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ランキング戦準々決勝。
帝都探索学園のグラウンドは、すでに異様な熱気に包まれていた。
「クラッシャー」相原悠真――無傷で勝ち上がった一年生。
その存在はもはや学園の枠を超え、SNSや配信サイトのトップを飾っていた。
《#クラッシャー無双》《#一年でベスト8》《#無傷伝説更新中》
誰もがその名を口にし、そして――彼の次の試合を待っていた。
巨大モニターに次のカードが映し出される。
《準々決勝 相原悠真 vs フォン・リーメイ》
会場全体がどよめいた。
リーメイ。十支族・フォン家の本流。
「振動掌破」の異名を持ち、触れたもの全てを内部から破壊する。
「ついにリーメイか。あの振動掌破の女。」
黒瀬が腕を組みながら呟く。
「物理系最上位だぞ。触れた瞬間に内臓まで砕かれるって話だ。」
「彼女はフォン家の本流。十支族の中でも“技と理”を両立させたタイプだ。
攻撃も防御も、《振動操作》で完璧に制御する。あらゆる物質を崩壊させる拳。」
「……でも、あの悠真が相手なら」
凛の言葉に、外村が笑う。
「学園最強の拳法家vs世界最強の物理。これ以上の見世物、ねえな」
悠真は立ち上がり、軽く息を整えた。
「この前、合同任務のときに少し戦ったけど……あれは遊びだった。
今度は、本気でぶつかってみたい。」
静かに拳を握る。
その仕草だけで、周囲の空気が変わった。
観客席では《物理頂上決戦!》《クラッシャーvs振動掌!》の文字がトレンドのように飛び交い、
アナウンサーが興奮した声を張り上げている。
全国中継のカメラが回る中、アリーナの照明が落ちた。
無数のドローンライトが空中に円を描き、
その中心に――悠真とリーメイが立つ。
リーメイはチャイナ装束を改良した戦闘服を纏い、
手のひらを合わせ、礼の姿勢を取った。
「……あなた、ずっと破壊してばかりネ。今度は、破壊される番アル。」
「――見せてくれ。世界最強の拳法を。」
二人の視線がぶつかる。
審判の手が上がる。
「――開始ッ!!」
瞬間、空気が弾けた。
リーメイが地を蹴り、音を置き去りにして踏み込む。
地面が波打ち、砂塵が跳ねる。
同時に悠真の身体がわずかに揺れ、踏み込み――拳が交わった。
爆音。
観客席の幕が揺れ、鼓膜を打つ衝撃。
実況《な、なんだこの音圧!?》《地面が波打ってる!?》
リーメイの拳は、触れた瞬間に微細な振動を送り込む“殺拳”。
筋繊維を内側から断ち切る一撃――。
だが、悠真の皮膚が淡く光を放ち、
その衝撃を吸収して弾き返した。
「……今のを受けて、無傷?」
リーメイの目が細くなる。
悠真は肩を回しながら答えた。
「……ああ。けど、まだ始まったばかりだろ?」
二人の足元で、地面が低く唸った。
まだ、初撃だというのに。
リーメイが一歩、地を踏み鳴らした。
足元の床が低く唸り、衝撃波が同心円状に広がる。
それだけで砂塵が吹き飛び、観客席が微かに揺れた。
「行くアル!」
再び踏み込み――今度は見えない。
衝撃が、空気を媒介せず直接届いた。
悠真は片手でそれを受け止める。
指先に走る圧。骨の芯まで震えるほどの高周波振動。
リーメイの拳法は触れるだけで砕く技。
拳が掠めただけで、岩壁を貫く。
そのはずだった。
悠真は一歩も動かない。
次の瞬間、逆に踏み込む。
拳と拳が衝突。
轟音。
観客の髪が揺れ、結界が波打つ。
白光の中で二人の姿が消え、視界には閃光と衝撃しか残らない。
《な、何発殴り合ってんだ!?》《音が遅れてくる!?》《結界が鳴ってる!!》
教師席がざわめく。
篠原がモニターに目を走らせながら叫ぶ。
「結界の揺れ方が異常だ! 衝撃が空間全体に反響している!」
拳の応酬は、もはや人間の動きではなかった。
リーメイが下段から蹴り上げる――地面を砕く。
悠真はそれを真っ向から受け止め、逆に拳で叩きつける。
金属音のような衝撃が何度も鳴り響く。
(……信じられない。私の衝撃を……逆に返してる?)
リーメイは息を整える間もなく、再び構えた。
「《双震連脚》!」
二重の衝撃波を脚に纏い、連撃を叩き込む。
だが――その足が止まった。
悠真の拳が、まるで先に動きの結果を読んだかのように迎え撃つ。
拳と脚が衝突した瞬間、衝撃波が逆流。
リーメイの腕が一瞬だけ痺れ、表情が強張った。
「……信じられない。私の衝撃が伝わらない……?」
悠真が静かに応じる。
「振動ってのは、伝わるから壊れる。
でも俺は――伝わらない側みたいだ。」
その一言のあと、空気が重くなった。
観客も教師も、息を呑む。
リーメイは拳を構え直した。
「……面白い。なら、もう一段上を見せてあげるアル。」
悠真は短く息を吐く。
「いいだろ。全力で来い。」
二人の間で空気が弾け、リング全体が低く唸った。
次の瞬間、二人の姿が完全に消える。
音だけが、遅れて響いた。




