギャーッ」


 第一陣の生き残りが第二陣に合流するとトカゲ人間は合わせて二十匹ほどになった。トカゲ人間達は左右に広がって走り、円陣を作るようにしてルム達を取り囲んだ。正面のトカゲ人間を倒してる間に他の方向から襲うつもりだろう。


「ったく……『さほど頭が良くない』って言ったのはどこの誰よ。ずいぶん考えて動くじゃない?」


「ボストカゲの入れ知恵かもしれませんけどね」


 ルムとモディは互いの背後を守るように背中合わせになって、取り囲むトカゲ人間達を睨みつけた。

 トカゲ人間達はじりじりと前進し、ルム達との距離を詰めていく。銃撃を警戒しているのかある程度近付き、そこで足を止めた。


「ギャーッッ!」


 トカゲ人間達は奇声を上げ、武器を高く掲げた。その持ち方に不吉なものを感じた。


「モディ! あいつら武器を投げてきますよ!」


 そうだ、奴らは武器を自分達にめがけて投げるつもりだ──

 四方八方から凶器を投げつけられたら逃れることはできない。


 強い太陽光を反射する凶器の光に命が焼き尽くされる。


「ギャーッ」


 死刑判決とも思えるトカゲの叫びが聞こえる。ルムは銃を構えたまま目を強く閉じた。

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