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41 侯爵邸(2)


お風呂上がりのアリーシアは再びメイド達にかしずかれた。


鏡台に座らせられ、水色の髪のメイドが丁寧に慣れた手つきで緑風石を封じた金属の缶のようなものをあてながら手早く髪を乾かしていく。


不思議な気分だった。ひどく醜く忌まわしいとされるこの白い髪にも、メイド達はいささかの嫌悪もなくただ職務に忠実であり、驚くほど細やかな気遣いに溢れている。


子爵邸の使用人とはまるで違う。


そうして念入りに手入れをされたアリーシアはなめらかな肌とつややかな髪、そこかしこから漂う良い香りで満たされて、鏡に映る自分が自分ではないような、ぼんやりとした心地になっていた。


バスローブのままのアリーシアの前にメイド達が交互に着替えの服を進めてくる。

それはおそらく眠る時用なのであろう、なぜかひどく薄くて透けたものが多くてアリーシアは静かに首を横に振った。

二人目のメイドが進めてくるそれも薄い紫色の透け感に、なぜかやたらとリボンやらフリルやらがふんだんにあしらわれていて、正直寝苦しい気しかないのでそれも静かに首を横に振った。

三人目のメイドが進めてきたのはようやく透けてない薄い水色で長い裾のある簡素なものであったので、アリーシアは頷いた。

選ばれなかったメイドの二人はなぜかしょんぼりと気落ちしているようだ。


ようやく一息ついてアリーシアはソファに座って寛いだ。


一人のメイドが盆を持って静かにそのテーブルの上に軽食のようなものを置いていく。

それは瑞々しいフルーツを薄いパンで挟んだものである。

あまり空腹は感じないが折角用意してもらったのでひとくちかじってみると溢れる酸味と甘みが広がりとても美味しくて、疲れが癒される気分だった。

そうして、メイド三人に


「ありがとう」


と心から感謝を述べた。


はっ、とした三人のメイドは一様に顔を伏せはにかむようなしぐさを覗かせる。


ほどなくしてメイド達は退室し、アリーシアは部屋に一人になった。


窓の外はすでに暗く、月は天高くおぼろげな光をまとって浮かんでいる。

炎力鉱を封じているのであろう、所々についている部屋の明かりをアリーシアは消していった。

部屋は月明りと鮮やかな薄い水色の壁色で夜でもうっすらと明るい。


アリーシアはようやく深いため息をついてソファの背もたれに身を預けた。


(侯爵も邸宅の人々も、なんて親切な方々ばかりなのだろう…)


ふいにリナーチェの言葉が頭の中に響く。


(そうだ…閣下にはもう本妻の女性がいるのだ)


ふっ、と身を起こした。


もしかして…と思う。閣下はその本妻の女性と今は離れ離れか共に暮らせない事情があるのかもしれない。

そこで体裁を整えるために私が選ばれたのではないだろうか?


(けれど、あえて私のような者を選ぶ必要があるだろうか…)


噂では侯爵は長く他国に遊学し、そしてそこで婚姻したという。

であればその女性は私のような白い髪の持ち主であったのかもしれない。

この国で白い髪の女性はそう多くは無いのだから。


(なるほど、そうか、そういうことなのか)


アリーシアは頷いた。


それでメイド達も執事もとても親切に気遣ってくれているのだ。


奥様と呼んでいるのは、私がその代役であることを理解している、もしくは侯爵が言い含めてあるのだろう。


ならばその代役を私も誠心誠意勤めなければならない。


そしてその女性が邸宅に帰って来た時のために私自身もなにか役に立って、そう、出来れば賃金でも貰える事になればそれでここを出た後もなんとかなるかもしれない。


アリーシアは静かに首を振る。


焦ってはいけない。そうだ、気づけて良かった。

愚かな勘違いに自ら気づけた事は不幸中の幸いである。


そうするとあの大きな寝台で眠るのは憚られる。

この行き届いた美しく素晴らしい部屋の本来の主人は決して自分ではないのだ。

得体のしれない娘が寝てしまってはいずれ帰ってくる本妻の女性がきっと良い顔をしないだろう。


アリーシアはそのままソファで眠る事にした。




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