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 学園全体が、まるで祭り。

 通路を埋め尽くす生徒たち、屋台のように並ぶ出店、巨大スクリーンに流れる配信映像。

 ランキング戦は、すでに日本中で知らぬものはいないほどの大イベントになっていた。

 悠真の四回戦。

 対戦相手は、三年のAランク探索者――高村蒼士(たかむら・そうじ)。

「防御最強か……学園、バランス考えてんじゃん。熱いマッチだ」

「悠真の力が試されるな」

「気をつけて。彼の《絶対防壁》は、ただの壁じゃない

 攻撃を跳ね返し、攻撃にも転じる“動く防御”。最高のファランクスよ」

「……うん。今回も、全力で行くよ」

「お前の“全力”が一番危ねぇんだよ!」

 外村の声に、控室の空気が一瞬だけ和む。

 しかしその笑いの裏で、誰もが理解していた。

 この一戦は、ただのバトルではない。

 最強の防御と最強の攻撃、頂上決戦のようなものだ。



 アリーナが静まった。

 リング中央に立つのは高村蒼士――銀灰色の髪を後ろで束ね、静かな眼差しを向けてくる。

 大盾も武器もない。ただ、両手を広げて立っているだけだった。

「君の戦い、見ていたよ。圧倒的な破壊力だ。

 だが俺の壁は、突破されたことがない。生半可な攻撃じゃ壊れすらしない。」

「…それは、ぜひ試してみたいよ」

 悠真の瞳が静かに光る。

 観客席が一斉に沸いた。

《破壊と防御の頂上決戦だ!》《クラッシャーvs鉄壁!》《Aランクの壁、どうなる!?》

 審判が手を上げる。

「四回戦第五試合――開始!」



「展開――!」

 光の壁が次々と展開された。

 高村の周囲に数十枚の結界板が重なり合い、半球状の防御陣を形成する。

 それはただ静止しているだけでなく、ゆっくりと回転し、層の密度を変化させていた。

 まるで巨大な機構生物のように、呼吸する。

 悠真が軽く踏み込み、拳を放つ。

 ――鈍い音。

 光壁に触れた瞬間、衝撃は霧のように吸収された。

 波紋が走り、壁がうねる。

(……これがAランクか。まるで空気を殴ってるみたいだ)

「俺の壁は、すべてを吸収する。打撃も、熱も、音も。

 物理現象そのものを変換していく構造体だ」

「……すごいな。けど、俺も止まる気はない」


 拳が唸る。

 衝撃波が走るたびに、リングが抉れた。

 しかし壁は再構築を繰り返し、光を帯びて再生していく。

《音が消えた!?》《空気が震えてる!》《壁が生きてるみたいだ!》

 観客席のざわめきが遠のく。

 教師席では、データモニターが赤く点滅していた。

「展開速度が異常だ……」

「再構築か?いや、違う。これは、壊される前提で再展開してる……!」

 高村の声が響く。

「お前の力は確かに異常だ!

 この速度で防壁を削る奴なんて初めてだ!

 だが、届かせない限り――勝ちはない!」

「……いいね。そういうの、嫌いじゃない。」

 悠真が拳を握り直す。

 「全力で行かせてもらう!」



 次の瞬間、空気が変わった。

 悠真が前傾姿勢を取ると、観測カメラの映像が一瞬、途切れる。

 そして――音が消えた。

 壁に拳が触れた瞬間、光も風も止まる。

 まるで時間そのものが拒絶されたように。

 次の瞬間、防壁が粉々に砕け、閃光とともに霧散した。

「……壁が……消えた……?」

 高村の声が震える。

 彼の視界には、拳が届いた軌跡すら残っていなかった。

《壊したんじゃない!?》《いや、展開速度を超えた!?》《壁が逃げてる!?》

 悠真は拳を下げたまま、息をつく。

(…まだ、いける。もっと早く...!)

 瞬間、悠真の体が弾けた。

 風圧が地をえぐり、足元の床が爆散する。

 次の一撃が放たれるより先に、高村の防壁が反射的に再展開する。

「《多層防壁――最大出力!》!」

 幾重にも重なる光壁が光速で組み上がり、分厚い結界が環を成した。

 その数、100。

 かつて一度も破られたことのない絶対防壁。

 だが――悠真の破壊で一気に数枚が、音もなく粉砕された。

 破壊音すら追いつかない。

 爆裂でも斬撃でもない、存在が押し潰されるような力。

「展開速度が――追いついていない……!?」

 残る防壁が、自動再生を試みる。

 だがその瞬間、悠真の拳が――光そのものを断ち切った。

 破片が霧のように溶け、空間が一瞬、静止する。

「っ……届く、な……!」

 高村が身を固める。

 しかしその反応より早く、悠真の拳が目前にあった。

 寸前で止まる。

 拳圧だけで空気が弾け、高村の髪が大きく揺れた。

 沈黙。

 観客全員の呼吸が止まる。

 やがて、高村の足元の地面が音を立ててひび割れた。

 多層結界の名残が霧散し、粉塵の中で悠真の姿が浮かび上がる。

 拳はまだ止まったまま。

「……勝負、あり!」

 審判の声が、遅れて響いた。




 審判が声を上げた。

「勝者――相原悠真!」

 歓声が爆発する。

 高村は壁の残光を見つめながら、ゆっくりと立ち上がった。

「……すげぇな。防ぐ間もなかった。

 でも、お前の力……十支族をも超えてる。

 何が、その源なんだ?」

 悠真は答えられなかった。

「……俺にも、わからないんだ。」

 高村は目を細め、口元にかすかな笑みを浮かべた。

「そうか。事情は知らないが、見つかるといいな。俺も、次は負けないよう鍛錬しなくては」

 静かにリングを降りる彼の背中には、敗北ではなく確かな誇りがあった。


 別室モニター。

 リーメイが腕を組み、無言で映像を見つめていた。

 壁が崩壊する瞬間、彼女の瞳が光を反射する。

唇に薄い笑みを浮かべ、つぶやく。

「――次は、私の番ネ。」



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