藻搔き続けること~スピンオフ~
<失われた記憶と過去の罪>
例の飛行機ジャックの事件から一夜が明けていた。人気のない路地裏に、パトカーのサイレンだけが響き渡る。
「こちら”井上”。現場に到着しました。若い男性を一名発見。壁にもたれるようにして座っています」
通報を受けて辺りを巡回していた警察官の井上が、路地裏に若い男性がいることに気づいた。無線で連絡を取りながら、男性に一歩ずつ近づいていく。
「お兄さん、大丈夫ですか?」
井上が、男性の肩を軽く叩きながら聞いた。
「え?僕ですか?」
男性は顔を上げて、井上のことを見た。
「ええ。自分のお名前言えますか?」
井上は冷静に男性に名前を尋ねた。
「えーっと、分かりません……」
「身分を証明できるものありますか?運転免許証とか」
井上が続けて聞いた。
「は、はい。これです」
男性はそう言って、ポケットから運転免許証を取り出して井上に見せた。
「”松田匠海”……。あなたは松田匠海ですか?」
井上は運転免許証を見て驚愕した。ありえないと思い、男性に何度も問い直したが、この男性は間違いなく松田匠海だった。
「こちら井上。路地裏にて発見した男性の身分証を確認したところ、指名手配犯の松田匠海であることが判明。一時的な記憶喪失の疑いあり。応援を要請する」
井上は無線で本部に応援を要請した。
「あれ……」
井上が無線で連絡を取るために一瞬だけ目を離した隙に、その場から匠海の姿がなくなっていた。




