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学園の奥にある作戦会議室に、俺は呼び出されていた。
扉の前に立っただけで、胸の鼓動が速くなる。
中から聞こえてくるのは低い声。ギルドの職員と教師たちのやり取りだ。
(……ここからが本番だ。俺は俺のできることをしよう。)
深呼吸を一つして、扉を押し開けた。
室内には大きな地図が広げられ、赤い印がいくつも刻まれていた。
その横で、ギルドの職員が真剣な顔で説明を続けている。
「新宿ダンジョンにて、複数の異常個体が確認されました。
調査のため、学園とギルドの合同パーティを編成します」
集められた生徒はわずか五人。
俺はその中の一人として席に着いた。
天城凛が最初に口を開いた。
柔らかく、それでいて芯のある声。
「相原くん、一緒に頑張ろうね」
微笑みを向けられ、少しだけ肩の力が抜ける。
隣でアシュベル・フォン・アイゼンリヒトが鼻で笑った。
雷槍を背に担ぎ、不敵な笑みを浮かべる。
「足手まといになるなよ、クラッシャー」
その挑発に黒瀬蓮が即座に噛みつく。
「お前が言うな。あの決勝で負けたくせに」
短く火花が散り、教師が慌てて咳払いをして場を収めた。
神谷京介は腕を組み、真面目な声で言う。
「俺が盾になる。だからお前は……壊すなよ」
四人それぞれの視線を受け、俺はゆっくり息を吸い込む。
「……よろしくお願いします」
緊張で手は汗ばんでいたが、不思議と心は落ち着いていた。
会議が終わると、俺たちは部屋を出た。
だが廊下に足を踏み出した途端、すでに噂が広まっているのが分かった。
「クラッシャーが選ばれたらしいぞ!」
「十支族と同じパーティ!? 本当かよ!」
「いや、模擬戦優勝したんだから当然だろ」
「いけるやろ!」
声の洪水に押され、心臓がまた大きく跳ねる。
俺は一瞬立ち止まりかけたが――背中を軽く叩かれた。
振り返ると、真田が遠くから親指を立てていた。
その笑顔に、胸の奥の迷いが少しずつ薄れていく。
五人で並んで歩く。
アシュベルが雷槍の柄を撫でながら、俺に横目を向ける。
「クラッシャー、頼りにしてるぞ」
挑発か、本気か。
でも、その目にはわずかながら期待の色が混じっていた。
俺は拳を握り、小さく頷いた。
(……このメンバーなら……!)
緊急調査へ向け、俺たちは歩みを進める。




