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決勝戦のアナウンスが響き渡ると同時に、観客席が総立ちになった。
「一年の模擬戦もこれがラストか!」
「十支族相手にどう戦うか気になる一戦だな!」
熱狂と緊張が入り混じる空気が訓練場を包む。
悠真は拳を握りしめ、深く息を吸った。
(……黒瀬を超えた。次は十支族……!)
やがて――。
フィールドの向こうから、雷光を纏った影が悠然と歩み出てきた。
バチッ……バチチッ……!
その手に携えられた長槍から、紫電が迸り続ける。
「うおっ……雷だ!」
「あれがアシュベルの雷槍……!」
観客たちの歓声が一段と高まる。
長身の青年、アシュベルは雷を散らす槍を肩に担ぎ、悠真を真っ直ぐに見据えた。
「決勝か。お前が来ると思ってたよ。だが――俺を砕けると思うな」
雷鳴を背に受け、その声音は不気味に冷たい。
審判の合図が鳴り響いた瞬間。
ドン――!
雷鳴の轟きと共に、アシュベルが爆発的な踏み込みで間合いを詰めた。
悠真も同時に踏み出し、拳を振り抜く。
だが――。
バチィッ!!
「ぐっ……!?」
拳が槍と交錯した瞬間、迸った雷撃が悠真の腕を包み、全身に痺れが走る。
体が一瞬、硬直する。
(……これが……! 体が……動かねぇ……!)
雷撃による麻痺。悠真の圧倒的な肉体すら、初めて明確な弱点を突かれた。
「どうした、相原ァ!」
アシュベルは雷を纏った槍を大きく振りかぶり、矢継ぎ早に突きを繰り出す。
悠真が拳を振るえば、
――バチィィィッ!!
雷の壁に阻まれ、軌道を逸らされる。
観客たちは悲鳴と歓声を同時に上げる。
「鉄壁とも黒瀬とも違う!」
「十支族は……桁が違ぇ!」
それでも悠真は下がらない。
(……一撃入れれば勝てる! でも、この雷が……!)
脳裏に篠原先生の声がよみがえる。
「力むな。流せ」
黒瀬との拳の応酬も思い出す。
悠真は腰をひねり、槍の突きを肩で逸らす。
ギィン! 火花が散り、電撃が腕を走る。
「ぐっ……!」
続く横薙ぎを受け流し、ギリギリで回避。
だが痺れが重なり、動きが鈍る。
アシュベルの目が細まる。
「耐えるか。だが、いつまで持つ?」
雷光がさらに強くなり、観客席にまで熱気が押し寄せる。
そして、槍を高く掲げた。
「――雷鳴衝撃」
ドォンッ!!
槍が地面を貫いた瞬間、稲妻が四方八方に奔り、訓練場全体が雷に覆われた。
観客たちは思わず結界にしがみつき、教師陣すら目を見張る。
「結界が焼け焦げてる……!?」
全身に雷を浴びながら、悠真は膝をつきかける。
しかし――持ち直す。
拳を握り直し、歯を食いしばる。
(……雷、厄介だ!さすが十支族、でも、俺は!)
アシュベルは冷笑を浮かべ、槍を構え直した。
「まだ立つか……ならば次で終わらせる!」
訓練場に再び雷鳴が轟き――
決勝戦、激突本番が幕を開けた。




