彼を知り己を知れば2
扉が静かに閉まる音がした。サンダーが出て行ったのを確認すると、四人の男達はルムを取り囲んだ。
「あいつが戻ってくるまで俺達と遊ぼうぜ」
実に久し振りに雄の情欲まみれの視線に曝された。いかにサンダーという存在に守ってもらっていたか実感する。
「彼はボクに手を出すなって言ってたじゃないですか。聞こえていなかったんですか?」
「ちょっと遊ぶだけだって」
そう言いながら男達は汚い手をルムの顔に、胸に、下半身に向けて伸ばしてくる。あとわずかで触れられそうだというのに、どこか心は落ち着いていた。ある確信がルムの中にあったから。
「今からあなた達がやろうとしていることを実行したら、あなた死にますよ?」
ルムはそう言って不敵に笑った。
次の瞬間。
ギシャァンと木の板が弾け飛ぶ音が響いた。貯蔵庫の扉が粉々に破壊され破片が室内にぶち撒かれた。扉どころか部屋の出入り口を拡大するように壁を破壊し、巨大な塊が貯蔵庫へ転がり込んできた。
『ガァァァッ!』
狭い貯蔵庫に轟音が響いた。石の壁の狭い部屋は反響が凄まじい。
「ひっ……ぎゃああああああああっ!」
ルムを取り囲んでいた男達は甲高い悲鳴を上げた。彼らは転がり込んできた巨大な青い塊が、見たことのない恐ろしい怪物だと理解したようだ。グルルと唸り声を出し威嚇する怪物。この時点で逃げ出せば見逃してやる、という警告を発するサンダーの慈悲だとルムは解釈した。
「キャーッ!」
みっともない叫び声を残して、男達は貯蔵庫から逃げ出した。その姿を見送ると、ルムは溜息を吐き髪を掻き上げた。
「怪物がボクの敵か味方かわからないのに、ボクやフリッツさんを置いて逃げるとは性根腐ってるんでしょうね。連れて逃げようとするなら見直したんですけど」
怪物はすぐには元の姿には戻らず、フンフンと鼻を鳴らしながらルムの体の匂いを確認している。
「大丈夫です。触られてないですよ」
ルムは足下で未だ立てずに床でもがくフリッツに歩み寄った。男達が投げ出していったナイフを拾い上げ、フリッツの手足を縛る縄を切り落とした。ひぃっと小さく叫び怯えた目をするフリッツに向けて、ルムは少し表情を和らげて話し掛けた。
「安心して下さい。彼は敵じゃありません」
その言葉が理解できていないように震え上がるフリッツの目の前で、怪物が下を向いた。次にそれが顔を上げたとき、そこにいたのは怪物ではなく美しい巨漢だった。目の前で起きた現象にフリッツは唖然としている。
「これが俺が【魔女】に受けた呪いだ。これを解くために、貴方の経験が必要なんだ」
サンダーは強く、まっすぐにフリッツを見据えて言った。
***
三人は貯蔵庫から抜け出し穴だらけのフロアに居た。穴の開いた箇所を避けて三人で円になって座っている。
「……その化け物は強いのか?」
真っ先に声を発したのはフリッツだった。その化け物、即ちサンダーの「変化後」のことを指しているのは明らかだった。サンダーは少し考えた。
「強いかはわからないが、身体能力は格段に上がっているし頑丈にできている。五感も人間よりは研ぎ澄まされている感覚はある」
ずば抜けた身体能力を持ちながら、人間並みの思考や処理能力がある。そんな生き物、明らかに人間よりも優れているに決まっている。難点は人の言葉を話せないこと──声帯がそういう風にできていないのだろう──と、人を必要以上に怖がらせてしまうことだろう。
「なるほどな……。お前なら【砦】に対抗できるかもしれない」
フリッツは俯きながらブツブツと口の中で話すように呟いている。彼は顔を上げてサンダーを見た。
「お前が俺の代わりに【砦】へ復讐を果たすというなら、教えてやる」
「わかった」
サンダーは軽く頷いた。するとフリッツは意を決したようにきっぱりと言った。
「【砦】の正体は【魔女】の使い魔二匹だ」
若かりし頃のフリッツは仲間を連れて『魔女の棲む山脈』を訪れたという。大した志もなく「英雄になりたい」とか「一花咲かせよう」くらいの軽い気持ちで「魔女退治」に向かったそうだ。
そしてそこで【砦】と遭遇したのだ。
***
「おい、出口が見えるぞ!」
「ああ、こんなしみったれた洞窟を抜ければそこが【魔女】の巣窟だ」
前方に見える明るみを指し、十人余りの男達は歓声を上げた。洞窟内にもある程度の危険はあったが、想像よりもあっけなく血気にはやった男達は肩透かしを食らっていた。
何の障害もなく洞窟をくぐり抜けると、目の前の壮大な自然に目が奪われた。洞窟を抜けた先は人喰い花のようなものが生い茂る密林かと思っていたが、草も花も木も過不足なく美しく咲き誇り、時折小鳥のさえずりも聞こえてくる。目の前に横たわる山脈は麓から頂上まで常緑の葉が覆い、おおよそ【魔女】が根城にしているとは思えない穏やかさだった。生い茂る木々の間に荘厳な滝の姿も覗いている。
【魔女】の影響なのか、自然が作り出しているのかわからないが、清浄な空気に辺りは包まれている。拍子抜け、というよりもただただ圧巻な自然の姿に誰もが息を飲んでいた。
「すげぇな……」
誰ともなくそんな言葉が漏れ聞こえるほどに男達は圧倒されていた。すると仲間のうちの一人が草原の上に寝そべった。
「おい、気持ちいいからって寝っ転がるんじゃねーよ。気持ちは分かるけどさ」
和やかに笑いながら彼の方を一斉に向いた。
そこで彼らの顔色が一変した。寝そべった男の首には深々と切り傷が刻まれ、そこから噴き出した鮮血が草を染めていた。すでに彼は事切れていた。
「え……? おい!」
フリッツが彼に駆け寄った。同時に背後から「うっ」とか「ギャア」という声が聞こえてきた。仲間が二人、さらに血を出して倒れた。立っている残りの仲間の顔は完全に恐怖に歪んでいた。
この場にたった一人、余裕の表情をして立っている人物がいる。そいつは全く顔馴染みでない。今まさにここに現れたようだった。
「君達のお父さんとお母さんは武器を持って人んちに乗り込んでいいなんて教えたのかな?」
血まみれのナイフを弄んでいるのは若く整った顔立ちの男だった。自分たちとは何ら変わりない普通の男だった。
あくまで上半身は。
彼の二本の脚は獣の脚をしていた。うっすら黄色の毛皮に黒い斑点の付いた、スピード自慢の獣の脚だ。
「悪いけど、こっから先には入れないよ」
その半獣半人の男は地を蹴った。目にも留まらぬスピードだった。
「ぐわぁ」
また一人、二人と奴のナイフの餌食となった。
「ひ……退くぞ!」
フリッツの掛け声とともに残された仲間達は洞窟の入り口へと駆け出した。絶命した仲間を連れて帰るなんて余裕はなかった。
洞窟へ戻る短い距離の間にも半獣半人は何度も追いつき、その度に仲間の命を奪っていった。洞窟の手前につく頃にはすでに仲間はフリッツを含めて三人になっていた。
振り返ると仲間の一人が半獣半人に捕まっていて抵抗していた。抵抗に手こずっているのか、半獣半人は足止めを食らっている。彼を助けるほどの体力も気力もなかった。半獣半人への恐怖がフリッツの気力と体力を奪っていた。
──あいつに悪いが、時間稼ぎしてもらう! ……すまねぇ。
フリッツは残った仲間と洞窟に入ろうとした。その瞬間、大きな羽音が迫ってきた。
グシャッと不愉快な音がした。一緒に洞窟に入ろうとした仲間がその場に崩れ落ちる。その顔は原形も留めないほどにひしゃげていた。
「……逃さん」
そう静かに言ったのは、半獣半人とは別の男だった。そいつもまた人とは言い難い姿をしていた。その男は両の腕の代わりに肩から鳥の翼が生えていた。宙に浮かぶ彼のつま先が血に濡れている。ものすごい力で仲間の頭を蹴り飛ばしたのだ。
フリッツはもはや振り返ることなく、脇目も振らずさっき来たばかりの道を全力で走った。
いったいどのくらいの時間が経過したのかわからない。気が付けば洞窟の外におり、先には「最果ての町」と呼ばれる荒れた町が見えた。
もう彼の傍には共に故郷に帰れる友人は一人も残っていなかった。
***
「友人を唆し【魔女】に挑んで死なせた人間が、おめおめと故郷に帰れようか。残された彼らの家族に会わす顔なぞない。だからといって行く当てもない。彼らの近くで残りの人生を過ごすと決めたのだ。だが」
フリッツはそこで一旦言葉を切った。
「怪物の出現により、俺ができなかった彼らの仇討ちを果たすことが現実になる。あの怪物は【砦】よりもはるかに怪物じみている。化け物の力を以てすれば奴らを討ち果たすことができるだろう。ここまで話したんだ。彼らの無念、晴らしてくれるな?」
「頭に入れておく」
サンダーが答えたのはそれだけだった。
***
その晩、ルムは寝る前にリビングへ向かった。目的は今も部屋に戻らないあの男に会うためだ。
その男・サンダーは相も変わらずソファーに窮屈そうに横たわり本を読んでいる。彼は傍にルムが来たことに気付くと柔らかく笑いかける。
「有力な情報が手に入ったし、明日は準備して明後日かその次くらいには出発をしよう」
「はい」
「体の調子を整えないといけないからな。もうお休み」
サンダーにそう言われてもルムはその場を動かなかった。その様子を不審に思ったのだろう、サンダーは少し首を傾げ「どうした?」と尋ねてきた。
「……今もボクの『死んでほしくない』って言葉、信じていますか?」
サンダーは目を見開いた。横たえていた体を起こしソファーに座り直すと、ルムに隣に座るよう促した。ルムが隣に座ると、サンダーは彼女の顔を覗き込んだ。
「当たり前だろう」
「ですが山脈の【砦】の話を聞くと、簡単ではないはずです。ボクは『魔女の棲む山脈』というのは生きて帰れないものだとずっと思っていて、その覚悟もしていました。それでも貴方には死んでほしくない……」
「ルム、そんな覚悟は捨ててくれ。お前の望む通り俺は死なない。だから」
そこまで言うとサンダーはルムの肩を抱き寄せた。
「ルムも新たに『生きて帰る』と覚悟をしてくれ。俺にばかり『死ぬな』と言うな。呪いを解いて、二人で無事に戻ろう」
ルムは頷いた。彼にばかり「死なないでほしい」と望みながら、自分のことは除外していた。『魔女の棲む山脈』に行ったら自分は死ぬかもしれないとしか考えていなかった。自分が望むように、彼もまた自分に「死なないでほしい」と望むなんて露ほどにも思っていなかった。
「ルムは自分勝手だな。お前が望むものを押しつけて、俺の気持ちは考えずに死ぬ気で【魔女】に挑もうとするなんて」
「すみませんね」
彼は責めるような言葉を口にしたが、顔は穏やかに笑っていた。明らかに年下の未熟者をからかっている顔だ。ルムも彼が自分をからかっていることは察したため、むくれながらぞんざいに謝る。
「反省しているならキスしてくれ」
サンダーはまた意地悪そうに笑い、ルムに顔を近付けた。
「何でそうなるんですか?」
「できないってことは悪いと思っていないんだな? お前に死なないでほしいという俺の望み、生きて帰る覚悟、全部反古にする気だな」
「違います! あー……もう」
ルムはサンダーに迫った。そして今まで彼が自分にしてきたように、彼の唇に自分のそれを重ねた。勢いよく迫ったため姿勢が崩れる。咄嗟に彼の胸に自分の手を当てバランスを保った。
十数秒だろうか。
いや、実際はもっと短いかもしれない。
ルムは顔を離した。
「どうですか?」
やけ気味に言い放ったが、目の前のサンダーの顔を見て驚いた。彼は顔を赤くして口元を押さえている。
「な……何なんですか? やれって言ったのは自分でしょう!」
「いや、口でなくても別に頬でも額でも良かったんだぞ」
その言葉を聞いて、ルムの顔中に血が勢いよく巡った。頬も額も熱くなり、頭の中はグラグラして耳鳴りまでしてきた。
「それならそれを先に……っ」
ルムが全て言い終える前に、サンダーは彼女を抱き締めた。ルムの肩と腰にサンダーの逞しい腕が当たる。
「……ずっと我慢してきたが、もう耐えられない。俺は、お前を抱きたい」
「はっ?」
彼の言う「抱く」は単純にハグするという意味ではないはずだ。それなら今まさにしている。
「もちろん断ったっていい。お前は男で、男に抱かれるなんておぞましいと思っても仕方ないんだ」
ルムは黙った。黙って何て答えていいか考えた。逡巡した。
「……貴方がここ最近リビングで夜を過ごしているのはそれが理由ですか?」
「気付いていたのか。……そうだ。愛しい人がすぐ傍にいて、夜は長いのに手を出さない自信がなかった。お前がまだ俺を受け入れていないことはわかっていたから」
「そうですか。そうだったんですか」
サンダーの答えで腑に落ちた。合点がいった。自分の中にある気持ちが一つに繋がった。
「ボクは貴方に何か嫌われるようなことをしたのかと思っていたんですよ」
寂しかったのだ。あんなに近くにいた彼が突然自分と距離を置いたことが。
「そんなわけないだろう!」
「ボクは貴方を信頼しているのに」
そう。フリッツを救助する際にあの汚い男達に触れられそうになったときも、サンダーが必ず助けに来てくれると確信していた。
「貴方にとってボクが信頼に足る人物だと思っていますか」
「勿論だ」
「じゃあいいですよ」
「……え?」
サンダーはルムの言わんとすることを理解できていない。
「貴方が我慢していたこと、許可しますよ」
「……何でだ? 嫌じゃないのか?」
嫌だったはずだった。嫌だったのは、再びあの夜が訪れた時におそらく拒めないであろう自分を、想いを認めざるを得ないことだった。すなわち自分はすでに彼を受け入れていたのだ。離れていることが寂しいと思うほどに。言葉を欠いても彼を信頼するほどに。
男である自分が、男の彼に体を許そうとする。今までの自分では絶対に辿り着かない答えだった。騎士としての修行に明け暮れていた学生時代も、級友が異性の目を気にしお気に入りの子の挙動一つに一喜一憂しているのをただ眺めていた。彼らの気持ちは理解できたが、不思議と共感はしなかった。いずれ家を継ぐために仕組まれた婚姻をする、そんな既定路線の自分には色恋に「興味がない」という意味で無縁だった。
恋い焦がれる者に共感できないのも、色恋に興味が湧かないのも、「誰かの心を手に入れる必要は無かった」から。そのように生きてきた自分が、自分を見て欲しい、寂しい思いをさせないで欲しい、そんな風に「誰かの心が欲しい」と思ったのは初めてだった。サンダーが初めて自分にそう思わせた。
ボクらしくない、とルムは思った。
だがただひとつ言えるのは、一人の人間として彼を受け入れた。なくしたくない。そのふたつの想いが自分の中にあることだった。男とか女とかじゃなく、そういう枠を越えて彼を見ている。その上でアリかナシかだったらアリだっただけの話だ。
「貴方はボクが貴方を『受け入れないうちは何もしない』って言ってたじゃないですか。貴方のことを受け入れちゃったんだからしょーがない! 男に二言はないでしょう!」
ルムは早口でまくし立ててるうちに自分で何を言っているんだかわからなくなってきた。
だけど。
この先、とてつもなく危険な旅になる。この元気な彼を見るのがもしかしたら最後になるかもしれない。自分が信頼した人と、自分を愛してくれた人と、会えなくなるかもしれない。そう考えると彼への想いを認めないときっと後悔する。
「……そんなこと言って、後悔しないか?」
サンダーは確認を重ねる。ルムはどちらの後悔がマシなのか、すでに決めていた。
「しつこいですねぇ。ボクの気が変わっても知りませんよ」
言った直後にルムは「しまった」と思った。サンダーに指摘された「言い過ぎ」を懲りずに繰り返してしまった。恐る恐るルムはサンダーを見上げた。呆れられたかも、言葉通りに受け取ってしまったかも。そう不安に思った。
しかしサンダーは吹き出し、また困ったような笑顔を見せた。
「そうだな。ルムの気が変わってしまったら千載一遇のチャンスを逃してしまう」
そう言ってサンダーはルムの額に自分の額を合わせた。彼はルムの本心も不安も見抜き、彼女の不安を取り除くような行動を取ってくれた。少なくともルムにはそう感じられ、それがルムに安心感を与えていた。
「それよりも、ですよ」
ルムは真剣な表情を作り、サンダーを見上げた。
「ボク、『元』男ですけど。それでも構わないですか?」
サンダーは柔らかく笑った。
「何度聞いたって答えは同じだ。全く構わない」
彼の返事に口元が緩む。それを気取られてはなるまいとすぐに口を堅く真一文字に結ぶ。
「では部屋に移ろう」
サンダーはルムに微笑みかけ、軽々と彼女を抱き上げた。
***
おさげの少女と戦った日のあの晩よりも、サンダーはもっとルムが気持ちいいと思う場所に直接触れた。
あれほどまでに言い切ったもののまだ腹を括り切れていないのだろう、戸惑いながら喘ぎ体をよじる彼女の姿が余計にサンダーの欲情を煽る。
「わかるか、自分の体がもう受け入れる準備が出来ているのが?」
「ひぃぃ……そう、なんですか?」
自分の体の変化に頭がついていっていないようで、ルムは情けない声を出しながらサンダーに確認する。
彼女の上にゆっくりと乗りいざ中に入ろうとすると、ルムが悔しそうな顔で歯を食いしばっていることに気が付いた。
「どうした? ……やっぱりやめるか?」
「そうじゃありませんが……」
言葉とは裏腹に悔しそうな表情は消えない。さあどうしたものか、とサンダーは首を捻る。
だがサンダーが何かを尋ねる前にルムが口を開いた。
「うぅ……騎士ともあろう者がこんなふうに組み敷かれるなんて……」
サンダーは耳を疑った。こんな時まで騎士の誇りを掲げるのかと。組み敷かれるとは、戦いじゃないのだ。いや、ある意味では戦いなのかもしれないが。つまりルムは下になることで敗北した気になっていたのだ。
同時に可笑しさと共に愛しさがこみ上げてきた。これぞ自分が愛した気高く、そして意地っ張りなルムだと。
その行動を選んだのは、彼女の意志を尊重したのと、ちょっとの意地悪な気持ちから。
サンダーはルムの腰をしっかりと手で支えるとそのまま転がり、上下を逆転させた。自分の体の上に彼女を跨がらせ、見上げた。
「初めてなのに騎乗位がいいとは剛毅だな」
「え? ちょっと? どういうことですか?」
ルムはサンダーの上で戸惑いオロオロしている。可愛かった。やめるわけにはいかない。ひとつになりたい。
「いくぞ」
サンダーは自分が満面の笑みであることを自覚していた。
最中に振り撒かれる彼女の甘い香りが自分の身も心も満たしていった。
***
ルムは子猫のように小さく丸まって眠っている。先ほどまで見せていた艶めかしさは消え失せ、すっかり元の幼い少女に戻っている。
──元々は男なのに……
そんな眠りこける彼女の頭を撫でるサンダーも激しい睡魔に襲われた。
こんな満たされた夜はあっただろうか。
そう思いつつ彼もまた夢の世界へ誘われた。




