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篠原が円卓の中央に視線を落とす。
「公開する方向で進むとして――次の問題は一つだ」
「何を、どこまで語るか」
その言葉に、誰もが息を整えた。
公開か秘匿か。
それ以上に厄介なのが、情報の“量”と“質”だった。
最初に発言したのは、法務部門の代表だった。
「最低限、事実として認めざるを得ないのは三点です」
ホログラムに箇条書きが浮かび上がる。
・異世界が存在すること
・門が確認されていること
・人類が限定的に接触していること
「これ以上を語る場合、社会的影響が指数関数的に増大します」
軍関係者が頷く。
「特に危険なのは、“強化”と“資源”だ」
「人が強くなれると知られれば、制御不能になる」
研究部門が静かに異を唱える。
「だが、門だけ公表して中身を伏せれば、
憶測が暴走する」
「“行ったら超人になれる”
“異世界には無限の資源がある”
そういう噂の方が、よほど危険です」
広報担当が補足する。
「隠せば隠すほど、
陰謀論が“真実の代替”になる」
議論は、自然と公開レベルの段階分けへと移った。
篠原が指を一本立てる。
「第一段階。
異世界の存在と門の確認のみを公表」
・異世界は存在する
・門は厳重管理下にある
・一般人の立ち入りは禁止
「これなら混乱は最小限だが……」
誰かが呟く。
「納得はされない」
次に、
「第二段階。
限定的な調査と交流が行われていることまで開示」
・国家管理下での調査
・危険性の強調
・安全が最優先であるというメッセージ
広報担当が言う。
「“管理されている”と伝えることで、
不安は抑えられる」
軍顧問が渋い顔をする。
「だが、それでも行きたがる者は出る」
そして、三本目の指が立ち上がる前に、
円卓の空気が一段重くなった。
「第三段階――」
篠原は一拍置く。
「人類が強化される可能性」
「異世界資源の存在」
この言葉が出た瞬間、
明確な反対が上がった。
「早すぎる!」
「社会が壊れる!」
「国家間の競争が始まる!」
篠原はそれを制し、続ける。
「――これは、今は伏せる」
会議室に、安堵と緊張が同時に広がった。
凛が確認するように言う。
「つまり――
異世界は“ある”とだけ伝え、
“行けばどうなるか”は語らない」
「そうだ」
篠原は頷く。
「希望も、恐怖も、
具体像を与えなければ暴走しにくい」
最終的に、方針はこうまとまった。
公開する情報
・異世界の存在
・門の確認
・国家管理下での限定調査
非公開とする情報
・個人の強化現象
・具体的な異世界文明レベル
・魔王・魔族の存在
・詳細な軍事・資源情報
篠原が結論を告げる。
「世界には、“入口”だけを見せる」
「中身は、我々が管理する」
会議室を包む沈黙。
それは、決断の重さそのものだった。
(……異世界は、まだ“遠い話”のまま)
悠真はそう感じる。
だが同時に理解していた。
これは嵐の前の静けさだと。
次に来るのは――
“どう伝えるか”ではなく、“誰が語るか”。
会議は、最終段階へと進んでいった。




