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 東京本部の広報担当が壇上に立ち、張り詰めた空気の中で告げた。

「――下層転移事故の影響により、本遠征プログラムはすべて中止とします。参加者は本日中に各校へ帰還してください」

 ざわめきが一気に広がる。

「え、もう終わり?」「東京来た意味あんのかよ」

「いや、死にかけただろ。続けられるわけねぇって」

 クラスの誰もが言葉を飲み込み、ちらりと俺を見る。

「……相原がいなかったら、全員死んでたよな」


 その囁きは感謝と恐怖が入り混じっていて、俺の胸を締めつけた。

(……やっぱり俺って異常なんだ。)



 学校ごとにバスが用意され、荷物をまとめる。

 通路ではクラスメイトたちが小声で話し合っていた。

「地元に帰れるのはホッとするけどさ……」

「結局、東京じゃ何もできなかったよな。下層に飛ばされて、相原に助けられて……」

「でも……次もまたああなったら?」

 俺の名前が出るたびに、気まずくなる。

 気さくに「助かった!本当にありがとう!」と声をかけてくるやつもいたけど、やっぱり少しだけ距離を感じてしまう。

(……もう、普通の同級生と見られてない)



 同じ頃。東京本部の別棟、帝都探索学園の控室。

 重苦しい空気の中、議論が交わされていた。

「……彼を、このまま帰すのですか?」

 凛が真剣な眼差しで口を開いた。

「相原悠真。オーガを素手で粉砕。監督冒険者すら押し込まれていた状況で、彼だけが立っていた」

 アシュベルが腕を組み、低い声で続ける。

「規格外だ。少なくとも、ただの《身体能力上昇》ではない」

「我々としても無視できん」

 学園の教師が資料を机に置いた。そこには《相原悠真――スカウト候補》の文字。

「いずれ編入という形で迎え入れ、彼の強さを調べていかなければならない。地方の学校に置いておくには彼のためにも、彼の同級生のためにもならないと私は思う。」

 凛は黙って頷いた。だがその瞳には、純粋な畏怖だけではなく――確かめたい、という強い意志が宿っていた。



 バスの窓から流れる街並みを見ながら、俺は深く息を吐いた。

 東京の喧騒が遠ざかっていくのに、安心はできない。

「……クラッシャーがいなきゃ、今ごろ俺たち……」

 前の席から聞こえた囁きに、俺は思わず苦笑いした。

(俺なんか、ただのお小遣い稼ぎのつもりだったのに……もう引き返せない)



 夜。家に帰り、布団に潜り込む。

 天井を見つめながら、頭の中で今日の出来事が何度も再生される。

(地元に戻れば……普通に戻れる? ……いや、違う。みんなの目が変わってた。俺はもう――)

 同じ頃、帝都探索学園の資料室では、ファイルが机に置かれる。

 《相原悠真・スカウト候補》

 赤いスタンプが押され、その文字が静かに光っていた。



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― 新着の感想 ―
入学して数カ月、ほぼ夏場だと思うんだけど、 布団に潜り込む・・この表現は冬場っぽくって少し暑そう。
武器破壊の常連って情報 地元のギルドから上には あげられてなかったんやろか
親いないんだっけ?
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