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 「――これより、最終確認に入る」

 その一言で、室内の空気がさらに引き締まった。

 会議の端。

 陪席扱いで座る相原悠真は、静かに息を整えていた。

 発言権はない。

 ただ、ここにいる意味は理解している。

 “当事者”として、世界が変わる瞬間を見届けろ。

 それが、篠原から与えられた役割だった。

 凛は悠真の斜め前、現場責任者の席に座っている。

 資料を確認する横顔は冷静そのものだが、ペンを持つ指先だけがわずかに強張っていた。

 彼女もまた、分かっているのだ。

 この決断に、やり直しはない。


 ホログラムの一角で、アメリカ代表が口を開く。

 「発表内容は、先程通りで問題ないな?

 “異世界の存在”と“門の確認”までだ。

 軍事的脅威、強化現象、魔王――その類は一切伏せる」

 フランス代表が頷く。

 「混乱を最小限に抑えるには、それしかない。

 真実を“すべて”語るには、世界はまだ準備ができていない」

 中国代表が低い声で付け加えた。

 「むしろ問題は、語らなかった後だ。

 隠している事実が露見したとき、我々への信頼は致命的に揺らぐ」

 意見は割れている。

 だが、それでも結論は変わらなかった。

 ――今は、これが限界。

 「発表は世界標準時、正午。

 主要言語同時翻訳、全メディア接続。

 質疑応答は二十分で打ち切り。

 以降は“調査中”を繰り返す方針です」

 軍関係者が腕を組む。

 「発表直後、各国でデモ・暴動の可能性あり。

 門周辺の警備は最大警戒態勢を維持する」

 法務担当が続けた。

 「宗教、思想、差別問題……

 “異世界”という言葉一つで、法の想定外が山ほど出ます。

 ですが――もう、止められません」

 誰かが小さく息を呑んだ。

 その時。

 凛が、静かに口を開いた。

 「……確認させてください」

 視線が集まる。

 「明日の発表で、“異世界は存在する”という事実は、

 もう誰にも取り消せなくなる」

 短い沈黙。

 「それでも――進むんですね?」

 篠原は、一瞬だけ目を閉じた。

 そして、はっきりと言った。

 「進む」

 迷いのない声だった。

 「ここまで来て、隠し続ける選択肢はない。

 世界は、もう“門”の存在を受け止め始めている」

 彼は続ける。

 「我々が決めるのは、

 “世界が変わるかどうか”ではない。

 “どう変わるか”だ」


 悠真は、その言葉を胸の奥で反芻した。

 異世界。

 エルテラ。

 魔王。

 ゼロ。

 そのどれもが、まだ世界には伏せられている。

 だが――時間の問題だ。

 悠真は思う。

 (……明日から、もう“知らなかったふり”はできない)

 自分が歩いてきた道。

 見てきた景色。

 命を懸けて踏み込んだ世界。

 それが、ついに“現実”として共有される。


 篠原が、最後に告げた。

 「――発表は、世界標準時12時00分。

 各位、最終準備に入ってくれ」

 会議室の照明が、一段階落とされる。

 ホログラムが次々と消え、

 各国代表の顔が闇に溶けていった。

 残されたのは、静寂だけ。

 凛が、小さく呟く。

 「……今夜は、眠れないわね」

 悠真は、ゆっくりと息を吐いた。

 ――発表まで、あと数時間。

 世界が変わる前夜。

 それは、誰にとっても、

 決して平穏な夜ではなかった。



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