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43 フルール子爵邸

「リナーチェ、見なさいこれを!」


パーティーから帰ってきたリナーチェを出迎えたのは父親のフルール子爵であった。

いつもより脂ぎった額がさらにぎらついている。

指し示したのは、以前よりさらに積み重ねられた箱の数々であった。


「なんと侯爵様が直々にお越しになってな、アリーシアを連れて行くと仰ったんだが…」


ひげがわずかに残るあごを揉みながら口角をあげつつもわざとらしく眉尻を下げる。


「私は娘はパーティーに行って不在だとお伝えしたんだ。それではそこで連れて行くといって、これを」


軽くポンと箱を叩く。


「ほんの気持ちだと仰って、置いて行かれたんだよ。いやぁ、さすがは侯爵様だ。話のわかる方だそう思わんか?」


赤毛の口ヒゲに唾を飛ばしながら笑い飛ばすご機嫌な父親の姿に


(都合のいいときだけお姉さまを娘扱いするのね)


渇いた笑いをこらえながらリナーチェは不安そうに口元を抑える。


「…でもお父様…そんなご立派な御方の相手にお姉さまが務まるかしら…」


浮かれた気分にまるで水をさされたかのように子爵は眉根を寄せる。


「ふうむ…確かに70歳は越えたお方だと聞いてはいたが…思っていたのとはだいぶ違っていたなあ…」


てっきり息子か孫が代理で来たのかと子爵は勘違いした位である。


「だからあたし、お姉さまの様子を見に行ってみようと思うの」


そのしぐさは小首をかしげてとても愛らしい。


だが子爵はめんどくさそうに手を振る。


「お前がそんな事までする必要はない。それよりもマルク様との結婚の準備が先だ」


子爵にとっては姉は侯爵家、次女が伯爵家に嫁ぐとなれば家格があがる事は間違いないのである。

貴族にとって婚姻関係で交流の幅を広げる事は非常に重要な事だ。

相手の容姿が美しければなお有利である。


生まれた子供が恵まれていれば、嫁に出した家も大いに利を得るのだから。


リナーチェは頭の中で舌打ちをしたが、これ以上は何も言えなかった。


(まあいいわ、どうせ侯爵様だってあたしを絶対に好きになるもの!)


醜い姉を選んだ間違いにすぐ気づくはず。

そうして侯爵様にマルクとあたしの婚約を破棄するようお願いすればいいのだ。


この国は全て格上に発言権が委ねられている。

格下に拒否権などない。

同格である場合は、守法院という所で裁定が行われる。

しかしそれも賄賂次第という、どこまでも富が物をいうのだ。


(そして捨てられたお姉さまはあたしが優しく拾ってあげるの)


見知らぬ土地に追いやるなんてひどすぎる。


(そうね、いままでみたいにあたしのメイドとして雇ってあげようかしら)


リナーチェは鼻歌と共に軽やかに廊下でステップを踏んだ。


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