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 午前の授業、俺は「異能学概論」という選択授業を受けていた。

 教室のスクリーンには、系統分けされた異能のチャートが映し出されている。

 いつもなら半分は寝ている生徒も、この授業だけはみんな前のめりだった。


「――異能は、大きく三系統に分類される」

 教師が指し棒でチャートを叩きながら語る。

「一つ目は《物理系》。肉体を直接強化する《筋力強化》や《身体能力上昇》、あるいは《硬化》や《振動》のように物理法則を応用するものだ。探索者の基礎ともいえる能力だな」

 スクリーンには筋肉を誇示する男のイラストが映る。

「二つ目は《属性系》。火・水・風・雷といった自然現象を操る能力だ。戦闘で最も派手で、アタッカーとしてもかなり優秀だ。チームの要と言っても過言ではない。」

 生徒たちの目が輝く。《炎操作》のイラストが火球を放っていた。

「三つ目は《特殊系》。回復や精神干渉、空間操作などの搦め手を含む系統だ。社会的に最も応用範囲が広いのもこの分野だ。医療や建築、防衛――活躍の場は無限にある」


「先生!」前列の男子が手を上げた。

「《硬化》と《筋力強化》って、何が違うんですか?」

「いい質問だ。《筋力強化》は力そのものを底上げする。だが《硬化》は“物体や肉体の強度”を上げる能力だ。筋力強化者が鉄の扉を押し開けるなら、硬化者はその扉を破壊せず耐え抜く。役割が違うのだ」

「へぇ……」と感心の声が上がる。

「次に――ランク制度について説明しよう」

 教師が画面を切り替える。

「異能にはSからEまでのランクがある。

・E:凡庸、誰でも持つレベル。

・D:鍛錬次第で一人前。

・C:一般探索者でも稀少。

・B:学園上位やプロ探索者級。

・A:国家が注目するレベル。

・S:一握りの、国家戦力級だ」

 ざわめきが起きる。

「例えば《筋力強化》Eなら“ちょっと力が強い”程度だが、Sともなれば戦車を素手で押し返せる」

「《炎操作》Eは火花程度。Sになれば都市を焼き払う規模になる」

「マジかよ……」「全然スケール違うな……」

 教室のあちこちで感嘆の声が漏れる。

「そして重要なのは、異能は“成長する”という点だ」

 教師は声を強めた。

「EがDになることもあるし、CからBに昇格した例もある。ただし――最初に与えられた器の上限を超えることはできない。経験値やレベルに似ていると考えていい。だが元の器が大きい者ほど、その先に行けるのだ」

 俺は無意識に拳を握っていた。

(……俺の能力、《身体能力上昇》。最初の水晶判定はS。けど、同じSでもここまで出力が出るって聞いたことない……)

 脳裏によぎるのは、あの下層事故。

 一人だけ無傷で生き残った自分。

 異常個体を殴り飛ばした、自分の拳。

(本当に、ただの《身体能力上昇》なのか……?)

「なお、有名な例を挙げておこう」

 教師がスライドを送ると、十支族の名が並んだ。

「天城家の《結界術》は特殊系の極致。アシュベル・フォン・アイゼンリヒトの《雷槍》は属性系最強の一角。そして――中国のフォン家、《振動》の系統は物理系の最上位に近い」

 クラスがざわつく。「この前ニュースで見た!」「国家戦力級だよな」

 俺は横目でリーメイの姿を思い浮かべ、心臓が少し高鳴る。

 授業の終盤、生徒の一人がまた手を上げた。

「先生、《身体能力上昇》Sの人って……今、日本にいるんですか?」

 一瞬、教室の空気が固まる。

 教師はわずかに目を細めて答えた。

「――もちろんいる。冒険者としても活躍しているな。君たちと同年代でと言われると今のところは相原悠真か。」

 ざわざわとした空気。

 

 授業が終わり、チャイムが鳴る。

 廊下に出ると、上級生たちが話しているのが耳に入った。

「ランキング戦、楽しみだな」

「クラッシャーも十支族も出るらしいからな」

 その言葉に、胸が跳ねる。

(……俺と同じような強化系の能力者がいれば、詳しく話を聞いてみたい。できれば、戦って確かめたい……)




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