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39 リナーチェの誤算(2)


アンソスは驚愕した。


そして今は広間から個室へ向かう人気のない廊下のカーテンの影で、一人顔面を蒼白にし震えている。


このパーティーはアンソスの弟が主催しているものである。

アンソスはこの国の唯一の眷属である。その親族は全て最上級の貴族としておもうがままに権勢を誇っていた。

眷属の傍若無人さは目に余り、女王の再起を促す保守派も貴族の中にはいた。だがいつのまにかそうした発言をする者は王宮から姿を消していった。


ゆえに誰もアンソスにもの申す者は自然といなくなっていった。


親族のパーティーにはたびたび顔をだす事があった。好みの女性があれば傍に何人でも侍らせていたからだ。そして選ばれた女性はその家とともに権力と富を約束される。

このパーティーに出席する女性はほぼ、アンソス目当てで来るのである。

そしてリナーチェもそれは例外ではなかった。


だが


(女王だ…!!あの女は女王だ…!!)


今日も戯れにパーティーに顔を出す予定だった。

広間に入る通路の先に、一人の薄紅色の髪の女が目に入った。

泣いてマルクにぐずるリナーチェの姿である。


それは稲妻が走るかの如き確信、一目でアンソスは気づいたのだ。


そして素早く踵を返して、今ここにいる。


ともかく早くこの場を去る事にした。

広間にはアンソスの入場を心待ちにする貴族で沸いていたがついにその姿を見る事は無かった。


王宮に戻ったアンソスは勢いよく自室の扉を開ける。

そこにはしどけない姿の若く美しい娘たちがその寝台でアンソスを待っていたのだろう、甘い声で誘いはじめた。


「うるさい!出て行け!!」


手を振り、乱雑に追い払う。


悲鳴を上げながら娘たちは着の身着のまま追い払われた。


扉を固く閉め、アンソスはその場で頭を抱えて座り込む。


(どうする…どうすればいい?!)


この10年、この国を支え治めてきたのはアンソスである。

今更女王を迎えて、これまでの権勢を得ることが出来るだろうか?

それはない。あの女王にかぎってそれはない。


移り気で薄情な女王はこれまでいくども眷属の座をすげかえてきたのだ。


(ようやくここまで上り詰めたのに…!)


頭をかきむしって、嗚咽を漏らす。


…だが、ふと、その脳裏に一つの結論が浮かび上がった。



(殺せばいいのだ…)



女王に覚醒する前に、あの女を殺してしまえばいいのだ。

覚醒する前に命を落とした場合、それはもう二度と、転生する事は無い。


ふらりとアンソスは立ち上がる。


(そうだ…もうこの国に)



碧の眼が刃のごとく鋭くきらめき、口元は弓なりに吊り上がる。




(女王など、必要ない)





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