終章②
――たくさんの人の愛情を受けて育った明日歩も五歳になり、優しいというよりもひ弱な子になってしまい二人の頭を悩ませる、第一歩がこの晴れの日、入園式。
フリルやレースをふんだんにあしらわれたワンピースに、髪はカールを施した奈緒のその横で、ビデオカメラを入念にチェックしながら、息子の登場を待つ歩の姿があった。
煌びやかに着飾る父母の中でも、奈緒に勝る者はいない。
それだけでも目立つというのに、その隣にちょっといい男が居るというだけで、会場に居合わせた人たちの注目を、一身に集まる。
当の本人は、そんな事に目をくれている余裕がなかった。
明日歩の晴れ姿を、撮りそこなっては大変だ。
子供の成長を見るのは。胸が熱くなる。
歩の目は赤くなっている。
可愛らしい曲が流れ、一斉にカメラを構える父母。
先生に連れられた子供たちの入場が始まった。
訳も分からず、汽車を作らされ歩く子供の中で、一際、明日歩は目立っていた。
誰も泣いていない中、一人だけ号泣をしているのだ。
明日歩にとって大試練のようだ。
式は涙の中、無事終了。
泣き疲れた明日歩をおぶった歩はつくづく軟弱に育った息子の行く末を案じ、ため息を漏らす。
「この子、大丈夫かしら?」
奈緒が呟くと、歩は微笑んだ。
「オレと奈緒の子だ。ヒーローとヒロインの子供が、このままで終わるわけないさ」
そう言ったものの、策を練る必要はあると歩は思案する。
歩はずっと考えていた。
自分も一人っ子だから、その軟弱な部分が分かる気がするのだ。
特に明日歩の周りにはやたらと世話好きな大人が多過ぎた。
「奈緒、相談があるんだけど」
明日歩を寝かしつけて戻ってきた奈緒に、歩はここに座ってと自分の前を指差す。
「何?」
「明日歩に柔道を習わせようと思うんだけど」
歩はもう、道場を見つけてあった。幼稚園に通い始めたらすぐに始めさせるつもりで、体験させてもらう手はずも整っている。
明日歩は買い物だと聞かされている。今日は歩の仕事は休みの日だ。
明日歩は帰りに、公園に連れて行ってもらう気満々だった。
昼間の公園は危険地帯だが、夜は貸切遊園地だ。これは歩にしか頼めない。奈緒は夕飯の支度がある。
明日歩は覚えたての歌を、歩に披露する。
「おお。明日歩は歌が上手いな」
歩に褒められて上機嫌の明日歩が一変したのは、原田道場の看板を見た瞬間だった。
中からは、気合入れの声が漏れ聞こえしている。
明日歩は歩の後ろに隠れた。
「この子ですか。体験されるのは?」
鬼瓦のような目がジロッと明日歩を見た。
明日歩はギュッと歩の背中を掴んだ。
明日歩は悲鳴をあげ泣き叫ぶ。
これでは体験どころか練習は無理と鬼瓦は歩に言った。
二人の早い帰りに、奈緒は溜息を吐く。
「駄目だったの?」
「ああ。ご覧のとおりだ」
明日歩の顔は涙の跡がくっきりと残っていた。
歩はそっと抱きかかえるように明日歩を自転車から降ろすと、頭をゴシゴシと撫でる。
「オレの子だ。一筋縄ではいかないのは仕方がない」
歩は諦めなかった。
次にアイスを買ってやると誘われて、明日歩は幼稚園の帰り道、歩の背中にしがみ付いた。
幼稚園の送り迎いは、歩の仕事に変わっていた。
「ねぇ父ちゃん、こっちの道は、お店はないよ」
明日歩は不審がって訊く。




